ハル君とわたし(茜 視点)


 わたし、 地堂 茜には大好きな幼馴染みの彼氏が居る。


 名前は 天川 悠人




 わたしは彼を小さい頃からハル君と呼んでいた。ハル君とは産まれた時からの付き合いでずっと一緒にいた。

 ハル君のことを好きになったキッカケとかは多分無い、別に何かの特別なことがあった訳じゃなく

 一緒に学校に登校したり

 同じ部屋で二人で寛いだり

 つまらないことで喧嘩したり

 そんな何でもない日常の積み重ねの中で彼のことを好きになっていった。それは今でも続いている、昨日より今日、今日より明日。

 きっとわたしは彼のことをもっと好きになってるんだろう。


 そんな彼だがラノベか何かの影響を受けたらしく、自分自身に変なレッテルを貼り、自分のことを陰キャとやたら堂々と言い張ったり、運動神経がすごく良いのに全身全霊をかけて体育はサボったり(クラス対抗や球技大会には普通に出てる)とちょっと……ちょっと?

 変な所もあるけどそんな所も可愛いと思っている。


 そのことをお母さんに言ったらなんとも言えない顔で


「悠人君にはそのことを伝えない方が良いわよ…。」


「え? どうして?」


「重たい女だと思われるわよ? いやまぁ、悠人君なら全然喜びそうだけど一応ね?」


 そんなやり取りもあり彼にそのことは伝えていない、でも何時かは言葉にして伝えたい。


 わたしがどれだけハル君のことを好きか。


 彼にはわたしから告白をした。彼はいきなりと思ったかも知れないが、わたしとしては何日も何日も何日も、それこそ告白を決意してから1年以上も『どんなタイミングで』『どんな感じに』『どんな言葉で』と 色々と考えた結果、二人で部屋で寛いでる時にした。


 告白は成功して無事にわたし達は『ただの幼馴染み』から『幼馴染みで恋人』にランクアップした!


 物凄く嬉しかった、嬉し過ぎて一晩中目が冴えて全然寝れないくらい。


 でも正直振られたら立ち直れる気がしない。


 わたしは一目惚れというものが分からない、同じ時間を長い間過ごして、お互いを理解して、そこからようやく少しづつ…本当に少しづつ好きになってゆく。


 それがわたしの恋についての考え方。


 だからもしハル君に振られてたら一生一人で生きていくんじゃないだろうか。




 でも好きな気持ちがどんどん積み重なっていくように不満だって同じように積み重なっていく。


 ハル君は気づいてなかったかもしれないが、 中学校の時はわたし達が仲が良くて学校外でよく一緒に居るのを知ってる人は多かったので わたしがハル君にさりげなく絡みに行ったり、たまに二人で空き教室でお昼を食べたりしてたら皆 空気を読んで放っておいてくれたりしてた。だからまだ我慢できた。


 でも高校になってからは変わった 。


 わたしとハル君が付き合っているのはナイショだったが、仲の良い幼馴染みであるということさえ周りは知らない人達ばかりになった。


 わたしはハル君に少しでも好かれたくてそれなりに努力をした、お肌や髪の手入れ、服装、化粧と、だから彼に誉められると すごく嬉しかった。でもよく知らない人に『綺麗』だとか『可愛い』なんて言われても全く嬉しくない。


 でも周りが知らない人ばかりだと、どうしても最初は『見た目』に人が集まってくる。

 そうこうしてる内に望んでもいないコミュニティに入れられてしまう。


 休み時間になるとわたしの席の周りには沢山のよく知らない人達が集まってくるようになった。何人かは中学の時からの友達も居るけどその人達はわたしが嫌そうにすればちゃんと離れていてくれる、だから残ってるのはよく知らない人達。

 クラスのチャラチャラとした見た目の男子や女子、一見爽やかで優しそうなのに他人の陰口ばかり言う人達。時には違うクラスの人や違う学年の人達まで。


 勝手にわたしの下の名前んだり、更にこっちにもそれを求めてきたり、何度断っても遊びに誘ってきたり、酷い人は偶然を装って体に触ろうとさえしてくる。

 ハル君に話しかけようにも常にわたしの周りには人がやってくる。


 嫌 嫌 嫌 嫌 嫌 嫌!もう嫌!


 さりげなくハル君に助けを求めたりもした、他の人が居ても関係なくハル君に話しかけようとした。

 でもわたしがハル君に話しかけに行くと何故かそれを止めようとする

 理由も意味不明で


 天川と茜じゃ釣り合わない。

 茜は優しいから天川なんかに声をかけてやってるんだろうけど、中途半端に優しくすると付け上がる。

 そのままストーカーになりそうw

 陰キャが感染る。


 ハル君にわざわざ聞こえるように彼を馬鹿にする人達までいた。わたしがそれを否定しても全然聞いてくれない。

 ハル君はそれを聞いても怒るどころか反応すらしない、完全に聞き流していた。


 わたしはもう限界だった。



 わたしはちゃんと言葉にして伝えるべきだった『嫌だ』と『助けて欲しい』と。




 言葉にしないわたし、理解してくれないハル君。



 気づいたらハル君にもイライラしてしまいついキツイ話し方になっていった。お互い時間が合わなくなり二人で居れる時間も殆どなくなってしまっていた。

 わたしはそれで更にキツイ態度をとっていた。


 もうわたしはどうしたら良いか全くわからなくなっていた。



 それはわたしの誕生日が近くなったある休日、中学校の時からの友達である 高見 栞 (たかみ しおり)と 白戸 夏(しらと なつ)の二人にわたしを含めて三人でカラオケに行こうと誘われた。

