第8話
その夜、私の家に電話がかかってきた。如月からだった。電話番号は姉か誰かから聞いたのだろう。
「こんばんわ、突然かけてすみません。」
外にいるのだろうか、風の音がよく聞こえる。
「どうした?」
「学校の屋上まで来てくれませんか?話したいことがあるんです。」
「え、わかった。30分待って。」
「ありがとうございます、」
そういってプツリと切れた。
こんな夜遅くに娘が家を出るのだ、それなりの言い訳をならべた。
自転車をこいで30分。やっとつく。自転車を漕いでいる間にはなんにも考えてなかった。あまり考えないようにしてた。音楽を聴いて夜に浸る。音楽を聞けば夜は私のだけの世界になってくれる。
学校に着くと不気味だった。それはそれは不気味だった。
屋上には侵入してたが学校にどうやって侵入するのだろうか。
そう悩んでいたら如月がきた。
「屋上いきましょっか。」
といって、校門にとびのってこえる。
私もあとに続いた。
「どうやってはいるの?」
「1つあいてる扉があるんです。」
そう言うと、用務員用の扉を開ける。
そこから屋上までお互い一言も発さなかった。
ようやく如月が口を開く。
「先輩、ちょっと目をつぶっててくれませんか?」
「へ?わかった、?」
とりあえず目を閉じる。
「どうして死にたいのかって聞きましたよね?ほんとにとくに理由がないんです。ないから死にたいのかもしれません。分からないんですよ、この世に自分がいる理由が。ただ、俺の無意味な人生に自分で終止符を打ちたくて。」
そう言う如月の声はどんどん遠くに聞こえてくる。
「先輩だって死にたかったんじゃないですか?本当は。死にたかったけど死ねなかった。」
何回如月との会話で「死」という言葉が出ただろう。
「私はこんな世界でもまだ、未練があった。死にきれなかった。だから、死ななかった。」
目を開ける。
如月は私よりも遠くにいてフェンスを飛び越えようとしていた。
私は走って如月の足を掴んだ。引っ張っけれどビクともしなかった。
「如月!人は誰かに生きていいと言われなきゃ生きていけないのかもしれないけどだったら!だったら、如月は生きていいんだよ!如月ゆかりって人間に価値があるかないかなんてなんてこれからの人生で証明していけばいい。」
如月がフェンスを掴む手を緩めた気がした。
「ねぇ。自殺だとか死ぬだとかそんなことばっか言ってたけどさ、わたしは未来の希望を話してたとおもうんだ。死は生の延長線上にある。何言ってんのか自分でもわかんないけどさ、多分、わたしは未来の希望の話をしてたとおもうんだ。」
私は如月に生きてほしい。姉を救えなかった償いでもなんでもない。ただ、
「ただ、如月ゆかりっていう人間に生きていて欲しい。」
「俺が生きていたくないって言っても?」
フェンスに捕まっていた如月の手の力が緩んで引きづりおろせた。
「うん。生きて。どんなに辛くても、苦しくても、死にたくなっても、私は如月の味方だから。生きて。」
「鬼かよ。」
笑った顔には似合わないほど、涙で溢れていた。
「私の勝ちね。如月。」
「負けたよ。」
如月は大の字になって寝そべった。
次の日、学校は私たちのしたことを知らないまま始まった。先生たちも生徒も昨日の夜自殺しようとしていただなんて夢にも思っていないだろう。
相も変わらず賑やかな学校が続いた。
少し変わったことといえば、如月に友達ができたことだろうか。
あれから、3年たつ。
私は、20歳になった。
今でも、時々思う。あの時の判断が間違っていたんじゃないかと、
私はあの時の判断が正しかったかどうかなんて、分からない。けど、私が生きて欲しかった私と如月縁は生きて、自殺だとか死ぬだとかそんなんじゃない未来の希望を語ってる。
それだけで、正しかったと言うには十分なんじゃないだろうか。
あの出来事は私にとって生きる希望そのものだ。
私たちは希望を語った。 柳木 椿 @moena
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます