こう見えても女神様なので…


 戦闘狂グリーズランドの心臓に突き刺した聖剣アカネを引き抜いて後ろへ下がる。

 何となくそんな気はしていたが……。


「まだ儂が話ておる最中だというのにせっかちな奴だ」


 戦闘狂グリーズランドは胸から血を流しながら呆れたような口調で話す。 その光景に部屋の中に居る男達は口々に『ヒッ…どうなってる?!』、『ば…化け物』等と言っている。 これが演技で無いならコイツ等も戦闘狂グリーズランドの正体を知らないということか。


 …しかし


「どうなってんだあれ」


 実は右心臓だったってオチ…じゃないよな。 もしそうだとしても、全く痛みも感じてない様だけどモルヒネでも打ってるのか?


(あの体はただの入れ物、中身はもう殆んどない。 すかすか)


 本当の中身…魂とか?


「じゃあ、あの戦闘狂グリーズランドはもう死んでてあれは偽者ってこと?」


(偽者ではないけど、”何か”と契約して自身の肉体、魂、矜持…その何れか、もしくは全てを対価に望みを叶えた。 あれはきっとその残滓。 その”何か”が悪魔か魔人か…または別のものかはわからないけど)


 その話しを訊いて俺は驚愕した


 ……まさか、そんな………アカネが女神さまっぽいことを言っている…?


(…ぷくー…)


 むにー


 膨れ顔のアカネに頬を引っ張られる。

 別に怒らせたい訳じゃないけど、怒ったアカネも可愛いと思う(重症)



「あれは…悪魔や魔人の類いか?」


 流石に桜花も心臓を刺されたのにピンピンしてる戦闘狂グリーズランドには驚いていた。


「それらと契約して人間を辞めたって方が正しいかもな」


 俺がそう言うと桜花も警戒してか、勇者特性を使い身体能力を強化した。


 この世界では悪魔や魔人と契約することは大罪だ。 例えそれがどんな願いであれ。


 当たり前な話しだが、そもそも奴等が人間と契約し願いを叶えるのは、決して善意なんかではない。 悪魔達にとって人間との契約は娯楽みたいなものだ、その果てに全てを失い堕ちてゆく……悪魔達はそんな人間が見たいだけ。

 この戦闘狂グリーズランドが何を願ったかは知らないが、もう既に目の前に居る男は…グリーズランドという人間は死んでいるのかも知れない。



 まあ、どうでもいい話だけど。

 コイツが何であれ目の前に立ち塞がるなら薙ぎ払う。 それだけだ。


 先程より更に速くなった戦闘狂グリーズランドの双剣を捌きながら反撃を繰り返す。

 顔を、脚を、腕を、胴体を斬られながらも、戦闘狂グリーズランドの動きは一切止まることはない。


 だが。


「…っ?! ……ふん、限界か」


 戦闘狂グリーズランドの腕が急に力なくだらんと下がり、手に持っていた双剣も床に落ちる。 例えコイツ自身が痛みを感じてなかろうと、体には限界がある。何度も斬られた腕は既に上げることすら出来ないだろう。


「終わりだ、諦めろ」


 聖剣アカネを突き付けてそう言うと、戦闘狂グリーズランドはその場に座り込み


「その様だな。 さあ、止めをさせ」


 と言った。


「何だ、潔いな」


「命乞いでもすると思ったか? そんなみっともないことはせん」


 そう言ったグリーズランドの表情は先程までの獣のような獰猛さは無く、静かに終わりを待つ穏やかなものだった。


 でもコイツ死ぬのか? 実は不死身でした…とかないよな?


「…儂を殺すなら首を跳ねてから体を焼くがよい。 そうすれば流石に死ねよう」


 死に場所でも探していたような口振り、もしそうなら迷惑な話だ。


「言い残すことは?」


「無い」


 グリーズランドは即答し目を瞑る。 もうこれ以上は何も語ることは無い、まるでそう言ってる様だった。


 聖剣アカネで首を落とし、体を魔法で焼いた。

 首を跳ねる瞬間グリーズランドは「済まない、アネリ」と言っていたが…ま、もう関係ない話だ。



「死んだ…のか?」


「ああ、多分な」


(大丈夫、もうあの匂いはしないよ)


 そうか、なら後は。


「さて、残るはお前達だ」


 グリーズランドが死んで助かったと思ったのか、安堵していた男達の顔が再び強張った。




 ――――――――――


 カットした元の設定

 アネリはグリーズランドの奥さん。帝国は真面目で融通の効かないグリーズランドを脅迫する為に、彼が遠征に出たタイミングで拐おうとするも夫の足枷になるくらいならと自害する。

 遠征から戻ってきた彼が聞かされたのは、妻が賊に襲われて自ら命を絶ったという内容だった。


 つづ……かない


































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