【幕間】はると と あかね と こん


(第三者視点)


 天川家には悠人が産まれる前から飼っている犬がいた、シーズーのオスで名前は『コン』。


 大人しく人懐っこい性格で、悠人と茜が産まれてからはまだ小さな二人の傍でその成長を見守ってきた。


 悠人と茜がお昼寝する時は必ずコンも隣で寝ていた、そんな二人と一匹の姿を二人の両親はいつも微笑ましそうに見ていた。


 因みに悠人が初めて話した言葉は『パパ』や『ママ』ではなく、『あーねちゃ』(あかねちゃん)で次は『こん』だった。

 茜の方も『はるちゃ』(はるちゃん)であり、お互いの両親はちょっとショックだったりもした。


 これを知った時に茜が小さくガッツポーズをとったことは誰も知らない。



 とても幸せな時間だったが犬と人間では寿命に大きな差がある、加えてコンは悠人が産まれた時点で10歳を越えた老犬だった、いつかは別れがくる……しかし小さな悠人にはまだそんなことは理解できるはずも無かった。


「おかあしゃん…こんね、ごはんたべない…げんきない?」


 それを聞いた悠人の母親の小百合は少し悲しそうな顔をした、それでも優しい笑顔をつくり


「ええ…そうね、きっと疲れてるの…だから少しだけ寝かせてあげましょ?」


 そう答えた。


 悠人はコンが寒くないようにタオルケットをかけて、心配そうに寝ているコンを見ていたが、そのままコンの横で寝てしまっていた。

 それを見た小百合は悠人にもタオルケットをかけて、愛しい息子と愛犬を優しく撫でていた。


 近いうちに来るであろう家族コンとの別れ、それを息子悠人が理解し、受け止めるのはいつになるのだろうか……小百合はそんなことを考えていた。



 ある日、お昼寝から起きてきた悠人が両親に言った


「こんね…つかれてるから おきないの、だからまだねんねしてていい?」


 悠人の後ろで一緒にお昼寝をしていた茜がオロオロしていた。



 別れは突然やってくる


 それを聞いた悠人の両親は、眠るようにして動かなくなった家族コンをタオルケットにそっとくるんで抱き上げた。


 善二郎も小百合も覚悟をしていたが、やはりそれはとても辛いものだった、息子悠人が心配そうに見ていたから余計に……。


 どう伝えればいいのだろうか……それはまだ子を持つ親として未熟な自分達には難しい、そう思った善二郎はただ悠人を抱き締めた。





 それからコンがいなくなったことを知った悠人は泣いた、沢山泣いて両親にどうしたらコンが戻ってきてくれるのか聞いた、大切にしてる玩具をあげるから…ちゃんと良い子にするから…と。


 しかしやがて悠人は泣くのをやめた、死を理解した訳ではない、ただ自分がそう我儘を言う度に、大好きな両親が辛そうにしてることを知ったから。


 悠人は口を固く結んで泣きそうになるのを我慢しながら、段ボールに愛犬コンの玩具やお気に入りのクッションを纏めていた、最初は両親がやると言っていたが悠人がどうしても自分でやりたいと言ったのだ。


 隣で茜も泣きそうになりながらそれを手伝っていた、それを見た両親はできれば茜が悠人を、悠人が茜を…お互いを支えあって生きてほしいと感じていた。


 後日、茜がずっと寂しそうにしていた悠人に犬のぬいぐるみをプレゼントした、悠人はそれを見て泣いてしまった……茜はそんな悠人をずっと抱き締めていた。


「わたし はるちゃんと ずっといっしょにいる…」






「……懐かしいな。」


 部屋を片付けていた悠人はボロボロになった犬のぬいぐるみと一枚の写真をみつけた、写真にはまだ小さい時の悠人と茜、そしてコンが一緒にお昼寝をしている姿が写っていた。


 未だにコンの物を纏めた段ボールは悠人の部屋のクローゼットに仕舞われていた、思い出が消える訳じゃない、愛がなくなる訳でもない……でも悠人はそれを捨てることはできない。



 別に無理に切り替えていく必要はないのだと思う、乗り越えて、前に進むことさえできれば。



 悠人は犬のぬいぐるみと写真を段ボールに仕舞っていたタオルケットの上に置いて、そっと蓋を閉めた……。




 ――――――――――――


 皆様あけましておめでとうございます。(遅


 新年早々意味不明な幕間を挟んでいくスタイル、毎度のことながら振れ幅の大きい作品ですいません。


 今年もよろしくお願いします。

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