第3話 モンスターハンターハンター

---気が付くと、馬車に揺られていた。

目隠しと、さるぐつわをされて手足も縛られている。


「おっ!こいつ気が付いたんじゃねえか?」

「どれ、さっきはありがとよっ!!」

棍棒男が『仕返し』とばかりに無防備なトキの腹を思いっきり蹴りながら叫ぶ。


「おい、あまり傷つけるなよ。

 高く売れなくなる」

別の男が呆れた声で注意する。


だんだん意識がはっきりしてきて、大体の状況が理解できた。


「フーッ!フーッ!」

トキは湧き上がる怒りに、もがかずにはいられない。


鼻からの呼吸しかできない為、今にも窒息しそうな勢いだ。


「はっはー!何もしなくてもコイツ死んじまうぜ」

棍棒男の憎たらしい笑い声が響く。


「ちっ、口だけは外してやれ」

別の男がそう言うと


「はあぁ~い、、、」

「坊やぁ、怒るのもぉ無理ないけどぉ~

 痛い思いしたくなければぁ黙ってたほうが賢いわょ~?」

ねちっこい声の女が『さるぐつわ』を外しながら続ける。


「いやぁ~ほんと容姿端麗って言うのぉ?

 可愛いわよねぇ、売り飛ばすなんてもったいないわぁん」


『ついた売値より高く買うならお前の好きにしていいぞ』


「う~ん。でもぉ、あたし亜人のペットはぁ~すぐ壊しちゃうしぃ

 ど~しよぉっかなぁ、金貨2枚ならぁ、、、てとこ~?」


そんなゲスな会話が繰り広げられていると。。。



---突然、馬の驚く声が響き、馬車が止まった。


「敵襲、敵襲ぅーーー!!」「ピィーー!!」

あたりに大声と笛の音が響きわたり、大勢の戦う音が聞える。男達も急いで馬車から出ていった。


---すぐに争いの音は止み、誰かが馬車に入ってきた。

「ありゃー、捕まっちゃってたのねー」

「でも安心しなー!正義の味方の参上だー!!」

拘束を解いてくれたのは、尖った耳にベージュ色の肌、おまけにシッポまで生えている「ザ・亜人」のお兄さんだった。


外に連れ出されると、数十人いたであろう人間の兵隊たちは無言で地に伏しており、

先程の悪党5人組もお兄さんの仲間に囲まれ既に戦意を喪失していた。


仲間と言ってもお兄さんを含めて6人、、、。

(それだけでこの人数を一瞬で制圧、いや、殺した、、、?)


現状をうまく呑み込めずにいるトキに


「こいつらが主犯ってことでいいかなぁ~」

亜人のお兄さんが陽気な口調で質問してきた。


コクリ、トキが無言で頷くと


「んじゃあ、カタキ討っちゃう?」

ニカッと鋭い牙でほほ笑みながらお兄さんはトキに短刀を差し出した。


俄には信じられない状況に自失していたが、

短刀を受け取ると先程までの怒りが沸々と再燃してくるのを感じた。


短刀を持ち悪党達の前に立つトキ。

でも、できなかった。。。


仲間たちが最後まで貫いたであろう『不殺』を

自分が侵すことはどうしても出来ない。


「出来ません」そう俯きながら言うと


「う~ん、だったら、、、」

とお兄さんが言うのと同時に


『われ等がやる!!』

黒い装束を纏った男が一瞬にして目の前に現れ、、、


次の瞬間、悪党5人の首は地面に転がっていた。


頭部を失った胴体の首元からは噴水の様に血が吹き出し、

しばらくすると、兵士達と同様に地面に突っ伏す様に倒れた。


「あー、、、」

お兄さんがなんとも言えず頭を抱えていると


「あんたさ!子供の前でやりすぎでしょ!!」

仲間の女の人が黒装束の人を叱りつける。


『いや、目の前で死ぬの見たらせいせいするかなと思って』

黒装束の人はボソボソと小声で反論。


「どんな神経してんのよ!あんたは本当に!」


『いや、俺たちの部族は幼い頃から暗殺とかするし、、、』


「あんたたち『忍び』と一緒にしないでよ!まったく~」


---そんな言い争いが続く中。


ポンっとお兄さんが頭に手をのせて言った。


「驚かせちゃってごめんなぁ、でも殺さないと『仕事』にならなくてね。こいつら、あちこちで好き勝手やってるモンスターハンターでさ」


『仕事?』そうトキが聞くとお兄さんは続けた


「そう、俺たちの仕事は『依頼されて』そういう奴らを狩る仕事、、、、」「つまり!モンスターハンターハンターって訳さ!!!」


親指を立て、またもや牙を輝かせながら『どや顔』で笑うお兄さん。


頭を撫でられ緊張の糸が切れたのか、急に悲しみが込みあげて涙が溢れる。


女の人と黒装束の人はまだ言い争いをしていたが、それも遠く聞こえる程。涙とともに溢れ出る嗚咽。胸が苦しくなり、その場で倒れこむように、トキは再び気を失った。


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 再度、目を覚ますと、そこは再び馬車の中。


今度はもちろん拘束などされていないし、、、

なぜか、先程のお姉さんに膝枕をされながら頭撫でられていた。


驚いて起きようとすると

「まだ、寝てなきゃ、ダ~メッ!」

優しく額に手を当てられ、再び太股へと沈められる。


【どうやら、トキには「お姉さん」達の心をくすぐる何かがあるらしい、、、だが、まだそういうお年頃ではないトキには『ちょっともったいない』素質なのであった】


「ほら、蒼(そう)ちゃん、起きたよ!謝って!」

お姉さんが言い合いをしていた黒装束の人に謝罪をうながす。


「うぬ、さ、先程はすまぬ、、、な」

黒装束の人は、つまり詰まり小声で言うと、恥ずかしそうにそっぽを向いた。


どうやら自分が『それ』を見たショックで失神してしまった。と勘違いをさせたのか、先程の口喧嘩はお姉さんに軍配が上がったようだった。


「はぁ~い!良くできました~パチパチパチ~」

お姉さんは茶化すように言いながら、わざとらしい拍手を送ると、

再びトキの頭を撫でながら優しい声で

「安心していいんだよ、ゆっくりお休み。。。」

と言い、なにかしらの呪文を唱えた。


それが『回復の呪文』なのか

『睡眠の呪文』なのかはわからなかったが、

今度は、やすらぎに包まれながら意識が遠退いていく、、、。


トキはそのまま、まる2日眠った。






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