この戦いが終わったら…(フラグ)


(悠君悠君!)


 吹っ飛んでいった戦闘狂グリーズランドを追い掛けてる最中にアカネが慌てた感じで俺を呼ぶ。


「ああ、わかってる」


 勇者特性を起動しているお陰で、後方に居る桜花の様子が少しおかしいことにすぐ気付いた。


 来た通路を戻ると、さっき俺が投げた荷物帝国の勇者と王子を睨みながら刀を抜こうとしていた桜花が居た。


「桜花、大丈夫か?」


 はっとした表情で俺を見る桜花。


「だ、大丈夫だ。 それより早く奴を追いかけよう」


 少し気まずそうに目をそらされる。

 ”大丈夫”…じゃないな。


 桜花は真面目で優しいから俺達が救ったはずの世界を…救ったはずの人間達に裏切り者がいて、そいつ等が他人の幸せを踏みにじっていることが赦せないのだろう。

 今まであんな表情をする桜花は見たことがない。


 俺がもっと気を回すべきだった。 いつも近くで支えてくれる桜花に甘えていた…小さくなった桜花にもっと甘えたり我が儘を言って欲しいとか思っていたが、俺がこの体たらくじゃ……。


 こんな時はどうすればいいのだろうか?


(はぐだよ悠君!はぐ! ぎゅーって)


 え? ああ、うん分かった。


 アカネをハグする。


(ふあー悠くーん…♪ ぎゅーって…違うよ悠君! 桜花ちゃんをはぐするの! さあ!)


 え……


 いや、しかしそれは…。


(桜花ちゃんを連れてきたのは悠君なんだから、ちゃんとメンタルケアもしないと。 やくめでしょ )


 いや、メンタルケアは分かる。 俺に出来るかどうかは兎も角として。


「……悠人?」


 何も言わない俺を不審に思ったのか桜花が俺の名前を呼ぶ。


(悠君)


「…ハグは…しかし」


(わたしにはできるのに、悠君へたれ)


 うぐっ?!


「……」


 不安そうな顔の桜花。


「桜花…その、行こう」


 そう言って桜花の手を握る。


「は、悠人?! え、あ……」


 最初は驚いていたが、すぐに顔を赤くして目を泳がせる。


「このままゆっくりしてたらあの戦闘狂グリーズランドは兎も角、他の奴等に逃げられるかもしれない」


「あ…うん、そうだな…すまなかった。 行こう悠人」


 普段の表情に戻る桜花。 俺が握ってた手を離すと、少し残念そうな顔をした。



 わかっている。俺は昔から交遊関係は極端に狭く、茜以外との人間とはまともに関係を築こうとすらしなかった。

 別にそれを後悔している訳ではないけど…それでも俺が他人のことを気遣ったり、思いやることの出来ないのは事実だ。 人と話す時もどう話せばより円滑に会話が進められるか…とか分からないし、そもそも考えたりしたこともない。


 俺はもしかして


 コミュ障…なのでは…?


(悠君…)









 あの後、何故か呆れた顔をするアカネから目を反らしつつ桜花と戦闘狂グリーズランドを追い掛けるとその先で壊れた扉を発見した。 吹っ飛んで行った戦闘狂グリーズランドがぶつかったのだろうか。

 部屋の中から複数の人間の悲鳴や怒鳴り声が聞こえてくる。


「…桜花」


「ん、どうしたんだ? まさかとは思うが今更帰れ等と言うなよ? 私も最期まで付き合うぞ」


「いや、この件が片付いたら茜や桃花と何処かに出掛けないか? 二人には俺から声をかけるから」


 驚いた顔をする桜花。


「……凄く嬉しいけど、今このタイミングで言われるのは何かフラグみたいじゃないか?」


「……」


『俺、この戦いが終わったら…』って、普通の決意表明なのに、まるで縁起でもないことのような扱いなのって大元は何なんだろうか…?



 壊れた扉から部屋へ入る。 中は結構広く、部屋の中心にはやたら長いテーブルがあり会議室のような場所に10人以上の人間がいた。


 その中には頭から血を流す戦闘狂グリーズランド、そしてその足元には貴族のような格好をした男や、鎧を着た騎士が血を流して倒れている。 どれも既に息をしてない。

 どういう状況だこれ。


「おお、来たか。 そっちに戻ろうと思ったらこいつらが五月蝿かったので黙らせていたところだ」


「グリーズランド貴様乱心したか! 自分が何をやっているのか判っているのか、これは明らかな反逆「さっきらから黙れと言っているだろう」…」


 貴族っぽい格好をした男が話し終える前に戦闘狂グリーズランドに首を飛ばされ、地面に落ちた首を見て他の奴等が悲鳴を上げる。


「ああ、そうだ」


 そう言って剣についた血を払いながら戦闘狂グリーズランドが部屋にいた一人の男を指した。

 長いウェーブのかかった白髪混じりの銀髪、他の奴等は怯えて腰を抜かしたり、部屋の隅で縮こまっているのに戦闘狂グリーズランドを鋭く睨み付ける赤いマントを羽織った初老の男。


「あれがお前達が会いにきたこの国の皇帝ザウルバットだ、儂を倒した後で存分に相手をするがいい。 さあ、構えっ…」



 俺は戦闘狂グリーズランドの台詞が終わる前に聖剣アカネで心臓を貫いた。




 ――――――――――


 このタイミングで誰かが『やったか?!』って言ってくれれば…














































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る