第4話 涙くんサヨナラ
「ほら、トキ君。遠慮せずに食べてね!」
大きなダイニングテーブルには沢山の料理が並んでいる。
---ここは、助けてもらったお兄さんたちの事務所、、、ではなく“基地”と呼ばれている。皆、他に其々の家があったり、何人かは此処に住んでいたり。
トキは昨日此処で目覚めて、そのまま2階の一室を借りていた。
「おおー!今日はいつになく豪華じゃないかぁ」
玄関のドアの開く音がして、長身で細身の男の人が入ってきた。
少し古びたスーツに深く帽子を被っていて、瞳はその陰に隠れている。
「何よ、あんたは呼んでないわよ!」
「シゲに、お前が張り切ってるから“今夜はごちそう”だろうって聞いてな、ほら、酒持ってきたぜ!」
「あたしは飲まないし!」
他にも始めてみる顔がいくつか、、、。
トキはお姉さんの隣に座らされ
晩餐が始まる
一通り食事を終えてお酒も進んだ頃。
「そういえば、君はなんで捕まってたんだい」
誰かがトキに尋ねた。
トキは自身の生い立ちと、あの日の出来事を皆に聞かせた。
自分でも驚くくらい、不思議と言葉に詰まることなく“淡々”と話せた。
お姉さんは途中から、お兄さんは割と初めのほうから泣いていた。
---「そっかデスウルフに育てられて、、ね。」
静まった食卓にポツリと誰かの独り言が響く。
“場の空気を悪くしてしまった”と気付きいたトキが取り繕うようにきりだす。
『でも、本当に助けて頂いてありがとうございました。お返し出来るものはありませんけど、、、雑用とかお手伝いならぜひ使ってもらって、、』
「あら、いいんじゃない!?行くところなかったら、あたし達一緒にさ」
嬉しそうに承諾するお姉さんに『異議』を唱える様に先程の長身の男が返す。
「俺達を手伝うってことは“殺し”を手伝うってことだぞ?」
「なによ!別に“殺し”をしろとは!」
お姉さんが言い返すも男は続けた。
「一緒のことさ、俺たちの受けるのは、殆んどが“悪党狩り”。いくらDEAD OR ALIVEつっても“生け捕った”試しがねえ、、、。そんな俺たちに協力するってんなら、そいつは立派な“殺し”の手伝いさ」
男は酒の入ったグラスを片手に持ちながら続ける。
「こいつは意地悪で言ってんじゃないぜ。その『デスウルフの誇り』ってのの為に聞いてんのさ、それを“良し”とするかどうかは、お前さん本人が決めることだ」
「それにたまたま、“獲物を狩ったところ”にお前さんが居ただけなのさ。義理とか恩とか感じる必要はねぇ」
男はグラスに残った酒を飲み干す。
---なにも言えず黙るトキ。
「ま、ま、とりあえず。体調も全快じゃないしゆっくりしていきなよ」
「ここのギルドにも“殺し”以外の仕事もたくさんあるし」
「丁度、うちらも忙しくなしさ、後のことは後で決めればいいよ」
またも沈黙を救ったのは、先ほど独り言を言った“緑色の髪を後ろに束ねた眼鏡のお兄さん”だった。
---食事が終わり、部屋に戻ったトキはベットに座り、先程言われたことについて考えていた。
そこに『コン、コン、コン』
声に出しながらドアをノックするお姉さん。
返事をする前にドアを開き入ってきた。
「美味しかった?」
お姉さんはトキの横に座ると、顔を覗き込む様に尋ねる。
『うん、すごく、他の村でもあんな凄いの食べたことないよ』
「そう、良かった」
お姉さんはそう言いながらニッコリ笑いベットに上がると、後ろから包み込むように手を回し、なにか「呪文」を唱え始めた。
『なんの呪文?』
「うん、素直になれるおまじない、、、。」
「人ってね、心がびっくりし過ぎちゃうと泣けなくなるの、、、」
「長い間そういう状態でいると、心がだんだん鈍くなっちゃって“そのつらさ”に慣れちゃうと“うれしさ”も感じにくくなっちゃうんだよ」
「だから、悲しみはちゃんと涙で流して、“サヨナラ”してあげないとね、、、」
そう言ってお姉さんは再び
『呪文の詠唱』を続けた。
---。
しばらくすると、呪文の効果だろうか、、、
頭の中がポカポカしてきた。
まるで長老の懐を枕にしているときの様、、、
『うっうっ、ぐすっ、ぐすっ、、、』
トキはたまらず泣き出していた。
溢れる様に流れ出した涙が、大きな粒になって、ポタポタと地面に落ちていく。
お姉さんは片方の手をトキの頭の上に乗せ、そこに軽くキスをすると「ギュッ」とトキを抱き寄せる。
呪文の詠唱はいつしか『唄』に変わっていた。“知らない国の知らない言葉”でもどこか懐かしい。透き通った声で小さく響く子守唄は、泣き疲れたトキを優しく包み、そのまま夢の世界へと誘っていった。
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