妖精女王

 影にかけられた蝋燭の灯火によって、歩行者の影がゆらゆらと床の石畳に投影されている。

 女王はその妖艶な肢体を影に投影させながら女王の間から移動していた。

 

 家畜どもが自身の歩く足音を聞きつけると――


「女王様! 本日は私をお召し上がりください!」

 家畜の懇願が始まる。

 自身の魅了魔法によって家畜たちは自ら喜んで自分に血液を提供する。

 さらに吸血はされる側も快感を伴う。

 二重の効果で吸血を嫌がるものは一度、魅了と吸血を受けたものの中にはいなかった。


 目的の部屋にたどり着き、ドアを開ける。

 ドアを開けた先は眼を恐怖の色に染めた少女が佇んでいた。

 幼い少女の生き血は私の好物だ。

 家畜に問答は不要。

 早速魅了に取り掛かる、が――


 ???


 魅了が弾かれている?

 なんだ? 何かの加護か? と思っていると――


 ブワ――――

 と小さな粒子が少女の前に現出しだしたと思ったら、その粒子が集まり少しずつ形作ってきたと思うと最終的に見覚えの有る人物の形となった


「お久しぶりです。吸血鬼女王グレース」

「何しにきた妖精女王ラビレンスよ」

 およそ何百年ぶりであろうか。お互いの部下同士が揉め事となり、話し合いの機会を昔に持った事があった。

 まさかこの少女、妖精女王が絡んでいるのか。だとしたら厄介だ。


「何しに来たとはお言葉ですね。この少女ユウナは我らが妖精の加護を受けし者。あなたこそ一体何をしようとしているのです?」

「何をしようとなど決まっている。食事だ。ここは我ら吸血鬼族の居城ぞ。例え妖精女王であっても実態のない仮の身であれば我を止める事はできやしまい」

 妖精女王ラビレンスの恐ろしい所は精神系攻撃だ。

 仮の身でかつ、闇の力が満ちた我が居城では力が半減するはず。


「…………確かに今すぐは、あなたの行動を止める事は難しいでしょう。今すぐ、私では」

「であれば、引っ込んでおれ。それとも何か? 食事の光景を眺めたいか?」

「この少女は精霊の加護も受けております。イフリート」


 ブワ――――

 炎の精霊、イフリートが現出する。


「まだ他にも奥の手がありますが、それもお見せましょうか?」

「くっ……後で結界を構成して干渉できないようにしてやる! この少女はもう私のものだ邪魔はさせん!」

 そう言うと吸血鬼女王グレースはその部屋を出ていった。


「ふぅー……イフリートありがとうございます。なんとかなりました。後、フェリーニ」

「はい、およびでしょうか? 女王様」

 大魔術師フェリーニ。

 ハイエルフで妖精たちの守護者にしてエレンが前世と渡り合ったもの。


「最悪の場合はあなたが出てユウナを頼みます。あなたが出てしまうと人間と吸血鬼族の争いになってしまう可能性が有るので最終手段にしたいと思いますが……」

「かしこまりました」

 フェリーニは頭を垂れて同意する。

 もちろん、これらのやり取りは少女ユウナには見えていないし、聞こえてもいなかった。



 ◇



「……それで、皇帝陛下は何の根拠があって、私が奴隷商などという戯言、いや失礼、妄言を述べているのですか?」

 ケインと対峙するはパトリク = マクニース子爵。


「最近、自身の商品の奴隷が逃げ出したからと言って裏ギルドに依頼したらしいじゃないか。バーストという請負人に逃亡奴隷の捕獲を依頼したな」

 パトリクの表情が一瞬ピクリと変化したがすぐに元の貴族の顔に戻る。


「ははは! ですから何の根拠があってそのようなことを言われているのかとお伺いしております」

 それを聞くとケインはノストラードにアゴでサインする。

 ノストラード一旦部屋の外に出ると、後ろ手を縛られた一人の男を連れてきた。


「お前は誰だ?」

「私は裏ギルドのギルド員のものです」

 今度はパトリクは明らかに表情を変え、それには焦燥が少し見える。


「最近、裏ギルドに逃亡奴隷の捕獲の依頼を出したものは誰だ?」

「そこにいる、マクニース卿の執事でございます」

 そこまで裏ギルドの者が証言するとケイン達の目の前に信じられない光景が広がった。


「ぐわぁ! フレデリック……貴様、何を……」

 パトリクの執事が突然、パトリクの首に噛み付いたのだ。

 こいつ吸血鬼か?


「ふぅー。下賤な男とはいえ、久しぶりの吸血はうまい!」

 血を吸われたパトリクはどさりと地面に崩れ落ちる。


「パトリク、状況により不本意ながら貴様を我の眷属としてやる。我の吸血鬼階級はサード。誇りに思え、貴様の階級は吸血鬼貴族の中でも上位のフォースだ」

 そういうと執事だった男は自らの手を切り、そこから流れる血を倒れているパトリクの口に注ぐ。

 するとパトリクは痙攣を初め、最後ビクンっとのたうったと思ったらヌーと立ち上がり、フレデリックに膝まづいた。


「我が君、血分け頂きありがとうございます。おお! 力が溢れてくる! これが吸血鬼貴族上位の力!」

 パトリクの目は白目部分がなくなり黒目だけとなり、牙も生えてきているようであった。


「さて、ケインと言ったな。貴様、最近噂になっていた赤ちゃん皇帝か。前世は魔術王グラードで吸血鬼族はファイブまでとは戦い打ち倒しているな。前世では」

「そこまで知っているなら話しは早い。奴隷たちを解放しろ。講和通り、人間たちからの吸血は止めろ! これはケイン帝国、皇帝からの命だ!」

「くっくっくっく」

 フレデリックは不敵に笑っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る