【幕間】私達の旅の終わりに(異世界・桜花視点)



 いつ頃からだったかな…貴方の後ろを歩くことがとても心地良く感じるようになったのは。


 いつ頃からだったかな…貴方の背中を支えれることがとても嬉しく感じるようになったのは。


 私は貴方の肩のむこうに見える地平線が堪らなく好きだった。


 初めて悠人と会った時はあまり良い印象が無かった。何時も同じ勇者の茜とべたべたしてるし、コイツは異世界グレセアを救う気はあるのだろうか?…と。


 いや、多分無かったのだろう。悠人という人間は茜に関すること以外には、無気力でやる気を全く出さなかった。


 そんな悠人、茜とは同じ勇者として行動を共にすることが多く、いつの間にかお互いを名前で呼び会うようになり、旅を通して掛け替えのない友人になった。仲良くなって悠人と茜のことを沢山知ることが出来た。


 魔王軍との戦いも順調だった、いや…順調過ぎた、あの時の私達は慢心していたのだ。




 そしてあの日、私達は茜を喪った。




 油断さえしなければ、もっと周りが見えていれば、あの違和感に気づいていれば、たらればなんて今更何の意味もないのに。


 その喪失感は凄まじいものだった。


 人種の希望が


 憧れの人が


 旅の仲間が


 初めて出来た大切な友人が


 心の底から愛する人が


 喪われた悲しみに暮れた。


 悠人は俯いて一晩中冷たくなった茜の手を握っていた。もう二度と彼は立ち直れないかも知れないと皆が思っていた。しかし次の日の朝、彼は皆にこう言った。


「行こう。」…と


 茜が居なくなってからの魔王軍との戦いは熾烈を極めた。

 沢山の街や砦が魔王軍に焼かれ、沢山の魔王軍の拠点を私達が潰した。


 私と悠人は二人で行動することが多くなった。別に変な意味ではなく、単純に私達 勇者とその他の者では戦闘力に差がありすぎて、一緒に行動すれば結果的に私達の足を引っ張るためである。


 悠人と歩く時は、私は常に彼の斜め後ろを歩いた。悠人の隣は茜が居るべき場所で…しかしもう悠人の横に、私の前に茜は居ない。それでも私は二人を見守ることのできたこの立ち位置が好きだった。


 悠人の背中を守り支えるのは友人との約束を守るためと自分に言い聞かせてきた。……けど自分でも気づいていた、本当は私自身のために彼を支えたかったんだ、彼の背中が守りたかったんだ。


 私はただ悠人好きな人に寄り添いたかっただけなんだ。




 私達の戦いが終わった、沢山の仲間を失ったが私達は魔王に勝利した。

 夜道を凱旋してる最中、皆の口数は少なくても決して暗い雰囲気ではなかった。


 朝日がゆっくりと昇り、目的地の城郭都市が見えてくる。


 これが私達の旅の終わり


 終わらないでほしいなんて、そんなことを考えてしまう私はどうかしているのだろうか…。


 そんなことを考えていると悠人が歩みを止めた。


 何かあったのだろうか?


 悠人はゆっくりとこちらへ振り返る。


 ……ぁ………。


 朝日に照らされ、穏やかな笑顔を浮かべる彼と目が合った。


 頬が熱くなり心臓が高鳴る、私は今どんな顔をしているだろうか?


 ――――あぁ…


 悠人が拳をゆっくり突きだして「お疲れ様、桜花。」と言った。


 ――――この気持ちが


 悠人の拳に私の拳を合わせて「ああ、お疲れ様、悠人。」と返す。


 ――――この想いが


 彼は私を異性として意識していない、彼の心の中にはこれから先もずっと茜が居るのだろう。


 ――――例え欠片でも


「帰ろう、桜花。」


 ――――彼に伝わることがありませんように


「うん、悠人。」


 こうして私達の旅は終わった。



 ―――――――――――


 この作品がラブコメなのかどうかわからなくなって書きました。


 これが自分なりのラブコメ…これラブコメか?


 本当は元の世界で悠人と茜に再開した時の描写もあったけど、それはまた別の機会に。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る