じんるいのとうたつてん


 なんとか茜達を写真に収めたい衝動を押さえ込み、茜達が選んだ食玩を、買い物カゴに入れてレジへ。


 会計中も三人はキラキラした目線を向けてくる、その様子にレジのおばさんは、微笑ましいものを見るような顔で見ていた。


 帰りは茜、おうか、とーかにそれぞれお菓子と食玩、野菜を一つ入れた買い物袋を持ってもらった。


 三人共嬉しそうで俺まで頬が緩んでしまう。


「あ! はるちゃんがわらってる!」


「はると うれしいのか?」


「とーか つかれたー…だっこー」


 とーか はフリーダムだな…


「三人が嬉しそうだからね。」


 とーか を抱き上げながら答える。


「わたしたちがうれしいと はるちゃんもうれしい?」


「ああ、めっちゃ嬉しい。」


 俺の答えを聞いた茜が「そっかー」 と笑った。



 ―――――――――――


(霧谷 瑞香(きりたに みずか)視点)


「またフラれた…。」


 これで何回目だろうか、私の名前は霧谷 瑞香 (きりたに みずか) 今年 大学一年になる女子大生、趣味はアニメ観賞とお菓子作りで絶賛彼氏募集中!です! 今は。そう、”今は”


 たった今、さっきまで付き合っていた人にメッセージアプリでフラれたばかり…。


 初デートはお互いの両親に挨拶がいいと言っただけなのに…だってちゃんと付き合うんなら、お互いの両親への挨拶、将来設計をしっかり立てて、子供は何人欲しいとか色々決めなきゃならないじゃない?

 それなのに『君とはやっていけない、正直重すぎる』って……。


 酷い、酷すぎる!私そんなに重たくない!(体重的な意味で)


 そんな傷心中な私は、近くのスーパーに夕食の材料を買いに行く最中だった。


「ん…?」


 スーパーに行く途中にある公園の前を通った時、黒く短い髪にメガネをかけた、高校生ぐらいの男の子が目にはいった。


 男の子は連れている三人の小さな女の子を、優しい顔で見守っていた。


 うあー! 三人共めちゃくちゃ可愛い!あんな子供が欲しいなぁ。


 しかしその時、私は一つ気になったことがあった。


 あの男の子は女の子達と、どういう関係なんだろう? 兄妹にしては似てないし…義理とか? でも女の子達は女の子達で似てないし…。


 …もしかして誘拐とか…ま、まさかね?


 どうしても気になってしまった私は、気づいたら男の子達に話しかけていた。



 ――――――――――――



 …なんか変な女の人にガン見されてる。一体何の用だろうか……っは?! まさか可愛い茜達を狙う不埒な輩なのか?!


 女の不審者がこっちに歩いてくる、茜達を庇うように前にでる。


「何か用ですか?」


「え…と、か…可愛い子達だなーって思って…。」


「でしょう?」


 見る目があるな、やはり不審者か。


「はるちゃん このひとだーれ?」


「不審者だよ茜、取り敢えず警察呼ぼうね?」


「違うわ!」


「――…ひう?!ふ…ふえーん…」


 不審者の大声にとーか がビックリしてしまった、絶許。


「あ、あ、…ご、ごめんね大きな声をだして。 う…そんなに睨まないでよ…。」


 不審者はコホンと咳払いをして仕切り直した。


「私は霧谷 瑞香、この近くの◯◯大学の一年よ。」


 いきなら自己紹介をして、こっちをじっと見つめる霧谷さん。


 え、俺も自己紹介するのか? うーん…あんまり気乗りしないけど、茜達が自己紹介をしたそうにソワソワしている。しょうがない。


「…天川 悠人、高校一年です。」


です!」


だ!」


「… ……」


 茜は手を上げながら


 おうか はポニーテールを揺らしながら


 とーか は俺の後ろに隠れながら

 ちょっと嬉しそうに自己紹介をする三人、素晴らしい、やはり天使だったか。


 家を出る前に三人には名前を聞かれたら、俺の名字を名乗るように言ってある、ぬかりはないのだ!


「あら、三人共ちゃんとお名前が言えて偉いね!」


 霧谷さんが屈んで茜達をほめる。


「ちゃんと三人には俺が言い聞かせてますからね。」


 これには元勇者もニッコリ、ちゃんと『俺が』の部分は強調しておいた。


「三人共 幼稚園よね、 どこに通ってるの?」


 ……しまった、どこの幼稚園とか言われても、この辺りの幼稚園とか知らないぞ。

 茜と一緒に通ってた幼稚園って閉園してて、もう無いんだよな…。


 どう誤魔化そうか考えていたら、俺の可愛い幼馴染が何時もの様に突然暴走を始めた。


「わたしは はるちゃんの およめさんだから ようちえんにはいってません!」


 あ、ちょ…


 霧谷さんが茜の発言に驚いた顔をする。


「え…あかねちゃんって天川君の妹さんじゃ…?」


「はるちゃんは おにいちゃんじゃ ないよ?」


「……。」


 何か凄い顔で見られてるんだが…。


「わ、わたしも はるとのおよめさんだぞ!」


 ここでまさかの、おうかの暴走うらぎりにあう。


「と…とーかも はるとのおよめさん…」


 更科桃花ブルータス お前もか…!


