遅れてやってくる奴はヒーローになれない


 次の日、学校に登校すると、昨日俺が不良達に連れて行かれたのを、嗤いながら見てたクラスメイトが驚いた顔で俺を見ていた。


 きっと俺が酷い目にあって怪我してたり、落ち込んでたり、登校してこないことを期待したんだろうが…。


 残念だったな、今日は朝食も茜が作ってくれて今の俺は絶好調だ。茜の手料理が食べれないお前等は人生の95%を損している!



「どうしたのハル君?まるで心の中で誰かにマウントをとったような顔をして。」


「そんな具体的な表情ってある?」



 この日は獅童は欠席、更科はギリギリで登校してきたが目の隈は昨日より酷く、疲れているのか教室に入ってきてから、誰とも喋ってるのを見掛けなかった。


 ここで俺は気づく、どうやって更科に話し掛ければいいんだ…。


 学校内だと基本的に茜と行動してるし、後ろめたいことは何もないんだが…。


 俺がこれからやろうとしてること?…あまり罪悪感もないんだよな…。


 いっそ学校外で…いや今日は流石に茜と帰りたいし、ならば桜花に…ダメだ俺と桜花の関係ってどう説明すればいいのかわからない。


 昼になり茜、桜花と中庭で弁当を食べてると。


「……。」


 茜が箸を持ったままボーっとしていた。


「茜?大丈夫か?」


「…え、あ!だ、大丈夫 大丈夫! 少し寝不足で…。」


「 どうしたんだ?悩み事があるなら是非相談してくれ、メッセージアプリで!」


「えぇ…どうせなら直接聞いてよ…。」


 やっぱり何か悩んでるのだろうか?心配だ…。


 それはそれとして、桜花が最近とても残念な感じになってきた気がする。いや、とても頼りにはなるんだけど…そういうことではなくて……。


「あ、そうだハル君。」


「どうした?」


「今日は人蔵さんも一緒に帰っていいかな?」


「ああ、勿論いいぞ。」


「えへへ、やったね!」


 その言葉を聞いた俺と桜花はどんな顔になっていたんだろうか。


「え…あ、あれ…?ゴメンねいきなり馴れ馴れしく呼んじゃって。」


 無意識に呼んだのか…。


「い、いや…大丈夫だ、その…わ、私は名前で呼んでもらっても全然大丈夫…だか…ら。」


 桜花は少しだけ泣きそうだった。




 放課後になり茜、桜花と一緒に帰る途中でとても重要なことに気づいた。


 桜花と帰ると、茜と手を繋げないということに。これは由々しき事態ですよ…。


「茜、人蔵、それじゃあまた明日。」


「ハル君、人く…桜花ち…さん、また明日ね。」


「うん…あ………あかね、天川もまた明日」


 少しぎこちないけど、まだこれでいい。


 桜花と別れ茜と少しだけ話す。


「茜は今日は早めに寝ること。」


 茜の手触りの良いサラサラの髪を触る。


「ふふ…くすぐったい…。うん、わかった。でも、寝る前に少しだけ電話していい?」


「ああ。わざわざ聞かなくても全然大丈夫だ。」


 茜が家に入るのを確認してから、勇者特性を発動すると全力で学校までの道を全力で走る。


 念のため桜花にメッセージを送る。


『茜を頼む。』


 歩くと20分位だからこれなら3分は要らないかな。


 メッセージが返ってきた。


『しようち。』


 ありがとう桜花、お前のメッセージ見るとなんかほっこりするわ…。


 学校が近くなった所で目的である更科を発見した、電柱に身を隠して近くなったら何とか偶然を装って話し掛けるか……どんな感じに行くべきだろう…。


『よう、偶然だな。』

 ちょっと違うな


『やあ、今帰りかい?』

 無い


『HEY!待っていたYO!』

 む…惜しいな


 更科が近くまで来たので、そろそろ出ていこうとすると。


 ん?更科の後ろから車が…近づいて……あ…。


 目の前で更科が、車から出てきたチンピラに拉致られていった…。


 え?これどうすればいいんだ?通報か…いや、それだと手遅れになるか。しかし随分手慣れてたな、初めてじゃないんだろうな…。

