勇者だって昔から鬼だった訳じゃない(多分)

(ティセニエラ視点)



『あなたが勇者さま?』


『そう…呼ばれてる…ああ、いえ…ます』


『ふふふ…変に畏まった話し方しなくても大丈夫ですよ』


 第一印象は……そうですねぇ、あまり勇者さまって感じではなかったですねー。


 お恥ずかしいながら…強く、カッコよく、優しく、清廉潔白なそんな完璧な王子様を想像しなかった訳じゃありませんから。


『また来たの…? 俺が訓練してる所なんて見ても面白くないと思うけど。』


『そんなことないですよ 』


『お姫様って変わってるんだな』


『うーん、そうかもしれませんねー……ねえ、ハルトは何でそんなに頑張るんですか?』


『……この間言ってたストラバウムって国に召喚された勇者の名前って、俺がここに呼ばれる前の世界での恋人の名前と一緒なんだよ』


『…え? 本当…ですか?』


『アカネ チドウ、地堂って名字は珍しいから、多分本人だと思う』


『えと……それは…』


『城での訓練が終れば、他の国の勇者と合流するって…俺は、茜に会えたら色々話したいことがあるから…早く強くなる』


 わたくし


 そう言ってたハルトの顔を一生忘れることはないでしょう。



 母は市井の産まれで、街で怪我をした見知らぬ子供の手当てをしていた時に、偶然街中を馬車で移動してたお父様に見初められたのが切っ掛けで、貴族の反対を押しきり強引に側室に迎えたそうです。


 そして産まれたのがわたくしだそうです。


 お父様は母のこともわたくしのことも他の王妃様や側室の方々と同じように愛してくれましたし、お城で働く騎士やメイド達も…一部の貴族以外の方々は優しく接してくれます。


 ですから…


 よく知らない人との婚約政略結婚なんてどうということはありません。

 それが例えこの国を蔑み、わたくしに厭らしい目線を向けてくる帝国の第三王子であっても……。


『婚約が嫌なら俺がちゃんと断ってやる、心配するな、帝国の援軍なんぞ無くてもこの国には頼もしい同盟国アガレスやストラバウムがいるし、それにヴァーデ侯爵家の娘のエルフレア《羅刹姫》だっている……だから……」



 お父様の気遣いはとても嬉しいですが、フィーリアは先の魔王軍との戦いで大きな被害を負いました……アガレスやストラバウムも同じく大きな被害がでているため、この国に援軍をだす余裕はないはずです。


 エルフレアだってどんなに強くても、彼女一人で戦況がひっくり返る訳じゃありません…。


 困っていた所にエルドニア帝国からの第三王子との婚姻の申し出、これを受ければ帝国からの援助をうけることができる…しかも半分は庶民のわたくしでいいならと、一部の貴族達はこれを受け入れるべきだと主張しているようです。


わたくしのことなら大丈夫ですよ、お父様…これも王族としての務めですから。……ですから』


 そんな思い詰めた顔をなさらないで下さい…



 そしてその後…フィーリア、アガレス、ストラバウムの三国による会議で勇者召喚を行うことが決定しました。



 そして沢山の犠牲を出しながら魔王を討伐することに成功、その犠牲の中にはハルトの恋人である勇者 茜も含まれていました……。



 ――――――――――


(悠人視点)


「っ…がひぃ?! おご……」


「おい、ちゃんと質問に答えろよ……」


 さっきから変な呻き声をだすことしかしなくなった野盗のボスを、村の中心に引きずりながら幾つか質問をしてるが、会話も出来なくなってしまった。



 その途中で俺に向かって魔法火槍が飛んできたので、つい手に持ってた野盗ボスを盾にしてしまう。

 炎に包まれ断末魔の声を上げる野盗ボス、まだ聞きたいこともあったのに……。


 魔法火槍が飛んできた方を見ると、怯えた目をした野盗がそこにいた、なんだあの化け物を見るような目は、失礼な奴だな……しかもトドメさせたのはお前だぞ。


 そいつは俺が歩いて近づくと小さく悲鳴を上げながら後ろに下がる、その時すぐ後ろの建物から二人の人間が飛び出してきた。


「…っ…ハルト様!」


「ん?……セルジュ…とユーリか?」


 成長してて一瞬分からなかった……いや無理もないか、三年以上たってるしな。



 ――――――――


 流石に娘の政略結婚が嫌だから勇者召喚をした訳じゃないです。召喚当時、三国ともかなりダメージを負っていたのが主な原因。


 まぁ理由はどうあれ異世界人が身勝手なのは確か。














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