第7話 あなたの選んだこの時を その7

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 静ちゃんの手伝いも終わり、俺と直はいつもの帰り道をただ歩いていた。


 日は沈みかけており、太陽は半分ほど隠れ。辺りは綺麗な夕焼け空になっていた。


 早いもので、もう季節は秋になって……もうすぐ冬が来る……。


 そしたら、また春が来て……。


 俺たちは、学園での最後の年を迎える。


 そう……直のいない生徒会の一年がーー。


 いや、今はそのことは置いておこう。まずは、長月だ。


 あいつとの件を解決しなければ、それ以上先には進めない。


「直?」

「・・・・・・・」


 相変わらず、無言で歩くこの空気感は辛いものがある。


 いつも、真面目なこともくだらないことでも会話をしていることが多かった俺たちにとってこの静かな空間はあまり居心地の良いものではない。


 だが、俺から言い出すことはできない。今はただ直の言葉を待つことしかできないんだ……。


「・・・・薫」


 ようやく……か。その一言が発せられたことで俺は気を引き締める。


 だが、あくまでもこの時の俺を忘れるな……。


 この時の俺は確かに……動揺していたはずなんだ。



「なっ! なんだ!? 直!!!???」


 わざとらしいかと思える程に、動揺したフリをするこんな小細工本当は必要ないのかもしれない。


 でも……この一見必要ないようなこの過程すら、解決の糸口になるかもしれない。


 そう考えれば、今までの……少なくともこの一年のやり取りは一つとして無駄にはできない。


「……いや……何でもない」

「何だよ、お前らしくないな。あっ! もしかして人員が一人増える話しか? まぁ、順当に考えるなら、長月を生徒会にーーいや、でも、あいつが入ったら色々と今までより厳しくーー」

「今日が何日かわかるか?」


 わかるさ……。お前が、覚悟を決めた日だろ?


 この時の俺、すごく能天気だったんだな……。


「はい? 何日ってーーあれ?」

「答えてくれ。薫、今日は何月何日だ?」

「今日はーー」


 頭に靄がかかり、言葉を失う。


 覚悟を決めて、その後の展開に身を委ねる。


 直の、心配そうに俺を叫ぶ声が遠ざかっていく。


 そして、変わっていく。その声は、直ではない。


 別の誰かだと俺はわかっている。


 ここからが……この出来事こそが、この一年の最後のピースになるんだ。


「♪♪♪」

「ずいぶん、ご機嫌だな」

「そりゃあそうでしょ? もうすぐ、直が僕のものになる……。でも、君がここに来るのは、だいぶ早いんじゃないかい? カオリ」

「俺の名前を気安く呼ぶな、ーーー」

「おっと、これは失礼。でも、そうか……カオルは僕の存在に気づいているんだね?」

「ノーコメントだ」

「その言葉が答えさ。参ったなぁ、これじゃあ直を手に入れるのは苦労しそうだ。あの生徒会もね」

「……楽しそうだな?ーーー」

「そりゃあね、苦労すればするほど手に入れた時の喜びは大きくなるからね」


 やはり、俺はこの男が苦手だ。カオルは、どうしてこんな奴のことまでーー。


「それで? 僕を消しに来たのかい? 今の時期の君なら僕の力を持ってしても勝つことは難しいだろうしね」

「いや、お前を倒すのは次の年だ」


 俺の言葉に、ーーーの口元が僅かに緩んだ。


「へぇー、直を僕から、取り返せるかも知らないチャンスを益々逃すんだね。それは、カオルの意思かい?」

「俺は、あいつを信じてる。だから、あいつの考えは全て俺は受け入れる」

「それはつまり、間もなく別れが来て会えなくなってもかい?」

「……カオルは、もう俺なんか必要ないほどに大きくなった。それは、ーーー、お前のおかげでもある」

「ほー……」

「いいから、今見たく偉そうに玉座であぐらをかいていろ。いずれ、カオルが必ず、お前をそこから引き摺り下ろすからな!!!」


 そうはっきりと俺はーーーに言い放った。


 だが、ーーーは変わらずうすら笑みを浮かべながら俺の方を見ていた。


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