ラブコメに出てくるイケメンな先輩って大概は…


 茜と学校までの道のりを二人で歩く。


「そういえばハル君。」


「 どうした?」


「もう学校でわたし達のことは内緒じゃなくてもいいんだよね?」


「あぁ、もちろん。」


 茜が嬉しそうに笑う。


「それじゃあもう学校が近くなったら ちょっと時間をずらして別々に登校する、なんてこともしなくていいんだよね?」


「あ、あぁ…当然だ。」


 なんだろう…なんだか中学生位の時のノートを音読されるような恥ずかしさは…。確かにそんなことをしていました…。


 おのれ過去の自分…。


 本当なら手を繋いだりして登校したいがそれは流石に茜が恥ずかしいかな? なんて考えてると俺の右手を茜の左手が握ってくる。


 茜は前を向いたまま、横目でちらりと此方を見る、その手をしっかりと握り返すと緩みきった笑顔で視線を前に戻した。


「えへへへ…。」


 学校が近くなってくると他の生徒をチラホラと見かけるようになる。 そのうちの何人かは茜のことを知ってるのか驚いてたり、慌ててスマホを操作してた。


 中には「嘘だろ…なんであんな陰キャと…。」 なんて俺に対して明確に蔑むような言葉と視線を向けてくる奴もいた。


 四年前はこういう扱いを受けることもしばしばあったな…なんか懐かしい。


 そういえば俺の見た目はほぼ異世界に召喚される前の状態にもどっていた。

『ほぼ』というのは体格だけあの頃に比べて引き締まって筋肉がついてた、理想の体格だけ手にいれるとか異世界マジックすぎる。


 …こんな体格を求めて始めたビ◯ーズ◯ートキャ◯プを二日で投げた苦い記憶に俺が内心 苦しんでると茜が握ってる手に力をこめてきた。


 どうやら周りの言葉が茜にも聞こえたらしい。 俺も少しだけ力をこめて握り返した。



 校門前まで行くと更に多くの視線を感じるようになる。


 好奇、侮蔑、嫉妬、羨望。


 異世界にいた頃にもこういった視線に晒されたことが何度もある。


(やっぱ慣れないな。)


「茜ちゃん。」


 校門を潜ろうとすると後ろから声をかけられた。 振り返ると身長の高い爽やかイケメンが立っていた。茜の知り合い? と茜を見るとちょっと前までの笑顔から一転して、嫌そうな顔で目の前にいるイケメンをみていた。


「相良先輩……。」


 茜がそう呼んだ。


 相良…? 相良…


 どこかで聞いたような……。

 必死に記憶を呼び起こす。


 …あ


 そういえばこの学校の有名人でいたな。


 相良 斗真(さがら とうま)って二年の先輩で爽やかイケメンでスポーツ万能で家が金持ちっていう、女癖以外は非の打ち所がないラブコメに出てきそうな人。



「何か用ですか先輩?」


 茜が嫌そうな顔のまま俯いてるので代わりに対応する。


「…何だい君は? 僕は茜ちゃんに話しかけたんだ。関係ない奴は引っ込んでいてくれないか?」


 そう言った相良先輩は敵意すら感じる視線を向けてくる。 …あんま爽やかじゃなくない?


「というか君、茜ちゃんから手を離せよ嫌がってるだろう?」


 茜の嫌そうな顔を自身の都合よく解釈した相良先輩は上から目線でそう告げた。


「相良先輩こそ茜が嫌がってるから名前で呼ばないであげてくれません?」


 ついイラっとしてしまい茜が言い返す前に俺が反応した。茜は驚いた顔で俺のことを見ている。しかし学校でも一緒にいると茜と約束したし黙っているという選択肢はない。


「何…?」


 険悪なムードが流れはじめる。


 他の生徒は遠巻きに成り行きを見守っていた。



「失礼。そんな所で言い争っては他の生徒の迷惑になる、やるなら別の場所でしたらどうだ。」


 そんな俺達に声をかけてきたのは 木刀袋を担いだ艶やかな長い黒髪を後ろで結んだ美少女だった。

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