普段言わないからといって思ってない訳じゃない


 帰りのHRが終わり教室内が騒がしくなる中、俺は茜と帰ろうと茜の席の方を見ると相変わらず何人かのクラスメイトに囲まれていた。


 囲んでる奴等が邪魔でわからなかったが茜の席の真横に獅童がいて何か話しかけていた

 、茜はカラオケでのこともあり他のクラスの連中以上に獅童のことを避けていたが、それに痺れを切らした獅童が強引に話しかけにきていた。


「この間のことは謝るから、そろそろ機嫌を直してくれないか?」


「……。」


 茜は黙って俯いている。


「そうだよ~? 茜、アンタ最近 直哉とギクシャクしてるみたいだけど、いい加減に仲直りしたら? あの陰キャと付き合ってるってのも直哉の気を引くための嘘なんでしょ?」


「…違う…。」


「次の休みなんだが…その、茜さえ良ければ二人で何処かに出掛けないか?」


「……いかない。」


 茜は否定するが、そんな獅童の言葉に周りの連中が反応する。


「いいじゃん!行ってきなよー?」

「オイオイ、随分大胆だなぁ?」


 …コイツらは


「茜。」


 俺の声に茜がパッと反応する。


 周りの連中もこっちに視線を向ける。


「帰ろう。」


「うん!」


 茜が鞄を持ってこっちに来る。


「おい天川…茜はオレ達と話してるんだ、邪魔するなよ…!」


 獅童が明確な敵意を向けてくる。


「お前達が一方的に茜に話しかけてるだけだろう? そもそもお前達は茜の話なんか聞いてもないだろ。」


 あれ、俺の この発言って結構ブーメランじゃない?


「そんなことはない!オレは茜とちゃんと「へえ、なら」」


 思わず獅童の妄言を遮ってしまった。


「茜、コイツに言いたいことある?」


 茜と目が合う。


「大丈夫、俺がここにいる。」


 …何が大丈夫なのかは俺にも分からないが、例え茜がここでクラス中を敵にしようとも…クラスどころかそれが世界であったとしても、俺は茜の隣にいる。


 なんて考えが茜に伝わったのかどうかは微妙だけど、茜はに向かって口を開いた。


「名前で呼ばないで下さいって…お願いしましたよね?」


 獅童達が気まずそうな顔をする、言われたことを覚えているのだろう。


「これは別に照れ隠しとかじゃありません、全く親しくもない人達に名前で呼ばれたくないだけです。」


 茜には珍しく強い口調だった。


 これ、俺が言われたら二度と立ち直れない自信がある。


「あと、何度も断ってるのに しつこく遊びに誘わないで下さい。次の休みの日も獅童君と遊びに行くつもりはありません。」


 獅童の膝が笑っている…それはさながら生まれたてのバンビの如く。


「それと…もうわたしの席の周りに集まって来ないで下さい。ハル君を馬鹿にする人達と仲良くすることはできません。」


 何時も茜の席の周りにいた連中は皆してショックを受けた顔をしていた。


 …え、まさかコイツら本気で茜の友達のつもりだったのか…?



 言い終えたのか茜は満足そうな顔で


「ハル君、帰ろ?」


 と、俺の手を握った。


 茜を助けるつもりだったけど、最後は茜 自身で解決してしまった…。


 教室からでる際に少しだけ獅童達を見ると、誰一人としてその場から動いてなかった。 ただ一人、金髪ストレートの更科がこっちを睨んでいた。

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