第2話

異能活用法があらかた出揃った頃、副部長が時間を確認して唐突に鞄を持ちだす、この先輩はいちいち行動に脈絡がなさすぎる。

「俺はこれから予定がある、こちらで用意できる物はしておこう、後でリストを送る残りは部長の方で調達しておいてくれ」

「了解、他にもめぼしい物があったら用意しておくね」

部長の言葉を聞き頷き一つ残して副部長は部室を後にした。

「副部長ってたまにあんな感じで出て行くっすけど何やってるんすかね?」

同級生の言う通りふらっとどこかに行ったかと思うといつのまにか戻ってくることがある、彼ほどでは無いが確かに気になる。

「調査中にいなくなるのは周辺の安全確認をしてくれてるんだよ、後人気がないかの確認、私達が安心して異能を使えるように」

そんなことしてたの?ただの厨二病拗らせた人じゃなかったんだ。

「時間がある時は調査地に下見に行ったりしてたよ!」

二つの形代を操りながら先輩が追加の情報を語った。

「今日早めに帰ったのも下見に出ったってことですか?」

調査のたびにそんなことしていたとは今度からお茶くみくらいは手伝おうかな。

「今日は予約してたゲームが届くから早めに帰っただけだよ!早くやりたいんだって」

ただの趣味だったよ...いやいつも色々やってくれているんだしそのうちお礼はしよう。

「そうだ、妹ちゃんに渡そうと思ってた物があるんだ」

ポンと手を叩くと部長は鞄の中身をあさりだし指先に乗るサイズの黒いボタンのような物を取り出した。

「なになに!これはもしや⁉︎あれか‼︎」

先輩が大袈裟に驚いて見せた後ニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「そう、あれだよ」

その言葉とともに部長もニヤリと笑う、いやどれだよ、とりあえずろくでもないことを考えているのはわかる。

「このブツと妹ちゃんの異能があればいつでもどこでも隠し撮りし放題、あ〜んな写真やこ〜んな写真を撮りまくって裏写真部に高値で売りつけよう」

お巡りさんこちらです、ここに犯罪者がいます、それ普通に犯罪だから先輩も頷いてないで部長を止めなさい。

「先輩方それバレたらやばくないっすか?あと裏写真部ってなんっすか」

バレなくてもやばいから。

「この学園に数ある裏部活の一つで信用できる者の間でのみ存在を知られている部活なんだよ」

そんなもんがあったのかうちの学園、そしてその存在を知ってる我らがオカケンの部長、この人さては常習犯だな?

「だからバレる心配はないよ」

「いやバレるバレない以前に盗撮はダメでしょ」

僕が異を唱えると先輩は首を振ってやれやれとでも言いたげなリアクションで憐れむような視線を向けてきた、この先輩さては人をイラつかせる天才か?

「盗撮だなんて心外だね後輩君、私はただ同じ学園に通うものとして少しでも青春に彩りとスパイスを提供してあげようと努力してるだけだよ」

嘘だ、絶対嘘だこの部長はただ自分が楽しみたいだけの刹那主義者だ、普段は猫被って大人しくしているが楽しみを見つけるとこうして迷いなく実行しようとする人だ。

「どれだけ詭弁を並べてもダメな物はダメです」

「えー、いいじゃん後輩君のケチ‼︎せっかく盗撮で稼いで小旅行の足しにしようとしたのに!」

思いっきり盗撮って言ったな、形代操って髪引っ張るのやめてもらえます?地味に痛いんで。

「そっかダメかー、小旅行のおやつにちょっとお高めの梨でも買おうかなーって思ったのになー」

部長がわざとらしい仕草でガッカリして言った、その言葉に同級生が目を見開いて反応を示した、あからさまに買収してきやがった。

「そう言うことなら仕方ないっすね」

速落ちである、知ってた君はそういう奴だよね、梨が絡まなければまともなんだけどな〜

「そうだよ!美味しい梨のためだもんしょうがないよね!」

便乗してきたよ、そんなやりとりをしていると下校のチャイムが鳴り響く。

「もうこんな時間か、それじゃ今日は解散だね、会議で出した案は後でまとめてデータ送るね、くれぐれも人に見られないように」

チャイムの音と同時に帰る支度をしていた先輩は一足先に扉の前へ移動した。

「さらばだ諸君!また明日ー」

勢いよく扉を開き颯爽と駆けていった、遠くから先生の怒鳴り声が響いてくる、あの声は生徒指導の教師かな?明日は説教確定だな先輩。

「お疲れさまっす」

「お疲れさまです」

2人揃って部室を出て行き最後に部長が鍵をかけて各々帰路へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


太陽が完全に沈んだ街中、空を照らすは月の光と地上からの明かりのみ、そんな夜空に1人の男が立って地上を眺めていた。

『あの廃墟ビルの3階にいたよ』

夜空に立つ男の横に飛んできた鳥が女の声を発して報告を行った、報告を受けた男は当たり前のように報告を受け取り質問を返した。

「人数は?」

『3人異能力者は2人、無能力者がリーダみたい』

「異能の詳細は?」

『片方が水をもう1人は雷を操る異能、両方とも出力は高いけど精度は低いかな、異能への理解が甘いところもある』

1人と1羽は慣れた感じで情報の共有を進めて行く、やがて共有を終えた男は行動を始める。

「今回は俺が行く、周辺の監視を頼む」

『わかった、気をつけてね兄貴』

空に立つ男は頷きを残し落ちていった、すると男は今まで立ってたのが嘘のように重力に従い加速して行く、十分な速度を得た男は自身の横の空中に足を付け速度を調整しながら滑るように廃墟ビルへと向かって行く、そのままスピードを落とさず廃墟ビル3階の窓へと突入し、驚きに顔を歪めた男2人に向けて勢いに任せて両腕を振り抜いた、すると2人の男は肩から脇にかけて輪切りとなりあまりの威力に泣き別れした身体が壁へと叩きつけられた、2人を殺した男の手には透明な棒状の物が握られており血が付着している、目の前で腰を抜かした男の首元に血の付いた物を当て問いただす。

「命が惜しければ貴様の知っている情報を吐け、さもなくば死ね」

脅しを受けた男は震えながら自身が知る情報を話し始めた。

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