第4話

練習を始めてしばらく経つと部室の扉を開いて先輩が入ってきた、ちなみにもう1人の部員こと同級生はすでに部室の中にいる、僕と部長と副部長があれこれやっているあいだ淡々と絵を描き続けていた、一旦描き始めるとテコでも動かなくなる、梨の絵限定だが。彼は過去に数回絵のコンテストで賞を取ったことがあるらしい、全て梨の絵だが。

「教育指導のおハゲ様はいつになったら廊下を走ることをやめないと理解するんだ!」

先輩が頬を膨らませてわかりやすく怒りを表明しながら入室早々愚痴を吐く、尚同級生はチラリとも目線を向けない、彼はいつだって梨に全力なのだ。

「1年以上続けてるんだいい加減諦めたらどうなんだ!まったくもう、これだからおハゲ様は!」

先輩は指定席に座ると2つの形代を操りシャドーボクシングを始めた、先生の名誉のためにも言うが禿げてるのではなく剃っているのである。1年以上叱られたのなら走るのをやめてはいかが?そんなことを思っていると先輩が焦げたカーテンを目にして一瞬険しい顔を浮かべた、かと思うとすぐにいつもの快活な表情へと変わった。えっ、もしかして怒ってる?カーテン焦がすの拙かったか?

「後輩君がカーテン焦がしてるー!到頭グレちゃったか〜、辛いことがあったらいつでも相談するんだよ?兄貴がなんとかしてくれるから」

先輩の反応に内心不安になっていると冗談めかしてそんなことを言った、よかったどうやら怒ってはなさそう。

「違いますよ、鏡越しに異能を使う練習です。それと到頭ってなんですか、前からグレそうって思ってたんですか?」

思われていたのなら心外だ、先生に続いて僕も小一時間ほどお話ししなくてはいけなくなる、あと先輩はなんとかしてくれないんですね。

「そっかそっか、まぁせいぜい頑張りたまえ後輩君、使える手段は多いに越したことはないからね!」

腕を組み頷くと両肩に乗った形代も同様に頷いた。

「あの先輩、両肩に乗ってる紙はどうやって操ってるんですか?視界に入ってないと異能って使えませんよね?」

両肩を同時に視野に入れることなんてできるか?そう思って質問すると先輩は首を傾げて部長に視線を向けた。

「部長と兄貴が説明してなかった?」

ソファに座り直しこぼれた紅茶を拭きながら答えた、やっぱりこぼしたのか。

「基本は説明しましたよ〜」

拭き終えた部長は適当に答えまたソファに寝転んだ。

「今日の部長はダメな子か〜、兄貴は...荷物整理中っと、仕方がない私が特別に説明して進ぜよう!」

そう言うと胸を張り説明を始めた。

「異能の発動は基本的に目視だってことは聞いたよね、それはあくまで基本であって例外もあるんだよ」

説明とともに片方の形代を机に置き瞼を閉じる、すると机に乗った形代はその場で倒れ、肩に乗った形代は動き続けていた。

「とまぁ、こんな感じで触れていれば異能の対象にできるんだよ、もちろん個人差があったりなかったり、これが例外その1ね」

閉じていた瞼を開くと机の形代が動き出して手を挙げた。説明してる時はいつものハイテンションじゃなくなるのか。

「例外その2は、今後輩君が練習中の鏡だね」

もう一枚の形代が机に降り手を挙げた。

「そして例外その3は、例外中の例外だね」

「例外中の例外?どう言うことですか?」

質問するとポケットから3枚目の形代を取り出し手動で手を上げさせた。たまにトランプみたいに手品してるけど、一体何枚作っているんだ?

「例えば透視とかかな、異能自体が物を透かして視る異能だから視界を塞ぐっていう致命的な弱点が無くなるんだよ」

透視もあるのか、できれば僕も透視したかったな〜、べつにやましいことなんか考えてないけどね...ちょっとしか。

「あとは〜、合体技とか?異能を別の異能力者が使ったり、それこそ透視越しに使えたら実質死角なしだからね」

「俺TUEEEみたいなコピーとか略奪とかってことですか?そんなこと本当にできるものなんですか?」

「理論上はできるかな?たぶん?」

なにそれ怖い、もしも自分の異能が奪われると思うと...思うと...あんまり怖くない?むしろ異能に気がいってる間に倒せそうな気がする、まぁ本当にそんな異能があったらの話だけど。

