第5話 修行とサンドイッチ

この町は、トキが住んでいた山から遠く離れている。

様子を見に帰りたい気持ちはあったが、危険だから行かないようにと念を押されていた。


確かに『モンスターハンター』だけでなく、同行していた軍の一個師団を全滅させたのだ。人間達が警戒しないわけがない。


今後についても、あれから何度か考えてみた。

お兄さん達の仕事は殆んどが『殺し』の仕事。やはりいつまでも一緒にはいられない。

かといって、この町にトキのような子供を雇ってくれる所は見つからなかった。


その点、ギルドの仕事には年齢制限は無かった。

討伐の依頼以外にも、『薬草を~kg集めてきてください』等の常設の依頼もある。

もちろん、ギルドに依頼する様なものだから、多少の危険や労力は求められるが、普通の仕事と比べてもその『報酬』はそれなりに魅力的なものがあった。


「いくら、討伐がないっつったって、いざって時の為に戦い方はみにつけねえとな」

例の長身の男。ビリーの提案でトキはこれから『一人で生き残っていく為の術』を学ぶことになった。


---季節は冬へと移ろうとしていた。


お兄さん達は冬場は討伐の仕事を受けない。『そういう仕事』は大体が長旅になるので、冬はよりいっそうの装備や労力を伴う。なので、ちょうど今ぐらいの時期からは『休息』を兼ねて、春からの冒険の準備期間としているらしい。


トキの相手をしてやれる丁度良いタイミングだった。


---そして、トキの修行が始まった。


特に『特訓メニュー』の様なものが用意されていたわけではないが、毎日手の空いている誰かしらがトキに稽古をつけてくれた。


お兄さん、ルシフさんからはナイフを使った護身術を習った。ナイフなら普段使いにも帯刀できるし、小柄なトキにはぴったりの武器だ。


一度、ルシフのメイン武器である『大鎌』を触らせてもらったが振ることはおろか、両手で抱えるのがやっとな重さでトキには扱えない代物だった。それにその武器は、ルシフ以外が使っても“本当の威力”は発揮できないらしい。


この世には、決まった種族の者が使わないと効果を発揮しない『特殊な武具』が存在するということを、その時教えてもらった。


 黒装束の人。忍者の蒼からは主に『追跡術』や『身の潜め方』を教えてもらったが、狼に育てられた野生児のトキには、どれもすぐに出来てしまい、、、


蒼は途中で拗ねて、それ以来稽古をつけてくれなかった。


修行はほぼ毎日行われていたが、お昼になるとお姉さんが必ず来て『お弁当の時間』の為に中断を余儀なくされた。


ルシフと修行していた今日も、お姉さんは12時“きっかり”にやって来た。

「はーーいっ!もぐもぐターイムッ!」

「お待たせ!トキ君!ねねっ今日のお弁当は何だと思う??」


鼻の利くトキが一度、匂いでお弁当の中身を当てたのがよっぽど嬉しかったらしく、

それ以来、毎回の様に質問してくる。


クン、クン、、、。匂いを嗅ぐトキ。

それを目を輝かせて見つめるお姉さん。。。


『えっと、、海、、エビの匂いと、軽く焼いたパンの匂い、、それから微かに青臭さも、、、』『うーん、エビとアボカドのサンドイッチ、、かな?』


「きゃーーーー!正解!凄いよ~トキ君~!」お姉さんはトキに抱き着きながら喜ぶ。


匂いでも8割がた判るのだが、トキは食材の買出しにも毎回連れまわされているので、そこからいつも大体の想像が付くのだった、、、

(喜んでくれてるから、まぁいいかぁ、、、)


彼女の名前はシルフィーヌ、エルフだ。

エルフの血は半分だけだと言っていたが、その特徴的な耳と、透き通るような白い肌は、誰から見ても、一目でエルフだと判別できる。あと、関係はないのかもしれないけど、声がとてもキレイだった。


ともあれ、シルフィーヌお姉さんの作る料理はとても美味しい。

今日のこのサンドイッチだって、とても美味しい。

となりでお兄さんも口に出しながら、、、


【おそらくパンは直前にトーストしたのだろう、カリッとした食感と、焼けた小麦の香りが残っていて、1口かじる毎に絶妙に配置された『プリっプリっ』の海老が『プチっ』と音を立てて弾け、、、その後味は、たっぷりと塗られた『アボカドペースト』と溶け合い、口の中に『極上至福の味と食感』をもたらしてくれる!!】


、、、と美味しさの説明をしてたけど。

お姉さんはニコニコしながら僕の口を拭ったりしてぜんぜん聞いていなかった。


でも、そうやってお弁当を食べながら、色々な人が色々な話を聞かせてくれて、それがとても面白かった。

暴れ者のドラゴンを討伐に行ったけど、実は良い奴だったので逆に依頼を出した人を懲らしめた話や、一年中花が咲き続ける森の話。古の魔法『カガク』の話。滅んでしまった国の話。それぞれがなぜ今の様な仕事をするようになったか等...


『ルシフさんは何故この仕事をしているの?』

まだ、お兄さんがこの仕事をするようになった“経緯”を聴いていなかったトキはふいに尋ねた。


「あー俺ね、、もぐ、もぐ」「人を喰うためー、もぐ、もぐ」

ルシフはサンドイッチを頬張りながら、悪びれた様子もなく言う。


呆気に取られているトキ。


「あ、喰うって言っても、直接じゃないよ。『魂』をなんだけどさ!」

「俺!人間の魂を喰わないと死んじゃうんだよね。死んじゃうというか、消える?消滅する?どっちでもいいか!あはははは!」


お兄さんには悪魔の血が流れているらしい。

肉体的な維持は普通の食事で大丈夫なのだが、戦いで使う「能力」や「魔法」には“悪魔の力”を使っていて、それを使うには殺した人間の魂を吸収しないといけない。とのことだった。


「後は、、アレかな??正義のヒーローってのに憧れて!!」

そう言うとお兄さんはまた牙をみせながら、ニカッと笑った。

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