とある少年の話
青葉寄
第1話 とある学級委員長からの話
本当に驚きましたよ、まさか井上が先生を殺すなんて。全然そんな奴に見えなかったので。井上は認めてるんですか? ……そうなんですね。
はい、井上とは去年から同じクラスで、……あの、これも記事に書かれますか? 二年間同じクラスなのは僕とあと数名なので、わかる人になら僕だってバレてしまうんです。
はい。少年のクラスメート、とでも書いておいてください。
あ、大丈夫です。昼食は家で食べてきたので。……ありがとうございます。じゃあ、オレンジジュースで。
僕と井上の関係ですか? うーん、そうですね。そんなに仲が良いわけじゃありませんでした。というより、井上に特定の仲の良い人はいなかったと思いますよ。いつも一人でいる奴でした。
たまたま僕が学級委員長で、先生に頼まれて話しかけたりしてただけなんで。……あ、僕が学級委員長ってことも伏せてくださいね。
はい、そうです。その先生が、殺され、……。すみません、ちょっとまだ信じられなくて。平気なふりしてますけど、やっぱりショックで……。
……いえ、もう大丈夫です。続けましょう。
学校での様子かぁ。本当に目立たない奴だったんで、あまり思い出せませんね。しかも、あまり学校に来てない時期もありましたし。最近はちゃんと来てたんですけどね。
はい、孤立してましたね。記者さんの学生時代にもいませんでしたか? いつも一人でいて、何考えてるかわからない奴。あいつがまさに、そういう奴です。
一応言っておきますが、いじめは一切ありませんでしたよ。まあ僕の知る限りでは、ですけど。井上はいじめられるようなタイプじゃなかったですし。
うーん、何というか、僕が思うに一人でいる奴にも二パターンいるんですよ。ほんとは誰かと一緒にいたい奴と、自分から一人でいようとする奴。井上はたぶん後者でした。一人が好きだったんですかね。
そうですね、人当たりはよかったと思います。向こうから話しかけてくることはありませんでしたけど、こっちが話しかけると何かしらは返してくれました。
……でも、先生はいろいろ気にかけてたなぁ。
……先生は、白石先生は、今年からこの学校に来て、僕らのクラスの担任になりました。
気が強くて、何でもはっきり言うタイプでした。結構強い口調でものを話す人で、よく怒っている感じでした。ヒステリックって言うんですかね。まあ、よくいる女性教師って感じでした。
でも教師としてはそんなに悪い人じゃなかったと思いますよ。「クラスの一体感」を大事にしてるみたいでした。一人でも欠けることを許さない、ってよく言ってましたね。一人が好きな井上にはキツかったのかな。でも、そんなことで人を殺しませんよね?
いえ、嫌われてたってことはないです。ウザいけどそんなに嫌いじゃないっていうのが大半の意見だったと思いますよ。そうですね、僕もそんなに嫌いじゃなかったです。
井上はどうだったか? うーん、どうなんだろうなあ。さっきも言ったように、特別仲が良かったわけじゃないので。でも井上が誰かを嫌っているのは想像できないな。人との関わりが少ないだけで、良い奴だったので。
……あ、そういえば。先生はいつも強い口調で喋ってたけど、井上に対しては少し違ってました。何というか、猫撫で声?みたいな。普段より柔らかい話し方でした。
かなり気にかけてましたよ、井上のこと。友達のいない井上のために、いろいろ気遣ってやってたみたいです。
例えば、ですか。……詳しいことはよくわからないんですけど、先生はよく井上のことを呼び出していました。「井上君、後で職員室に」みたいな感じで。
きっと学校生活について話てたんですよ。一人が好きだからと言っても、ずっと一人でいるのは嫌だと思うし。井上は自分から相談するタイプじゃないので、先生のほうから声をかけてたんだと思います。
井上が不登校気味だったときも、熱心に家庭訪問してたみたいです。
だから、井上が先生を嫌うはずありませんよ。だって真剣に相談に乗ってくれていた人、嫌いになるはずがありません。
……本当最低ですよ。あんなに親身に思ってくれていた先生を殺すなんて!
どうせサイコパスとか、そういった類いです。残虐な事件を起こした犯人は、学生時代に孤立していたって聞きますし。許せない、そんな自分の快楽のために人を殺めるなんて!
……すみません、つい。
はい。はい、ありがとうございました。事件のことでモヤモヤしてたので、話せてすっきりしました。
***
休み時間、いつものように図書室で本を読んでいると、後ろから肩を叩かれた。
人がほとんどいない図書室で俺に声をかける奴なんていないと思ってたから、少し驚いて振り向くと、アイツが立っていた。
二年になってから二週間は経ったが、こうやって向かい合うのは初めてだった。
面食らって声を出せないでいる俺に、アイツは「ちょっと話そう」とやけに神妙な声で言った。
普段の甲高い声からは想像できないほどの甘ったるい声だった。
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