…なんだ、ただの破滅の足音か


(第三者視点)


 エルドニア帝国


 帝都ロドニウスの中心、四方を高い城壁に囲まれた所に皇帝『ザウルバット・ル・フォーク・エルドニア』の住む宮殿がある。


 外観もさることながら宮殿内には高価な美術品に調度品が並ぶ。 贅を尽くした料理はそれ一食で、帝都に住む平民の年収に届くとも言われる。


 そんな宮殿内のある一室に、皇帝ザウルバットを含む帝国の重鎮達が集まっていた。

 彼等の表情は優れず空気も重苦しい。

 本来この集まりは、連絡がとれなくなった第三王子ハリエル帝国勇者オルファンに対して捜索隊の編成の為のものであった。 だが、つい先程兵士が血相を変えてある報告をしてきた。


 勇者ハルトを名乗るものと他一名が第三王子ハリエル帝国勇者オルファンを連れ……掴んで正門を突破し、この帝都に乗り込んできた…というもの。

 この報告に宰相や一部の貴族は憤慨し、残りの貴族や皇帝は顔を青くして黙ってしまったのだ。

 因みに他一名、というのがもう一人の勇者である桜花であることは、報告をした兵士を含めて誰も知らない。 まあ知った所でどうにもできないのだが。


「……勇者ハルトとやらは一体どういうつもりでしょうか? 王子と愚息オルファンを人質にとって、たかだか二人で帝都に乗り込んでくるなんて」


 その重苦しい雰囲気の中、一人の男が口を開く。 長い金髪を後ろで縛った40歳ぐらい男、ベルガ・シュレー。 帝国の勇者であるオルファン・シュレーの父であり、シュレー侯爵家の現当主である。


 因みに悠人は第三王子ハリエル帝国勇者オルファンを人質だなんて思ってはいない。 悠人は帝国相手に交渉をしに来た訳ではない、ただ愛する恋人の仇をとりにきただけなのだ。

 彼等の中の何人かは悠人が帝都に乗り込んできた理由を察している。 実は発言者のベルガもその一人であるが、こうして心当たりなんて全くないという態度が出せるのは、厳しい貴族社会を生き抜いてきたお陰だろうか。


 しかしそれはあくまでも表面上のこと、内心は気が気ではなかった。

 当然である。もしあのことが世間にバレたら、待っているのは間違いなく破滅だ。

 今まで築き上げた物を全てを失うことになる。 故にベルガは考える、なんとかシュレー家の取り潰しだけでも回避できないか…と。


(最悪 息子オルファンを切り捨ててしまえば良い)


 そして愚かにも、自分の命が亡くなる可能性については考えていなかった。


「勇者ハルトはフィーリアが召喚した異世界人なのでしょう? ならばこれはフィーリア国からの宣戦布告も同然なのでは?」


「忌々しいフィーリアの狗め…」


「帝国に喧嘩を売ってタダですむと思うなよ」


 口々に好き勝手な発言を始めた者達を咎めることもせず、皇帝ザウルバットはただ顔を青くして俯いていた。



 ――――――――――



 少しだけ時を遡り、とある貴族の屋敷の一室にて。


 この屋敷には全く似つかわしくない格好をした男が、この屋敷の主である貴族の執務室で机の隠し棚を漁っていた。


(あった…これで証拠は揃ったな、全く…人使い荒すぎだ。 ま、これでアカネ様の仇がとれるってもんだ)


 彼はある依頼を受けて帝国のとある貴族の屋敷に忍び込み、こうして目的の物を探していた。 屋敷の主である貴族は朝早くから宮殿へと出掛けて行ったので、じっくりと執務室を漁ることができた。


(しかし…本当にザルな警備だな…これ本当に侯爵家の屋敷なのか?)


 彼がそう考えていると念話が届いた、そして。


『そのまま進んでくだせえ。 機をみて合流します』


(…まさか正面から乗り込んでくるとは…ま、あの人らしいか)


 そんなことを考えながら、元勇者パーティで斥候スカウトを務めていたギドはそのままそこから立ち去った。


 ――――――――――


 女性キャラが……一人も登場していない…だと?

























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る