第5話

1週間経ち、屋上に行く曜日がくる。

気は乗らなかったが、逃げたみたいになるのも癪だったから行くことにした。

「こんにちは。」

その声にぺこりと頭をさげてご飯を食べはじめる。

「見てた?」

「はい。」

「そっか。」

それ以上は聞かれなかったし、何も言わなかった。

聞かれなくてよかった。心底思った。

「この本読んでみてください。」

突然、如月は話題を出してきた。差し出してきたのが相も変わらず、太宰治が好きそうな本をもっている。

手渡された。渡されても、と思ったがとりあえずペラペラめくる。ふと思った。

「お前、誰かと心中したい?」

「まー、できれば、?でも、相手いませんし。」

たしかに。

「あ、でも、相手を見つけるのもいい方法の1つらしいですよ。集団自殺とか」

え、集団自殺やる気なの?君?

ちょっと、いや、だいぶ引いていて何を言えばいいのかさっぱり分からなかった。

「集団自殺しようかと思って行ったんですけど、キモイおじさんとかばっかりで自殺っていう雰囲気よりも違う雰囲気がしたので辞めました。」

「しようとしたのかよ、」

「一種の経験として、ですけど。」

うん。一種の経験として行くのはお前だけだよ。

今日、如月に対する評価が元々ゼロだったのに、マイナスになった。

もう、言葉が浮かばない。

「よく、逃げられたな」

「そうなんですよね〜、山奥の車の中だったのでやばかったですけどね」

ほんとに、結構、やばいやつだった。

相変わらずの、ぶっ飛びさ加減で全然会話が弾まない。

そこからは当たり障りのない話をしたがどれも楽しくはなかった。

チャイムがなってくれる。いつもは嫌だったチャイムの音が今日だけは少し好きになった。

「じゃあ、来週。」

「うん。」

如月を見送ってから私も屋上をでる。

杏が階段の下にいた。

「きょうかちゃーん、はやくー」

そう急かしてくるあんになんだかやっと意識が戻った気がした。

「はいはーい。」

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