異世界は便利ツール(ではない)


 魔王を倒したら元の世界に帰れるなんて召喚した本人の怪しい言葉に従ったのは、茜と色々あって俺もいっぱいいっぱいだったから。


 つまりタイミング。で、その話しを信じたのは魔王を倒して、元の世界に帰れる魔法が使えるようになった時。というか元の世界と異世界グレセアを繋ぐ魔法が使えるようになった時だった。


 でも元の世界で茜と再開して異世界グレセアに来る理由も無いから、この魔法を使ったのは戻ってきた時以来だが…


 元の世界だとやりづらいことも異世界グレセアなら気兼ねなくできる訳だ。



 念話でフィーリアの姫ティセニエラに連絡をとって、俺の魔力をたどって迎えをお願いした。


 あとは…


 迎えが来るまで俺を睨んでるコイツ等との用事を済ませよう。


「随分大人しくなってどうした?さっきまでの元気は何処にいったんだ?」


「あぁ?!てめぇ調子ノッてんじゃねーぞ!亮太のパンチでアホみてーに吹っ飛ばされてた癖によ!」


「そーだぞ陰キャヤローが!大体ここは何処なんだよ!何しやがった!」


 声がでかすぎる…


「さっさと元に戻せよ!ボコられてぇのか?!」


「まあ、もう元に戻してもボコるけどな!」


 不良達はそれぞれ好き勝手に喚き散らしてて、このままじゃいつまでたっても終わりそうにない。


「時間が無いかも知れないからさっさとこいって。」


 いつ迎えがくるかわからないし。


「何訳のわかんねーこと言ってんだよ!」


 そう叫びながら、さっきと同じ鈍いパンチを繰り出してきた金髪ピアス。


 右手に魔力を込めながら、その手で金髪ピアスの拳を受け止める。


「っ!…!はっ、離せ!離せよ!」


 拳を受け止められたことと、その拳が握られて動かないことに焦りを見せる。周りの不良達も、は?何やってんだ? って感じの顔をしている。


 本当は今日も茜と手を繋いで帰りたかったのに……何でこんなクズ共の相手をしなければならないんだ。


 そんな怒りを込めて、その金髪ピアスの拳を握り潰した。コイツ等が聞き慣れないであろう骨が砕けて肉が潰れる音が鳴り響く。


「っあ!ぎゃああぁぁぁ!手!手がぁぁ!」


 一瞬だけ呆けた顔をした金髪ピアスが、絶叫しながらの腕を引き抜く。


 そして、あれ? って感じの間抜けな顔で自分の手を見る金髪ピアス。


 俺は相手の手を握り潰すと同時に回復させたので、怪我はしていないし痛みも残ってないだろう。


 しかし


 手の骨が砕けて肉が潰れる痛みはちゃんと記憶には残っているはずだ。


「あ…な、な、な…何をしやがった!?」


 おお、まだ俺に叫ぶぐらいの威勢は残ってたか。


 質問には答えず金髪ピアスと距離を詰めて、右手で金髪ピアスの左腕の関節を握り潰して癒した。


 金髪ピアスはまた絶叫した後で無傷の左腕を見た、まだ理解が追い付かないのかその表情は驚愕と恐怖に染まっている。


 他の四人も同様で、自身が何かされた訳でもないのに腰を抜かしてる奴もいた。


「次は脚な。」


 俺のその言葉を聞いた金髪ピアスが逃げだそうとしたので、回り込んで頭を掴む。


「逃げるなよ、頭を潰したら流石に治せないんだ…言ってる意味はわかるか?」


 掴んでた頭を離すと、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で何度も頷いた。


 それじゃあ続きをするか…。




 ──────────────



 それから1時間程たった。


 不良達は五人共死んだような目をして地面に座りこんでいる。


 その時、こちらに近づいてくる馬車とかなりの数の騎士を確認した。


 騎士が俺や不良達を囲む、騎士達は皆馬に跨がり白銀の鎧に赤いマント、立派な装飾のロングソードを装備している。


 その中から一人の騎士が馬から降りて歩いてくる、立派な髭に鋭い瞳、一目で只者ではないと分かる雰囲気を纏っている。不良達がその騎士に向かって


「たっ、助けてくれ!何もしてないのにあの頭のオカしいのに襲われて!」


「なんども腕や脚を折られて…アイツは悪魔だ!」


「このままじゃ殺されちまう!頼む、助けてくれ!」


 と、すがり付こうと近寄ると剣を向けられ ヒッ…と短い悲鳴を上げて尻餅をついた。


 騎士達の後ろで待機していた馬車から、二人の女性が出てこっちに歩いてくる。

 一人は長く美しいシルバーブロンドの髪に青い瞳で、豪華なドレスを着た歳は13歳くらい、もう一人はセミロングの黒髪に翡翠色の瞳の20歳くらいのメイドさんだった。


 ドレスを着た女性が俺の顔を見るとこっちに走ってきた。


「ああ…ちょっと若いけど本物のハルトです!お久しぶりです!」


「まだ二週間しかたっていませんティセニエラ姫。」



────────────


すいません黒幕は次の話で…

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