あおりあい戦場(桜花視点あり)


 帝国勇者オルファンが腰の剣を抜き、それに合わせて帝国兵達も武器を構える。

 あれが聖剣かな。見た目は立派だけど大した力は感じないが……何か特殊な能力があるかもしれないし一応警戒しとくか。


「自分達のやってることの意味は理解してるんだな?」


「愚問ですね、貴方達にはここで死んで貰います」


 俺はショートソードを安っぽい鞘から抜いて構える。桜花も手に持っていた木刀を持ち直して構えた。


「ふ……あははは! 何ですかそのみすぼらしいショートソードと木の棒は! 糞田舎フィーリア脳筋国家アガレスは資金難か何かで? なんならご融資しましょうか? いやぁ…勇者様は大変ですねぇ?」


 帝国勇者オルファンの言葉に、周りにいる兵士達も嘲笑う。


「流石世界を救った勇者様だ!そんなショボい得物で俺達帝国軍に勝てるってか?」


「女勇者様なら股を開けば銅貨ぐらい恵んでやるぜ?」


 随分調子にのってるな、さっきまでの戸惑うような態度は何処にいったのやら。


 それに


「何の話かは知らないけど別に聖剣は失くしてなんかいないぞ」


「ふん、知っているのですよ…貴方が全く聖剣を出さなくなったのは。 出せるというなら出してみなさい…ま、無理でしょうがね。」


 使わなくなったのは事実だが…

 できることなら余り使


「お前達相手に聖剣は必要ない」


「くく…哀れですねぇ」


 必要になったら使うけど…コイツ等ならショートソードがあれば充分だろ。


「そんなことより…さっきの話だと、ここに帝国お前達の王子がいるようだな。 そいつにも色々と聞かせてもらうぞ。…無理矢理にでもな」


「いくら勇者とはいえ、そんな武器でこの帝国勇者オルファン・シュレーと帝国軍の精鋭に戦って勝てると思っているのですか?」


 こうして俺と帝国勇者オルファンが会話してる時も、俺の後ろで桜花は不意打ち等を警戒してくれている。


「帝国勇者? 帝国軍の精鋭? そんなものが何処に? 俺には豚がキィキィ鳴いてるだけの平原にしか見えないな」


 俺の言葉に帝国勇者オルファンや帝国兵達から不愉快な笑みが消える。

 そして一瞬の沈黙のあと、俺達の後方から矢が放たれるがあっさり桜花に弾かれる。


 それを合図に帝国兵に斬りかかる。


 矢が弾かれたことに驚いていた為、反応に遅れた帝国兵を二人斬った。そのタイミングでようやく我に返ったのか武器を構える、遅すぎるな。


 剣を振り下ろしてくる兵士相手に一歩踏み込んで、カウンターで肘鉄を当てて腕を斬り落とす。

 頭を掴んで魔法で直接電流を流してから腕を斬り落とす。


 何人か斬ってから桜花の方を見ると、フルプレートを装備した兵士三人に囲まれていた。



 ――――――――――


(桜花視点)


 魔法を詠唱していた兵士の喉を突き、弓を構えた兵士の眉間を割る。


 全く手応えがないな、先程の威勢はどこへいったのやら…


「そこまでにしてもらおうか、その棒っきれでこのプレートアー…………ごぽっ」


 目の前にでてきたフルプレートを装備した兵士達のヘルムの隙間から、血が吹き出してそのまま大きな音をたてて倒れる。


 フルプレートなら木刀を防げると思ったのだろうが…あんなもの私にとっては案山子と変わらない。



「あ~あ…めちゃくちゃじゃん、どうすんのこれ」


 今度は何だ


「お、キミが勇者オウカちゃん? ふんふん…へぇ~、可愛いねぇ」


 金色の趣味の悪い槍を持った、赤毛の男が軽薄そうな笑みを浮かべている。兵士達とは違う…どちらかというと冒険者のような格好をしている。

 こんなのに『可愛い』等と言われても嫌悪感しか湧かない。


「あ、自己紹介がまだだったねぇ」


「要らん」


「オレの名前はガレオス、金槍のガレオスって実はオレのことなんだよねぇ! どう?どう? しかも今は帝国の勇者のパーティ所属してんの。どう? 凄いっしょ?」


「知らん、聞け」


 シャールのパチモンだろうか…? 海賊版とか…


「んだよつれないなー…オウカちゃんさぁ、あんな肩書きだけの暗そうな男よりこっちにつかない? もしついてくれるならオウカちゃんには手を出さないように、言ってあげるからさ。」


