第2話:モンスターハンター
翌朝、仲間の「遠吠え」で皆が一斉に目を覚ました。
この声色は『警戒しろ!』の合図だ。
念話は「発声での会話」と同じで距離があるほど小さくなって聞き取れなくなる。
ちゃんと会話できるのはせいぜい10数メートル以内だ。
だから遠くの仲間に何かを知らせる時は遠吠えを使う。
ニュアンスなので細かな情報を伝えられないが、今しがたの声色には相当な緊張が込められていた。遠吠えから3分ほどすると、声の主、縄張りの確認当番だったサガリが息を荒立てながら戻ってきた。
『ニンゲン! キタ! タクサン!』
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。荒い呼吸とピンと立ったシッポが事態の深刻さを表していた。
...。
『どうやら囲まれてるね』
目を閉じ、遠くの匂いを嗅ぐ様に鼻を高く上げながら長老が言った。
『森を囲むように大勢。そして、真っ直ぐこちらに5人ほど向かってくる、、、。感じる魔力からしてかなりの手練れだ「モンスターハンター」だね』
「モンスターハンター?」
『ああ、お前の村を滅ぼした連中と同じだよ。金の為に魔物を狩る連中さ、
あらかた、デスウルフの毛皮や牙でも売る気だろうさ、それか剥製とかね。
それとも、昔人間と揉めたことがあるから、私の首に賞金がついていたりしてね。ふふふ』
そんな冗談を言いながらも長老の目は笑っていなかった。
『少し離れてなさい』
長老は立ち上がると毛を逆立てながら、天を衝く様な遠吠えを上げる。
怒りと決意に満ちた声、戦いの合図だ。
『ウォォォーーーン』それに呼応する仲間たち。
みるみると全員の毛は逆立ち、身体も倍ほど大きくなったように見える、長老の魔法だろうか。。。
魔物は人間や亜人と違って、魔法を使うのに呪文などの「詠唱」を必要としない。
長老によるとどうやら「感覚」で使っているとのことで、長く生きないとその感覚は得られないらしい。この群れの中で魔法が使えるのは長老だけだ。
その遠吠えとともに上空に黒雲が集まりはじめ、森はみるみる暗くなっていった。
長老が呼び寄せたのだろう、デスウルフは人間と違い夜目が利く。
暗いほうがこちらに有利だ。
---戦いの準備が整った頃、人間が姿を現した。
剣と盾を装備した男が二人、弓が一人、棍棒の様な物を携えた大男が一人。
あとは魔法使いだろうか、杖を持った女が一番後ろで構えている。
(長老が言った通り5人だ、、、)
魔法も武器も使えない自分は戦力外なので隠れていろと長老に言われ、トキは寝床にしていた木の洞からその様子を窺っていた。
初めて見る「人間」だが聞いていた通り「亜人」とさほど見た目は変わらない。
流石に牙やシッポが生えてる者はいないようだが、、、。
「こいつか~金貨20枚の大物はぁ」
「あぁ間違いない、ただならぬ魔力を感じる。それにあの図体、デスウルフとしては規格外だ、用心しろよ!」
「なぁに、しっかりと準備はしてあるさ、なぁ?」棍棒の男が目配せすると弓の男はニヤリと笑い頷いた。
(金貨20枚?!とんでもない金額だ。)
昨日、宴の為に買ってきた大樽2つの酒の値段が銀貨1枚。金貨1枚は銀貨30枚に相当するから、、、それが本当なら長老は相当な「賞金首」ということになる。
-----デスウルフ達が人間達を囲むように布陣して戦いは始まった。
森を囲んでいる連中に攻めて来られるとまずい状況にはなるが、どうやらその動きはないようだ。
コチラの攻撃は全方位からのヒット&アウェイ。
人間達は盾や剣で受けながらの弓と呪文による遠隔攻撃。
------開始から小一時間、かわらず激しい攻防戦が続く。
すでに大勢が呪文や矢によって怪我を負っているが、此方の数とチームワークに人間側も攻めあぐねているようだ。致命傷の者はいない。
【5人程度の人間なんて、一斉に襲い掛かれば仕留めれるはず】確かにそうだろう。。。
しかし、その時は最初の者は必ずやられる、犠牲者がでるのだ。
「誇り高く戦って死ぬ」
人間や他の種族では“それ”を誉とする文化があるそうだが、デスウルフには無い。
仲間の為に死ぬのが怖いわけではない、敵も、味方も、そして自分も、命を落とさない、、、それが重要なのだ。
現に何度も喉元に食らいつくチャンスはあった。
しかし、人間側が疲労して討伐をあきらめ帰るように仕向ける。
それが今回の「作戦」という訳だ。
しばらくすると突然、デスウルフの一匹が泡を吹いて倒れた。
そして次々と他の者も倒れていく...。全員、矢による傷を受けた者たちだった。
『まさか毒か!!』 離れて指揮をとっていた長老が弓使いを睨む。
『矢に気をつけろ!毒が塗られているぞ!傷を受けたものは下がれ!』
しかし、半数はもう既に傷を受けていた。
そして、攻撃途中の1頭が人間達の手前で倒れてしまった。
「ふん、やっと効いてきやがったか。」
「まずは一匹っ~!!」
男は待ってましたとばかり笑みを浮かべ、倒れた1頭の前で棍棒を振り上げる。
「やめろーーーーっ!!」
トキは思わず叫びながら走り出していた。
亜人は人間より強い。
思いっきり繰り出した拳は、不意を突かれた男の右頬に直撃し、自身の数倍あるであろう巨体を殴り倒していた。
そして、急いで倒れた仲間の元に駆け寄ろうとした時。
後ろから呪文の攻撃を受けたのだろう、、、
強い音と衝撃を感じた後、トキは意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます