ずっと一緒って言ったね? …言ったね?



 膝を突く満身創痍の魔王軍幹部。


 止めを刺す為に近づく俺。


 すぐ近くで茜が心配そうに俺を見ている。


 俺と少し会話をした後で魔王軍幹部が突然笑いだし、何かを察知した茜が俺に向かって走りだす。


 魔王軍幹部の手には、いつの間にか黒い槍のようなものが握られていた。 その黒い槍を俺に向かって放つ、そしてそれは俺を庇った茜に………―――



 目の前が赤く染まる、自分が自分ではなくなる感覚。


 殺したり、殺されたり


 戦争だから、俺達も相手に同じことをしているのだから……そんな『自分はちゃんとわかっている』かのような考えを俺はもっていた。


 奪われたこともないくせに…


 その時の俺の中にあったのは『憎い』『殺す』の二つだけ、気づいたら目の前の魔王軍幹部茜の仇は原形を全く留めない肉塊になっていた。


 茜と桜花が何かを話していた、俺が近寄ると涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔をした桜花が離れる。


 茜に刺さっていたのは実態のない黒い呪いの槍、触ることも呪いを解くこともできなかった……こんな強力な力があるのにこの槍をこれ以降の戦いで見掛けることはなかった。


 何か特別な条件でもあったのだろうか?


 どんどん冷たくなっていく茜の手を握る、俺は茜を助けることができないこの状況に絶望していた。


 その時、俺はパーティメンバーの一人がある魔法について語っていたことを思い出した。



 肉体から離れた魂を戻す魔法。


 茜と一緒にパーティに参加した、ストラバウムの姫であるサラティナはそう言った。


 しかし茜の体に突き刺さったまま抜けない黒い槍のせいで、魂を肉体に戻してもまた直ぐに死んでしまうという。

 それでは、ただいたずらに茜を苦しめて魂を傷つけるだけ。


『…これから先もずっと一緒にいてね?』


 ……そうだ、俺はずっと茜と一緒にいるんだ。


 だから俺はサラティナにこう言った。


「……茜の魂を……俺に…入れる……こと…は…できない…だろうか?」





 ―――……



 朝か……昨日は夜中に泣いていた茜を安心させて、一緒に寝ようとしたらおうかと とーかが布団に入ってきたんだっけ、狭いけど暖かくてよく眠れたな。


 布団にもベッドにも茜達の姿がない、もう起きて一階にいるのだろうか?


 あ、三人の朝御飯を用意しないと。


 急いで着替えて居間へ向かうと……




 元の姿に戻った桜花とがイスに座り、顔を真っ赤にして下を向いていた。



 …戻ってる。 良かった…と、安心したがちょっと残念に思っている自分がいた。 …しょうがないだろ、このままじゃお父さん欲(昨日産まれた悠人三大欲求の一つ)が満たせないんだよ。


「…おはよう。」


 俺の朝の挨拶に対して二人は、顔を一切上げることなく小さな声で「おはよう…」と返してきた。


「あ、ハル君おはよっ もうすぐ朝御飯できるから桜花ちゃん達と座って待ってて。」


 俺の嫁がそう言いながらキッチンから顔を覗かせる。


「あ、うん、ありがとう。」


 茜にお礼を言ってイスに座ると桜花達はビクッと肩を震わせた。 …ん?


 なんだろう、何か怖がらせることしたっけ?


 俺が見つめると二人共更に顔を赤くしている、茹でた蛸みたいな色になってるぞ。


 ………あ


 そういえば昨日の記憶って残っているのだろうか? 残ってなくても彼女達からすれば知らないうちに丸1日たっているのだから気になるよな。


 やばい……なんて説明言い訳しよう。


「あ…あ、あのっ! はっ…悠人!」


 赤い顔に目がグルグルになってる桜花に声をかけられる。


「うん、どうした?」


「きょきょっ…今日はお日柄もよく…あ、違…じゃなくて、えっと…えっと」


「お…お、落ち着きなさい! ま、まだよ!まだそうハッキリした訳じゃないわ! 」


 見るからに限界の桜花と桃花、一体何が…


 ま さ か


 昨日のことを全部覚えているのか?! だとしたらかなり不味い、桜花はともかく茜や桃花に魔法薬なんてどう説明したら…


「ハル君、朝御飯できたから並べるの手伝ってくれる?」


 絶妙なタイミングで茜が声をかけてくる。


「ああ、わかった。」


 茜だけ平常運転だ、いや、普段に比べて機嫌がかなり良い。 足取りも軽く顔からは幸せオーラが溢れている。


 その後四人で朝食を食べる、食事中は茜が桜花や桃花に話しかけ、二人がぎこちなく返すていうのを繰り返していた。


 食事が終わり茜が片付けを始めると、二人が手伝い始めたので俺も参加しようとしたら。


「い…いいからはる…天川は座ってなさいよ、アタシ達は泊めてもらってる立場なんだから。」


 うーん……なんか除け者にされてるようで寂しい。



 片付けも終わり四人で食後のコーヒータイム

 …なんだが桜花と桃花の態度は相変わらずぎこちない、やっぱり昨日のこと……このままじゃ埒が明かない。


「なあ、昨日のことなん…」


 俺がそう切り出した瞬間凄い勢いで桃花が立ちたがる。


「ああアタシ用事を思い出したわわそれじゃ失礼するわねご飯美味しかったわごちそうさままた学校でね!」


 そう言って荷物を持って玄関へスタスタと移動する、遅れて桜花も立ち上がり


「わ…わわ私もこれで失礼するままままたメッセージをおくるから!」


 そう言って桜花も玄関に向かう。


 もうちょっとゆっくりしていけば良いのに…俺と茜も見送りの為に玄関へ。


「桜花ちゃん、またね。」


「う…うん、またな茜。」


「え…ええ、また。」


「桜花、、また遊びにこい。」


 できればまたおうかと とーかとして…。


「へ…あ………あ…そんないきなり…」


 俺の言葉に桜花は目を反らして小さく頷き、桃花は顔をまた真っ赤にして、目を潤ませてへたり込んだ。


 え…大丈夫か?


「………ょ…。」


「…ん? なんだ?」


「いきなり距離を詰めないでよ! こっちにも心の準備があるんだから! バカ!変態!ヒーロー! ふえーん!」


 言いたいことを言って桃花が飛び出して行った、桜花はそれを追いかけて出ていく。


 っていうか桃花変態に変態って言われた……。



 あれかな、反抗期なのかな?


「ハル君。」


「はい。」


「少しお話があります。」


「……はい。」


 茜も…反抗期なのかな。




 ―――――――――――


 次は逃げた桜花、桃花が恥ずかしさで死にかける話。



 お風呂と茜達が元に戻らずに朝、悠人にお世話されるオマケ話が書きたいです先生…


色々と優しいコメントありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る