勇者としての経験は何の役にも立たない


 ピ…


 目覚ましのアラームが鳴ると同時に止める。ベッドから起き上がり部屋を見渡す。


 見慣れた筈の自分の部屋。


 ああ…帰ってきたんだなって。


 時間を確認すると朝7時。そろそろ茜が起こしに来るかな?




 昨日は茜と家に帰ると母さんが玄関でめっさニヤニヤしながら出迎えてくれた。


「ただいまー」


「お帰り悠人。あら? 恋人同士で仲良く帰宅? いいわねー青春してるって感じで。」


「さゆりおばさん、お邪魔します。」


「茜ちゃん、畏まらなくてもいいのよ? どうせすぐ家族になるんだから! ほら、試しにお義母さんって呼んでみて?」


 母さんが茜にウザ絡みを始めたのでさっさと俺の部屋に行くことにした。

 俺が茜と付き合うことを知った俺の両親は大喜びをした、親友の娘で自分達の子供同然の茜が可愛いのだろう。多分、俺より喜んでた…。


「も、もういいだろ! 茜も困ってるし。」


 俺は茜を連れて二階の自室に向かう、何かに理由をつけて覗きに来そうな母さんに、お茶もお菓子も要らないからと伝えると舌打ちされた。何なの?






 部屋に入るとテーブルを挟んで茜と向かい合って座る、茜は少し緊張しているようだった。


「わたし…不安だった。」


 茜が小さな声でそう切り出した。


「学校で色々あってハル君と殆ど一緒にいれなくて…溜まった不満をハル君にぶつけてしまって…カラオケでのことも知ってるんだよね…? 」


「ああ…あの日ちょっと用事があって出かけてたんだ、その時に偶然…。」


「わたしがキツくあたってもずっと優しかったハル君が、あの次の日から急に冷たくなって…でも、久しぶりにハル君の方から話かけてくれて一緒に帰ろうって言ってくれて凄く嬉しくて…。」


 茜はそこで一度言葉を止める。


「でもまたすぐに不安になった。ハル君の思い詰めた顔をみて、わたし このまま振られちゃうんじゃないかって。 もしそんなことになったらどうしようって…。」


 茜は目に涙をためていた。


「……っ…。」


 茜のその言葉に胸が痛む。

 俺は確かにあの瞬間に別れを切り出そうとした、ろくに話し合おうともせずに。そんなことをすれば俺は一生後悔をしていただろう。


 どんな言葉をかければ彼女が安心してくれるだろうか?



「茜。」


 異世界に行って。


 魔王を倒して世界を救って。


「ちょっと遅くなったけど。これ、誕生日プレゼント。」


 そんな偉業を成し遂げても。


「誕生日おめでとう。」


 目の前にいる大切な彼女をどうやったら笑顔にできるのか。


 そんなことも俺にはわからない。


「不安にさせてごめん。これからは学校でもずっと一緒にいる。」


 誕生日プレゼントを渡された茜が泣きながら抱きついてきた。


 好きな人を幸せにするってことは、魔王を倒すより難しい……。





 そのあと隣だから大丈夫と言う茜を無理矢理家まで送り届けて(茜の家族にまでニヤニヤされた) 明日は一緒に登校しようと約束した。






 家のチャイムがなり下で誰かの会話する声が聞こえる、そして階段を上がってくる足音。


 ガチャリと部屋のドアが開くと茜が部屋に入ってきた。


「あ…えへへ…おはようハル君。」


「おはよう茜。」


 このあと朝食を食べようと茜と部屋からでると、ドアの目の前で聞き耳をたててる俺の両親を見てしまいなんか色々台無しだった。


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