勇者には年齢制限があります(多分)



 宮殿の正門前に到着したら、沢山の帝国兵達に出迎えられる。


「何としても止めろ! これ以上進ませるな!」


 隊長っぽい奴が兵士達に指示を飛ばしているが、俺に掴まれている帝国の王子と帝国勇者オルファンに視線を向けてかなり動揺している。


 因みにさっき走り始める時にアカネを抱っこしてたので、この二人を地面に転がしたまま忘れていたので慌てて取りに戻ったのは内緒だ。


 アカネは抱っこがいいと言っていたが、何とか説得して肩に移動してもらった。 ……お陰でさっきからずっと膨れている。


(…ぷくー…)


 …ごめんよ。




 俺達の周りを囲む帝国兵達がゆっくりと距離を詰めてくるが、のこり15m位まで近寄ってきた瞬間、先頭に居た帝国兵が一切声を上げることなく地面に倒れた。

 仲間の一部が目の前で倒れて、短い悲鳴を上げる帝国兵達。


「ああ、言い忘れていたが…私の周囲15m以内に近寄ったら斬る。 これが貴様等の死線だと思うことだ。」


 桜花が低い声でそう告げると、再び距離を離す帝国兵達。


 ……命懸けで宮殿を守るとかしないのだろうか?


 これアガレスの兵士なら絶対後ろに下がったりしないぞ……それどころか、死に場所を見つけたといわんばかりに特攻を仕掛けてくる。 覚悟がキマッた奴多いしな…。


「おい下がるな! 何としてでも止めろ!」


 そう言いながら自分は後方から動かないのな…。 ま、隊長が後方に居るのは普通なんだけど。


 正門前へと桜花と進む。 そして必然的に正門前に陣取っていた隊長っぽい奴へと近づいていく。


「ひっ…来るな! おい誰か何とかしろ! おい聞いてるのか?!」


 …喚くだけじゃ誰も動かないわな。

 目の前の帝国兵達が左右へ避けると、腰を抜かしたのか地面に座り込むまだ若い兵士がいた。


 コイツが隊長か? どうみてもそんな感じには見えないが……まあ貴族の令息かなんかだろ。


「お前等早く助け…」


 隊長っぽい奴が言い終わる前にびしゃりと顔から血を流しながら倒れた。

 俺達は気にすることもなく進む。


 宮殿の扉はは当然閉じられていたが、桜花が『飛水絶ち』を振るうと、扉は大きな音をたてて宮殿内へと倒れた。


 ……何かさ、俺帝都に来てから何もしてないよね。

 しかも両手に帝国の王子と帝国勇者オルファン、肩にアカネ、頭の上にコンが乗っている。

 アカネとコンが見える人間には一体どんな感じに見えるのだろうか……沢山のオプションパーツが付いた完全合体DX超合金勇者ハルト3980円(税別)


「…? 何をしている悠斗、早く行こう」


「あ、はい」


 今なんか物凄く下らないこと考えていた気がする…。


 宮殿内には、やたら高価そうな壺や絵が並んでいた。 ま、美術品の価値なんか俺には分からんがな…。


 時折遭遇する騎士や兵士達と散発的に戦闘しながらゆっくり進む。

 流石に宮殿内にいる兵士達は外にいた奴等と違い、一歩も下がったりはしなかった。


 メイドや執事達は俺達の姿を見ると一目散に走って逃げる。

 だが何人かは逃げる振りをして、隠し持った武器で襲いかかってきた。 格好こそ使用人だったが、多分あれは帝国お抱えの暗殺者とかだろう、体幹が既に普通のメイド達とは違った。


 そう言えばフィーリアにも姫お付きのメイドの格好コスプレをした羅刹がいたな…。



「…居る」


 少しだけ緊張した声の桜花


「ああ、わかってる」


 通路の曲がり角の先に、今までの奴等より遥かに強いのが居る。 俺が手に持ってる帝国勇者オルファンより普通に強くないかこれ、何故こっちを勇者にしたんだ?って位。


 進んだ先に居たのは筋骨隆々の眼帯をした男が、腕を組んで通路の真ん中で立っていた。


「来たか、勇者ハルト」


 男が俺を見ながらそう言った。


「桜花、これ頼む」


 両手の邪魔な荷物を後ろ側に放り投げる。 これ持ったままだとちょっと厳しい。


「……ははは、嬉しいぞ。 少しは儂を警戒してくれるか」


 自分の所の王子が放り投げられたのに笑ってるやがる…。


「儂の名前はグリーズランド…嬉しいぞ、魔王軍との戦争が終わってしまってずっと退屈をしていた所だ」


 将軍まさかの戦闘狂バトルジャンキーかよ聞いてないぞ。


 戦闘狂が双剣を構えて獰猛な笑みを浮かべる。


「構えろ、儂と死合え」


 面倒だなと思いつつ俺も聖剣アカネを構えると、顔をくっつけながらアカネが言った。


(悠君。あれ人間じゃないよ)



――――――――――



「何でわかったの?」


(何か洗ってないお魚みたいな匂いがするから)


「………そうなんだ」





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る