 正直、更科を助ける義理は無いんだがアイツ等が茜に手をだす可能性もある、だから…


 更科を連れ去った車を追いかけて、着いたのは割りと近くにある廃ビルだった。

 車の中からガラの悪い男が4人と更科が降りてきた、そのまま更科を引っ張りビルの中へ入っていった。


 それを追いかけビルに入ると直ぐに声を掛けられた。


「おい何だお前、何しに来やがった?」


「こっから先は立ち入り禁止なんだよ。」



 ガラの悪い二人組がこっちに近寄って来ながらそう言った。見張り位は居るか…俺がどう対応しようか悩んでると、


「テメェ…聞いてんのかよ、あ?」


「お前まさか…さっきの見てたのか?」


「さっきのって何のことですか?」


「しらばっくれんじゃねーぞ、金髪の女のことだよ!」


 二人組の体がデカくモヒカンの男が、凄みながら近寄ってきて俺の胸ぐらを掴む。ふざけるなよ服が伸びるだろうが。


「お前あの金髪ちゃんのなんなんだ?彼氏君か?」


 こっちは身長は高いが不健康そうなガリガリの体に、プリン髪の男がニヤニヤと不愉快に笑いながら問い掛けてくる。


「いやこんな暗そうなオタクがあの金髪ちゃんの彼氏とかねーだろ。」


「そりゃそうか。」


 モヒカンとプリンが下品な笑い声を響かせる。


「ちょっとした知り合いです、彼女をどうするつもりですか?」


「どうって…なぁ?」


「あぁ、最近ストレスが溜まってっから、その解消を手伝ってもらうんだよ。」


「あ、もしかしてあの金髪ちゃんのことが好きだったのか?いやーワリィな、ちゃんとオレらが飽きたら返してやるからさ!」


「しかしアイツ等めちゃくちゃするからなー、見張りの後ってヤル気が起きねーんだよな。」


 金髪ピアス達の時とは違って怯えている演技もしてないのに、調子に乗って色々喋るモヒカンとプリン、見張りに向いて無さすぎる。


「ま…いーじゃねーか、あの二人の時はオレ等が優先して回してもらえるんだし。」


 二人?二人だと?


「あの茶髪の方はオレが先に使わしてもらうぜ、あーいう清楚そうなタイプって…」



「もういい喋るな。」



「あ?コイツ何言っ……あれ?」


 俺の胸ぐらを掴んでたモヒカンが、腕に力を込めようとしたが力が入らないことに気づいた。


「な…あっ があぁぁっ……?!」


 両肩の関節を外されてダラリと力なく垂れ下がった腕を見て、絶叫を上げようとしたので顔を掴んで黙らせる。


「喋るな。」


 掴んだ手に少しだけ力を込めるとモヒカンが痛みのあまり体をよじる。


「あ、な、なな何だよお前!こんなことしてタダです…ぺがっ?!がっ!あっ!」


「しつこいぞ喋るな。」


 プリンが何か言おうとしたので髪を掴んで壁に何度かぶつけた。


「俺の質問にだけ答えろ、わかったか?」


 鼻が潰れ歯が何本が折れたプリンが髪を掴まれた状態で頷いた。


 ……あんまりゆっくりはできないか。


「取り敢えず更科…さっきの子がいる部屋に案内しろ、質問は移動しながらする。」


 途中、何度か反抗的な態度を見せたのでその度に床や壁の味を教えた


 案内された三階の部屋の前につく頃には、プリンもモヒカンも前歯を全部を失っていた。


「この部屋だな?」


 答えは返ってこなかったが部屋の中から更科の悲鳴が聞こえた。


 両手がふさがってたので扉を蹴破る、大きな音をたてて金属製の扉がひしゃげながら部屋の中へ飛んでいった。


 中にいたチンピラの一人にぶつかって、ソイツは血を流しながら倒れた。本当に運がないな君は。


 部屋は広く、中には今倒れたのを含めて14人の人間がいた。その中に正座して傷だらけの顔でこっちを見ている獅童と、汚いソファに押し倒されて服を脱がされそうな更科がいた。


 全員驚いた顔で此方を見ていた。


























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