「成る程、”ちゃんと言い聞かせて”るのね。」


 駄目だもう誰も信用できないスマホしまって通報しないで!


 なんて説明言い訳すれば…?!


 おおお落ち着け俺まだだまだ巻き返せる!茜達の悪意ゼロの暴走裏切りになんて屈したりは…


「はるちゃん はるちゃん」


「お?どうした茜。」


 茜に手招きされたので、庇み込んで近寄ると頭を抱き締められた。


「よしよし いいこ いいこ」


 茜に頭を撫でられる俺。こ、これは…


 ―――――扉だ、見たことない扉


「はるとー…だいじょうぶか?」


 後ろからおうか に優しく背中を擦られる。


 ―――――扉が音をたてて開こうとする


「はるとー…つかれた? こんどは とーかがだっこしてあげる」


 ―――――駄目だ…この扉は開いたらマズイ



 ―――――――――――――


(ハルト視点)


「最近巷では、小さなの女性に母性を感じるのが流行っているそうですよ。」


「は?」


 宿屋の食堂で、パーティメンバーの男連中と雑談してたら、サラサラ銀髪のイケメン『銀槍のシャール』が突然訳のわからないことを言い始めた。因みに女性陣は現在お風呂に行っててココには居ない。


「突然何を言ってるんだ…?」


「オレも聞いたことがあるな、フィーリアやアガレスの王都でも流行っているそうだぞ。」


 鋭い目付きの偉丈夫、『不動のバルクス』が顎に手をあてながら答える。


「え、何…異世界グレセアってバブみが流行ってるのか?」


 怖…


「ハルトさんの居た世界じゃ『バブみ』って言うんですかい?』


 悪人面のやせぎす男、斥候スカウトのギドに話しかけられる。ギドはこうみえて仕事は堅実だし意外と良い奴だ、が…悪人面で結構イケメンのギドが真顔で『バブみ』とか口にするのは勘弁してほしい、笑う。


「まあ、こっちで流行ってるのと、俺が知ってるのが一緒かどうかはわからないけど。」


「成る程…因みにハルト様はその、『バブみ』については?」


「いや…特に興味はないけど。」


「ふむ、オレはありだと思うが。」


 マジかコイツ…お前のフルプレートが泣くぞ。


 異世界グレセアの人間って美形が多いんだが、そんな美形共が『バブみ』連呼してて地獄感ある。……余計なこと言うんじゃなかった。


「異世界風に言うと『バブみ』と言うらしいぞ。」


「へぇ…故郷の母ちゃんにも教えてやろっと。」


「じゃあ私がティセニエラ様に抱いた感情も…。」


 しかも他のメンバーにも感染し始めてもう収集がつかない、っていうか最後の奴今の発言エルフレアに聞かれたら人生終わるぞ。



 面倒臭くなってきたので、部屋に戻ろうか悩んでたら女性メンバーが戻ってきた。


 良い香りのする茜が俺の隣に座る。


「ただいま悠君、ねぇ、何か盛り上がってるけど一体何の話をしてたの?」


 ……………………。


「次の魔王軍の拠点攻略についてちょっとね。」


「ふぅん…本当に?」


「本当でさぁ、アカネさん。なぁ?」


 ナイスアシストだギド! さぁ皆合わせるんだ!


「え? いえいえ、我々は『バブみ』について語ってました!」



 ギドはこめかみに手を当てて「アホ…」と呆れていた。


 歯ぁ食いしばれシャァァァァル!


 俺は拳を―――



 ――おもいっきり振り抜いた、何か扉の様なものが粉々に砕けた。 ような気がした。



 ――……っは?! 俺は一体何を?


 確か…何かいけない扉が開きそうに…。


 ふと横を見ると俺の嫁の茜と、自称嫁のおうか、とーか、不審者の霧谷さんが俺を観察していた。


「…俺、何してた?」


「…確か『バブみ』がどうのって。」


「うちゅーのしんり なんだって」


「おさななじみは さいこう らしいぞ」


「はると…ちょっとこわかった」


「取り乱してごめんなさい。」


 微妙に平常運転な部分も残ってた。


 ―――――――――


 そんなにカオスじゃ無かった


 レビューコメントありがとうございます、めっちゃ嬉しい。













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