 断ろうとも思ったけどわたしに気を使ってくれてるんだと思うと断わり辛く、三人で とのことだったので行くことにした。


 これが間違いだった。


 いざ当日の待ち合わせ場所に行くと二人だけではなく高校になってからのクラスメイトである 更科 桃花(さらしな とうか)が居た。

 偶然待ち合わせ場所で二人と出会い、

 暇だったので強引にカラオケについてくると言いだした。


 わたしは彼女が苦手だった。

 彼女は普段わたしの友達面をしているがわたしが男子に人気があるので、しょうがなく一緒にいるだけの人で、ハル君の悪口も言っててわたしは正直一緒に居たくない。


 帰ろうとしたけど強引にカラオケに連れて行かれた、女子しか居ないし2時間も我慢して帰るつもりだった。

 カラオケの個室にはいると携帯を操作しながら更科さんが突然声をあげる。


「あ、ごっめ~ん!ちょっと先にお手洗い行ってくるねー! しおりん、なっつ一緒に行こ! 」


 トイレぐらい一人で行けばいいのに二人を連れていく更科さん、どう考えても不自然だ……。

 二人が出ていく時に此方を申し訳なさそうな感じでみた。何か嫌な予感がしたので帰ろうとすると出入口のドアが開いた。


「はやかったで……え?」


 何故かそこにいたのは同じクラスの獅童君だった。

 え?なんで

 と考えてると携帯にメッセージが届いた。



『ごめ~ん!用事思い出したから先に帰るね、他の二人も用事があるみたいだから帰るって。でも安心して、直哉を呼んどいたから!後は若い二人でよろぴく~(σ≧▽≦)σ』


 殺意が芽生えた。


 あまりにもな出来事に思考が止まってたら獅童君が話しかけてきてた。


「桃花に呼ばれて来たんだか、まさかこんなことになるなんて…本当にしょうがない奴だよな。ごめんな、茜。」


 そんな気持ち悪いことを喋りながらこっちに近づいてきて隣に座ろうとしたので無言で退室した、後ろで獅童君が何か言ってるけどわたしは携帯で三人に一体どういうことか質問していた。


 お金は既に払われていた。


 成る程、そういうことか。

 あの二人がわたしをカラオケに誘ったのはそもそもこれが目的だったのだろう、わたしは男子が居るときは絶対遊びには行かなかったから。


 カラオケ店をでると獅童君が追いかけてきた。


「待てって!なぁ、機嫌直せよ。桃花にはオレからもちゃんと言っておくからさ、な?

 そうだ! この近くに良いカフェがあるんだよ、奢るから一緒に行こうぜ。」


 この人は一体何を言っているのだろう?

 もしかしてこの茶番に自分は巻き込まれただけと言っているのだろうか? そんな言葉が通じるとでも?


 適当に『あ、そ』と答えてそのまま帰った。家に着くとハル君の部屋を見た、電気はついていないから居ないのだろうか?


 ハル君に会いたい…抱き締めて欲しい…頭を撫でて欲しい…ハル君…


 そのあと何度かハル君にメッセージを送り電話もしたけど連絡はつかなかった。


 次の日からハル君に酷い態度をとったことを謝って、また前のように一緒に居て欲しいと思いハル君に話しかけに言ったがハル君は心ここにあらずといった感じで、曖昧な答えしか かえってこなかった。

 まさか……あの時






 今日はわたしの誕生日だ、今日こそはハル君と仲直りしないと…もしあの時のことで誤解を受けていたならちゃんとそれも伝えないと…そんなことを考えていたら久しぶりにハル君に一緒に帰ろうと誘われた。

 凄く嬉しかったけど、でも何かとても嫌な予感がした。


 帰り道ではお互い全然喋らなかった、嫌な予感がどんどん現実味を帯びてくる。


「茜。」


 ハル君に呼ばれる、それだけで幸せな気分になれる。


 でも、多分ここでそれも終わってしまうのだと思う。


 ハル君の何かを決意した目をじっと見つめる。


 最近あまり眠れないから目の隈は大丈夫だろうか?髪はちゃんとしているだろうか?

 最後くらい綺麗なわたしを見て欲しかったな。


「話がある、聞いて欲しい。」


 嫌…


「……はい。」


 嫌だ、別れたくない

 その先の言葉なんて聞きたくないよ…


 その時、一瞬だけ白い光に包まれた。光が収まると少しだけ驚いた顔したハル君が目の前にいた。






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