第6話

    ・

バイトからの帰り道で久しぶりに元小の人にあった。わたしは小学校の頃の友人に会うのが好きじゃない。いじめられた子を思い出してしまうから。

そんなことを思っている私にまどかの話を出てきた。その虐められていた子だ。わたしはあんまり思い出したくもなかったし、その話を持ち出した女の子も少し気まづそうにしていた。

「京華ちゃんはさ、今でもあの時のこと思い出したくない?」

気まづそうにしていた割にはその話題を変えない。

「うん。」

「そうだよね。」

沈黙が流れる。この話題をだした女の子はその質問をして一体なにを知りたかったのだろうか。

「なんで、急にこの話を持ち出したか疑問に思ってると思うんだけどさ。転校生の1人が如月って苗字だったの。それで怖くなったの。まどかが私のこと恨んでるんじゃないかって。怖くてしかたなくって。私、あの時まどかとはさ、仲が良くて、なんであの時助けられなかったんだろうって遅すぎるぐらい時間が経ってから後悔してるの。あの時後悔しなかった訳じゃないけどできたことはもっとあったのにやらなかった。」

急に自転車を止める。私もとまってその子をみると、泣いていた。

きっと当時に流すはずだった涙を流していた。

「今更、なにを後悔するの?如月さんは別に死んでなんかいないし。後悔って言ってたってさ、なんも出来ないよ。私たちは如月さんに恨まれる様なことをした。だったらそれを素直に受け入れるしかない。」

薄情すぎる返答に自分で嫌気がさす。他人の心配なんかしてられない状況なのに過去の人を出されても、どうしろと言うのだ。

「薄情になったね。京華ちゃん。」

そう言って自転車にのって行ってしまった。

後味の悪いセリフを言って私を置いて行ってしまった。

「そんなの、私だって思ってるよ。」

絶対聞こえないなのはしっている。だから、これは私に言い聞かせたのかもしれない。


家に帰って小学校のアルバムをみた。

満面の笑みで笑ってる私と満面の笑みで笑ってるクラスメイト。ここに如月まどかはいない。この写真は如月が自殺未遂をした次の日だった。撮り終えてから伝えられたのだ。自殺未遂をした事。だから、こんなに満面の笑みを浮かべられた。いや、本当は自殺未遂をしようがしまいがこのクラスでいじめがされていたことをしっていながら笑って記念撮影なんてしちゃならなったんだ。

きさらぎ。

あの頃からずっとあたまに焼き付いている。

だから。わたしは如月まどかから開放されたい。勝手に拘束されてるのは私だけど。

屋上に来ている1年が如月だった。

それだけの理由でいま私は如月に言いに行こうとしている。

心のどこかで思ってはいた。もしかしたら、他の場所で自殺しているかもしれない。

如月がいるかは知らないが、確かめたいという欲に勝てなかった。あの子が生きているという証拠が欲しかった。同じ苗字なら知っているかもしれない。安易すぎる理由だったけれど、たよるには十分すぎる理由だとも思った。

屋上に行くと如月はいた。

「あれ?珍しいですね。3年生は昼まで残らないんじゃなかったでしたっけ?」

「そうだけど、聞いてほしいことが、あるの。」

如月は全く見当がつかなそうな顔をしていた。そんなのはどうでもよかった。楽になりたくてしょうがなかった。

「私、人が虐められるのを傍観してたんだよね。結局、その子、自殺しようとしたの。」

頭には自分のことしか無かった。

言ってから楽になるどころか苦しくなった。でも、言ったからには言おう。同じ苗字だから、話さなくてはいけないそんな気がした。よく分からないけど、そんな気がしてしまっていた。

「なんで急にとか思うと思うんだけど、聞いて欲しくて。」

如月は私の方に向き直って頷いた。

私は息が上がっていた。もうなにを話すかなんて頭じゃ分かっていても舌が回らない。

「あのね、言い訳がましくなるかもしれないんだけど、その子の家まで行って、謝ろうと思った。どうしても忘れたくて、楽になりたくて、謝ったら楽になると思ったから。いざその子が出てきたら怖気ついた。謝れなかった。私は今でも覚えてる。腕に異常に包帯が巻きついてあったのを。小学生の私でも分かった。」

いつの間にか頬が濡れていた。あの元小の子と同じように。今更じゃ遅すぎる後悔と涙を。

如月は私の顔をみて点と点が繋がったのか、回答をわかってる質問をしているかのような、そんな声のトーンで言ってきた。

「先輩、どこ小ですか?」

「雷山小学校。」

「その子の名前は」

「如月 円奏」

「俺の姉です。その、いじめられてた子。」

私は咄嗟に如月の顔をみた。どこ小だと聞かれた時点で薄々気づいた。私の勘は見事に的中してしまった。

「姉は言ってましたよ。1人だけ会いに来てくれた子がいたって、いじめてた張本人じゃないのに、ボロ泣きしてたって。姉は先輩の涙で救われました。助けてくれなかったことは今でも恨んでるし許せるわけじゃなけど、それでも、あの涙は嘘じゃないと思ってると。元気にしてますよ、海外で。日本だけが居場所じゃない。っていって飛んでっちゃいました」

私は「良かった」そう、何度も言って泣いていた。あの子が生きていることに、何度もよかったと言う言葉しか出てこなかった。


「きっと今の姉がおれをみたら叱るでしょうね。」

と苦笑していた。

「自殺しようとしたから?」

「それもありますが、姉にとって自殺はその場から逃げるための手段でしか無かった。でも、そのクラスだけが居場所なら別の場所に行けばいいことに気づいたんです。だから、きっと姉は俺に「死ぬなら死ねば?でも、その場から逃げる手段は自殺だけじゃない。」って」

如月さんらしかった。

「そこまでの答えが自分の中に出ててどうして、如月は死のうとするの?」

「そうですね。死んでみたいから。では、やはりダメでしょうか。」

そう如月はいって何故か行ってしまった。いつの間にか自分の弁当を片して。

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