体感4年、実際には数秒
俺の目の前に茜がいる。
小さくて不安そうで。
『あの日』と同じ寸分違わぬ姿で此方を見つめている。
この様子だとあの日々のことは覚えていないだろう、でもそれでも良い、今 目の前に茜がいるのだから。
胸が締めつけられる。
話したいことが沢山あるのに言葉が出ない。
今度はちゃんと言葉を尽くそう。
何が『陰キャ』だ。
何が『カースト』だ。
何が『茜に迷惑がかかる』だ。
四年前の自分を思いっきり殴ってやりたい。
さぁ、彼女にちゃんと伝えよう。
と、思っていたのに気付いたら茜を抱きしめていた。
「ふあ?!ハ……ハル君っ?!」
い…いかん! 感情が昂りすぎていきなりやらかした…。
ええい!もうこのまま伝えるしかない!
「茜、まずはごめん。」
「え?…え?」
俺に抱きしめられたまま顔を真っ赤にしながら茜が困惑している。
「俺は茜の幼馴染みで、恋人だから茜のことは何でも分かってるつもりでいた、でも全然分かってなかった。 俺が茜を学校で遠ざけてそのせいで色々辛い思いをしていたのも、俺に辛く当たってしまっていた理由も。」
そもそも俺が彼女と付き合っているのを、学校では内緒にしようなんてしたのが間違いだったのだ。
「しかも俺は茜に浮気されたなんてことまで考えてしまった、ちゃんと考えれば茜がそんなことをする訳がないって分かるはずなのに。」
あの日、カラオケでみた光景のことも茜に聞いた。
ちゃんと誤解する前に聞いとけばよかったんだ。
「だから…ごめん。」
「ハルっ…ぐんっ!」
茜が泣きながら俺を見つめてくる、涙をぼろぼろこぼして美少女が台無し…いや、これはこれでめちゃくちゃ可愛い。
暫くの間、茜を抱きしめる。
茜が落ち着いたので話の続きをしようと思ったけど、辺りを見回すとご近所の皆さんの微笑ましいものを見る視線に気付いて話の続きは俺の部屋ですることにした。茜は真っ赤になって俯いていた。
俺が茜に別れを告げようとしたあの瞬間、俺は異世界『グレセア』のフィーリア王国に勇者として召喚された。
俺だってオタクとして色々なラノベやネット小説を読んできた身なので そういう妄想をしてきた、だから『テンプレきたぁぁ!』とでも喜ぶべきだったのかもしれないが召喚直前の状況が状況だ。
あの時は幾らなんでも産まれて初めてできた恋人と別れようとした瞬間は無いだろ…、と思ったが今では茜に 別れよう なんて言ってしまう前で本当に良かったと思っている。
家につくと少し緊張した、なんといっても4年ぶりの帰宅である、そんな俺の様子をみた茜が どうしたの? と尋ねてくる、何でもないよ と答えて玄関のドアを開けた。
あ、そういえば俺って見た目はどうなってるんだろう?
グレセアにいた時は大分見た目が変わってたんだけど…茜は何も言わないから大丈夫かな…あとで確認しとこう。
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