乙女達の怒り①(茜・桜花 視点)

(茜視点)


 ゆっくり目を開けると見慣れた天井。外はまだ暗く、時計はまだ午前三時を指していた。


「またあの夢…。」


 最近よく同じ夢を見る。


 夢には凄く綺麗な黒髪の女の人と、物凄く格好良い男の人が二人で歩いてる夢。

 女の人は男の人のやや後ろを歩きながら、男の人の背中をとても愛しそうに、それでいて悲しそうに見つめていた。


 わたしは二人のことを知っている…あれはきっと…。


「悠君と……桜花ちゃん。」


 …あれ?

 自分の呟きに違和感を覚えた。でもどこが間違ってるか分からないし、なんだかもやもやする…。


 それに、あの二人がハル君と桜花ちゃんなら……わたしは……どこに?


 そこにわたしが居ないことに、何とも言えない気持ちが沸き上がってくる。


 寂しさ、悲しさ、嫉妬、どれもが正しくてちょっと違う……これは罪悪感?



 あの桜花ちゃんと二人でケーキ屋に行った帰り、沢山の男の人達に絡まれて、男の人の一人が桜花ちゃんに手を出そうとしたら男の人達が急に皆倒れて…。


 普段とは違うあの時の桜花ちゃんの横顔…初めて見たはずなのに、わたしはその顔を知っていた。


 あれ…わたしと桜花ちゃんって、


『ふふ…そうだな。茜、悠人も私のことも桜花 と呼んでくれ。』


『こら悠人!話しを聞いていたのか?! 全く…茜からも厳しく言ってやってくれ!』


『あ…茜っ、も…もしもこの戦いが終わったら、二人で……ううん、三人で何処かに遊びに行かない…か?』




『い、嫌だ!茜!◯な◯いで!折角仲良くなれたのにっ……私が、もっと周りを見ていれば!』


『…うん、ここに居るよ茜…はる…とも…ここに…いるからっ!目を…あっ…あぁ…』



 何…何の記憶?誰の?わたしの?


 知らない…こんな大切な記憶、わたしは知らない!





 わたし、どうなっちゃうの?…怖いよ…ハル君…会いたいよ…



 わたしは結局、その日はもう寝ることが出来なかった。朝になるとすぐに着替えてハル君の部屋に向かった。




 ――――――――

(桜花視点)


 ここ数日、私は少し機嫌が悪かった。


 私が二人と仲良くなるのに出会ってから二年近くかかった、最初こそ悠人のことも茜のこともあまり好きではなかったが、長く共に旅をするうちに掛け替えのない友人だと思えるようになった。


 今では私にとって一番大切な友人だ(まぁ、他に友人なんていないのだが)


 それなのに更科の奴は、ほんの数日前まで敵対していた癖に、今ではちゃっかり一緒にお昼まで食べるようになって……。


 更科の事情は悠人から聞いた、今回のことは彼女も被害者だったのだろう…。


 だが! だがだ!


 いきなり距離が近すぎるだろう!


 悠人も悠人だ、もっと強く突っぱねれば いいのに…あ、こらそこ悠人の袖を引っ張るんじゃない!




 更にこの数日後に別の事件が起こる。


 この日、私が登校すると下駄箱で悠人と茜が何か話しをしていたので、二人に声をかける。


「どうしたのだ?二人してそんな所で。」


「ああ、人…桜花。」


「あっ…お、桜花ちゃん」


 私が話しかけると悠人はいつもの調子で、茜はオロオロとした様子で反応した。何かあったようだ。


「じ、じ…実はね…ハル君の下駄箱のな…中にね」


「いや大丈夫だって茜、少し落ち着いて。」


「で、で、でもっ」


「えと、一体何が?」


 今までに無いほど茜が狼狽えてる…。


「ああ、俺の下駄箱の中にこれが入ってたんだ。」


 そう言って悠人は一通の手紙を見せてきた、宛名も差出人も書かれていない可愛い封筒、こ…これは恋文らぶれたー?! 一体誰が?!


「中身は確認したのか?」


「いいやまだだ。」


「…一応中身は確認するようにな。あ、間違っても面倒だからって捨てないようにな。」


「ぐぬ…わ、わかってるよ。」


 悠人め…捨てるつもりだったな。 しかし悠人に告白か…少し羨ましい、私もいっそ振られれば楽になるのかな?……駄目だ、弱気になるな、これは自分で決めたこと、私は悠人と茜の友人として……生きるんだから。







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