第2話 とある友人からの話

 悠真が担任の先生を殺したって、本当なんですか?

 何かの間違えです。悠真はそんなことをする奴じゃない。はい、俺が知っていることは全てお話します。

 いえ、場所は変えなくていいです。この公園はこの時間、ほとんど人が来ないので、誰かに聞かれることはありません。


 はい、悠真と俺は小学校が同じでした。中学校は別ですが、何度か会ってます。

 最後に会ったのは、ですか。……五月の初め頃ですかね、今から一ヶ月くらい前です。

 いえ、特に変わらない様子でした。……ずっとメールの返信がきてないので、最近のことはわかりませんが。


 ……はい、そうですね。あまり人と関わりたがらない奴です。俺も最初は苦労しました。なかなか心を開いてくれなくて。

 仲良くなったのは、小学校三年生の頃です。

 ……俺が悠真と仲良くなれたのは、俺がしつこく話しかけたからですかね。嫌がっては……確かに、最初は嫌そうでした。でも、悠真のペースに合わせてゆっくり距離を縮めていったので、悠真も心を開いてくれたんだと思います。


 悠真が人と関わらないのは、人が嫌いだからではありません。何ていうか、悠真は本当に繊細なんです。些細なことで傷ついてしまうから、人付き合いを避けるようになったんです。


 俺がクラスメイトの人に悪口を言われたときも、自分のことのように落ち込んでいました。

 悠真は優しい奴です。

 俺、一時期仲間外れにあったことがあるんです。誰も話しかけてくれないし、話しかけても無視されていました。……ああいうのは誰か一人が始めると、みんな同じように後に続くんです。皆んなやってるんだから自分だってしてもいいだろう、って。

 でも悠真は違った。

 悠真だけは前と同じように接してくれました。傷つくことを恐れているけど、友達のために勇気を出して集団に逆らう強さを持っている奴です。

 それくらい良い奴なんです。


 担任の先生のことですか。……確かに、正直苦手だとは言っていました。悠真が人のことをそういうふうに言うのは珍しかったので、よく覚えています。四月の終わり頃だったと思います。

 はい、二年生になって悠真と会ったのは二回です。五月に会ったときは特に何も言ってませんでした。


 でも! 悠真はそんなことで人を殺したりなんかしない。ありえない。そんな奴じゃない。証拠はあるんですか!

 ……そうですよね。すみません、記者さんにそんなことを聞いても分からないですよね。でも、絶対にありえないんです。悠真は人を殺すような奴じゃないんです。優しくて、繊細で、強くて、良い奴なんです。だから、悠真が傷つくような記事は絶対に書かないでください。お願いします。

 ……はい、それでは、失礼します。はい。




***




 放課後や昼休み、アイツが俺を呼び出すようになった。空き教室で、向かい合うように並べられた椅子に座り、あれこれと質問してくる。

 最近調子はいいか。学校は楽しいか、友達はできたのか。

 その度に俺は自分の意思を話す。「俺はこういう考えを持っていて、そのためにこうしているのだ」と。ちゃんと話せばわかってくれると思った。両親も、友人も、去年の担任もそうだったから。


 でも、アイツは全部否定した。


 俺が言っていることはただの強がりで、本心ではないとアイツは言った。アイツは俺の気持ちを勝手に想像し、決めつけた。

 「強がってないし、これは本心だ」と、何度も言ったが、アイツには全く伝わらない。言葉が通じないどこか遠くの国の人と話してるようだった。

 そんな日が何日も続いた。




 

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