第6話 あなたの選んだこの時を その6

「なら、この議題は終わりにして次の議題に移ろう!!」

「いや、だから……んっ? 次の議題?」

「へー、今日は珍しく随分盛りだくさんな日なのね」

「なんだ? なんだ? 楽しいことか?」

「ふふふ、ずばり! これだぁ!!」


 すっかり先程の議題についての……まぁほとんど何も書いてなかったホワイトボードが消され、新たに『本日の花火大会について』と書かれた。


「花火……大会?」


 予想外な文字の羅列に俺を含めて、全員が小首を傾げる。


「そう! 今日は時期的には、ちょっと遅いこの街の花火大会の日なのだ!!!」


 花火大会って……もう上旬とはいえ、9月だぞ。なんでこの街は今更そんなイベントを……。


「いいんじゃない? みんなでいきましょうよ!!」


 清美が机をバンっと叩き、勢いよく立ち上がる。


「そうね……今年の夏は、誰かさんのせいで特に思い出も作れなかったしぃ……思い出作りにみんなでいきましょうか」


 あのー星奈さん、こちらをちらっと見た後に、その言い方は少々棘がーー。


「そうですね! 先輩の怪我のせいで何もできなかったですし! いきましょう!!」


 晴美ちゃん、棘はないけど、そんなにはっきりと言わなくてもーー。


「なんかよくわかんないけど!! 楽しいのなら大賛成だぞー!!! ねっ、花愛ちゃん!!!」

「うっ、うん……」


 愛花、お前本当に高一レベルまで成長できてるか? 後、花愛! お前最近愛花に流されっぱなしじゃないか!?


 そんなことを考えていると、それぞれ左右からボコッという音と共に2人に頭を殴られる。


「いたっ、何故殴った? 草野姉妹!!」

「なんかわかんないけど、すごく馬鹿にされた気がしたから」

「愛花に同じよ。このゴミ虫」


 勘の良い双子め……。


「とにかく! 今夜は、校門前に集合だ。遅刻した場合、薫は置いていくからそのつもりで! じゃあ今日は解散!!!!」


 直の一言をきっかけに散り散りに皆が生徒会したから去っていく。


 全員を見送り終わったところで、俺はカバンを再び下ろし椅子に座った。


「さて……じゃあ時間までーー」

「薫!!!」


 声がした方を振り向けば、直が鞄を持ちながら立っていた。


「どうしたんだ? 忘れ物か?」

「いや……そうじゃない」

「じゃあ、なんだ?」

「そのっ……まだ、帰らないのか?」

「あっ、あぁ……もう少し雑務を片付けてからーー」

「それは! ……明日じゃダメ、か……?」


 なんだ? 


 どうした? 


 珍しく……はないけど、なんか、今日やたら甘えてくるな。


「何かあったのか?」

「何もないけど……何かなきゃダメか?」


 どうした?


 今日の直、なんか知らんが……。


 めちゃくちゃ可愛いぞ。


「……わかった。5分だけ待ってくれ……」

「んっ、わかった」


 可愛い! なんだ、この可愛い直!! 


 良くわからないが、これはもしや、ついに、俺に対するデレ期が来たのでは!!!


『茶番だな』


 薫(カオリ)が、ため息混じりに呟く。


『カオリ、そう言うなよ。この状態長くは続かないんだから」

『お前、何度か繰り返すうちに楽しんでないか?』

『さぁあな、お前が秘密を抱えているうちは俺も教えない』

『……そうか、まぁ、いいさ』


 そう言うと、薫の声が消える。


 まだ、あいつが俺の中にいる……。


 その事実が、どこか嬉しくもやがて来る……いや、まもなく来る別れへの寂しさを感じた。


「……待たせたな。行こうぜ」

「うん……」


 そう言って、直は黙って俺の後ろを歩き、2人で誰もいない生徒会室を出る。


「でも珍しいな、直から誘ってくるなんて」

「そう、か? まぁ、そうかも、知れないな」

「?」


 直にしては、歯切れが悪い返事が返ってくる。


「あっ、倉沢さん、それと井上くん」

「静ちゃん?」

「良かったーまだ、校内にいて」

「静ちゃん? どうしたんだ?」

「いやーそれがね……」


 帰ろうとしていた、俺たち2人は静ちゃんに空き教室の片付けを依頼された。


「ごめんね〜手伝わせちゃって」

「いやいや、静ちゃんにはいつも何かと助けてもらってるのでーー」

「それ、嫌味?」

「ご自由にとってくれていいですよ。でも静ちゃん、なんでこんな時間にこんなことをしてるの?」

「それがねー、来年度から風紀委員の役割を生徒会が担うことになったのよ」

「「えっ!?」」


 静ちゃんの突然の発言に、俺と直は同時に声をあげる。


「いやね、今の風紀委員って正直、長月さんぐらいしかちゃんと機能してなくて必要ないんじゃないかーって」

「だが、静ちゃんそれでは長月さんはーー」

「で、暇してる生徒会が人数増やして一緒にその役割をすれば良いんじゃないかって職員会議で言われてーー」

「いやいや待ってくれ! 静ちゃん! つまり来年度から長月が生徒会に入るってことだろ? 静ちゃんはそれでいいのか?」

「私は……まぁーいっかーって感じで賛成しちゃったけど。えっ? ダメ?」

「なるほど……」

「静ちゃん、来年からお酒飲むの禁止ね」

「なっ、なんでそんな意地悪言うのよ〜井上君!!」

「長月が入るってことはそういうことなの」

「えっ? 嘘っ!? マジぃ!!??」


「やれやれ」


 わかっていたことだが、これでーー。


「・・・良かった……これで」

「直?」

「何でもない! さぁ、さっさと残りを片すぞ!! 薫」


 今なら、直のこの時の良かったの意味がわかる。そうか……この時、既に直はーー。


「おう」


 あの日のための準備をしていたんだな……。

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