「まぁ、異能は人によって発動するのに感覚が違ったりするから、相当センスのいい人でもなければ使えないだろうけどね」

いつも部活動、調査と称して遊んでるだけかと思っていたが、異能に関してはしっかり調べてるんだな〜、その労力を少しでも調査に回してもらえれば僕も少しは楽になるのに。説明を終えた先輩はいつものハイテンションに戻りドヤ顔を浮かべる。

「見直したかな後輩君!、私だって遊んでばかりではないのだよ!」

もしかして心読みました?、そんなことを思っているとちょうどチャイムがなり時間を知らせる。

「さてと、私は戸締りして帰るので、そのうちに退室してくださいね〜」

部長が乱れた制服を整えなが言うと各々帰り支度を始める、僕も先輩に説明しもらった礼告げ帰る支度を始めた、念のため同級生にも目を向けるとちょうど描き終えたのか片付け始めていた。下手したらあのまま描き続けて閉じ込められるからな、部長なら平気でやりそうだ。

「兄貴、早く早く」

「今行く」

副部長と先輩が先に退室し僕もその後に続き帰路についた。

「お疲れ様です」


新たな発見もありつつ今日の部活も終わりを迎え、自宅に向かう道すがら、鞄が振動していることに気づきスマホを取り出す。うちの学園では使用は禁止されているが、持ち込みは禁止されていない。過去に通学中に誘拐事件が起きたとかで一悶着ったらしくそれ以降持ち込みは許可されている。といっても大体の生徒は隠れて使っているが、僕もその1人である。スマホには母からのメッセージが届いていた。

『買い物に行ったんだけど、買い忘れた物があるの、買ってきてもらえる?お金は後で返すから。買い忘れた物のリストは写真を送るね』

というメッセージの後に写真が貼られていた。お母様?できればもう少し早くお願いできませんか?1番近いスーパーでも学園を挟んで反対側、今から行くとなるとUターンすることになるのですが?

「はぁ、行きますか」

それでも今晩の食卓が貧相になるくらいなら行くしかない、よりによって親子丼の鶏肉を買い忘れるとは、このままでは親なき子が出来上がってしまう。僕は親と子の再会を果たすべくスーパーへ向かった。


スーパーにたどり着いた僕は無事鶏肉を買い再び帰路につくと、道中のホームセンターから出てくる見覚えのある2人組を見つけた、それは先に帰ったはずの副部長と先輩だった。部活動以外で外で見かけるのは珍しいな、と思っていると向こうもこちらに気づいき声をかけてきた。

「あれ?後輩君だ珍しい!迷子かな?ちゃんとお家まで帰れる?」

僕を幼児か何かと勘違いしてるのか?それとも頭がバグったか?拳で治療ってできますかGMさん?

「親に買い物を頼まれた帰りです。先輩達はなにしてたんですか?」

失礼な言動を無視して聞くと先輩は袋から苗を取り出した。

「お花でも育てようかと思って」

小さな青い花がいくつか連なって咲いていて逆さにしたベルのような形をしていた。お腹がすいてきたせいかタコさんウィンナーにも見えてきた。

「へぇ〜、先輩に女の子らしい趣味があったなんて意外です」

先程の仕返しに含みのある言い方をするとと、先輩は苗をひと撫でして応えた。

「無性に花を植えたくなるときがあるんだよ」

そう言った先輩の表情は、いつもの快活な表情はなりをひそめ苗を見つめていた。いつもと違う反応に戸惑っていると、副部長が話題を変える。

「長話するのは構わないが時間は大丈夫なのか?後輩の家は反対方向だったと記憶しているが」

副部長の言葉を受け時間を確認すると6時半を過ぎるところだった。

「最近は物騒な事件も多い、あまり遅くならないようにな」

「そうですね、気をつけておきます」

副部長の言う通り隣町で殺人事件が起きたとか今朝のニュースで見たな、余程運が悪くない限り遭遇することもないと思うが、用心するに越したことはない。いささか平和ボケした考えを浮かべつつ、先輩達に2度目の別れを告げて自宅へ足を向けた。何事もなく帰宅した僕は丼の上で感動の再会を果たした親子を胃の中へ招き入れ、共に幸せを分かち合い1日の終わりを迎えた。

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