 こいつ今、悠人を馬鹿にしたな…


「私が悠人と茜を裏切ることは絶対にない。ましてや貴様のような…下らない奴につくなんてあり得ない」


「ふ~ん…いいや、無理矢理ってのも嫌いじゃないし……ねぇ! ちょっと勿体無いけど、死ぬまで玩具にしてやるよぉ!」


 そう言いながら槍で突きを繰り出してくる、確かに他の兵士達に比べたら、まだマシな程度の鋭さと間合いの取り方だ。


 だが


 この程度の奴に引けを取るような存在は私達勇者パーティには一人もいない。


 そして


「貴様程度が軽くあしらえないのなら…悠人の背中を任される資格はない」


「あぁん? さっきから防戦一方のくせ……んあ?…ごぺぇ!」


 間抜けな声をあげながら、が血まみれなことに気づいた奴の顔面をフルスイングで打ち抜いた。



 ――――――――――


(悠人視点)


「で、向こうも終わったようだぞ」


 兵士達も残り三分の二ぐらいか。 ただ鏖殺すればいいだけなら簡単なんだけど…。


「…はぁ…はぁ…っく…」


 悔しそうに肩で息をしながら、俺を睨み付ける帝国勇者オルファン


 あれだけ自信満々だったからどれだけ強いのかと思ったら、魔王軍との決戦に参加しなくて正解だったな…ってレベル。


 帝国の勇者って何を基準に決めるんだろうな。


「…………く…くくく、これはまだとっておきたかったのですが仕方ありませんね…!」


 帝国勇者オルファンはそう言って、懐から手のひらより少し小さいオーブを取り出した。


 ……あれは


「聖剣を失った貴方にこれを使うことになるとは…」


 帝国勇者オルファンがオーブを持った手に魔力を集めると、地面に魔法陣が出現する。


 やっぱり…でもなんで帝国の勇者が魔王軍の使ってた魔導具を持っている…?


 この様子を見ていた帝国兵達は明らかに動揺している、あの魔導具のことは知らないようだ。


 そして魔法陣から出現したのは体長7、8メートルの牛頭ミノタウロス、だが普通の牛頭ミノタウロスは大きくても4メートルはない。 あれは余裕でその倍はある…しかも色は全身が赤く、手にはその大きさに見合った戦斧を持っている。


 俺も一度だけしか戦ったことはない、魔王軍が城郭都市を落とすのに、赤牛頭コイツを使い多大な犠牲者をだした。その中には勇者パーティの仲間もいた…。


 魔法陣からはさらに何体かのガーゴイルも出現している。


 不味いな、これは流石にショートソードじゃどうにもならない。


「くく…素晴らしい! さぁ、彼奴を殺しなさい!」


 馬鹿かアイツ、あれは魔物だ、理性はなく言葉も理解しない…つまり誰の命令も受け付けない。魔王軍との戦争中も殆んど特攻兵器のような扱いだった。


 案の定ガーゴイルは、手近にいる帝国兵達に襲いかかり、あちこちから帝国兵の悲鳴が聞こえる。


 それを見た帝国勇者オルファンが何か喚いていたが、今は其どころじゃない。

 赤牛頭レッドミノタウロスは俺をに狙いを定めたのか、口から唾を散らしながら咆哮している。



 桜花も今は木刀しか所持してないし、帝国兵の武器を奪ったところで、赤牛頭レッドミノタウロスの相手はキツイ。


「悠人、あれは…」


 桜花が近寄ってきた、手にはロングソードが握られている。


「……赤牛頭アレの相手は俺がする、桜花は数が多いけどガーゴイルを頼む」


「一人で…大丈夫なのか?」


「聖剣を使う、今はそれしか手はない」


「そう…か…すまない」


「何で桜花が謝るんだ? 今なら大丈夫だ…帰れば茜もいるしな。 だから…背中は任せる」


「っ!……ああ、承知した!」


 覚悟しろよ帝国勇者オルファン・シュレー、コイツを倒したら色々問い詰めてやる…証拠もある、言い逃れはさせない




 ――――――――――


 エラーやめろ萎える…


 次回は悠人の聖剣のお話








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