接触

「今日の予定は?」

 パトリクは鏡を対面にワイシャツを着ながら執事に問いかける。


「はい、本日は領主様と他貴族とレイングラードの統治に関する会議がございます」

 奴隷商人は裏の顔でパトリクの表の顔は貴族であった。

 表向きは慈善事業にも投資している貴族の中でも優良貴族だ。


「そうか、例の少女の捜索は?」

「はい、まだ見つかっておりません」

 執事はパトリクの裏の顔も把握している。


「手段は問わない。なんとしてでも見つけ出せ」

「かしこまりました。それでは裏ギルドに一人有望そうな人材がおりますが……」

 執事の説明を聞くにその人物はSランク相当。

 Sランク相当ならわざわざ裏ギルドで依頼を受けなくても表で十分すぎるほどの報酬でやっていけるにも関わらず裏でしか依頼を受けていない変わり者であるらしい。

 気分屋で依頼成功率は高くない。

 だが腐ってもSランク。

 今のうちに渡りをつけておくのが吉という提案。

 Sランクは今回の依頼には過剰だがその提案を飲む。

 使えなければそれまでの話だ。


「そのSランクの依頼人の名前は?」

「バーストです」




「久しぶりだなバースト」

 ノストラードの開口一番の挨拶はそれだった。


「ああ、あんたがこの街から消えてどれくらい経つ? 5年くらいか?」

 最後にあった時のバーストは10歳くらい。

 5年経過しているので今は15歳前後という所だろうか。


 実はノストラード、生まれはレイングラードの貧民街出身だ。

 そこの生存競争を生き抜き、力を溜めてレイングラードを飛び出して自分の組織を作ったという経緯がある。

 そしてバーストは当時の知り合いであり、命懸けの勝負をした中でもあった。


「大体5年前だ。お前も随分大きくなった。それで今回の話というのが……」

 バーストは当時わずか10歳程度だった。それでも自分よりすでに強かった。

 それが5年たちどれくらいまた腕を上げたかという興味もあるが、一番はケインに頼まれている奴隷商の調査についてだ。


「俺たちは奴隷商を追っている。特に吸血鬼に奴隷を売り飛ばしている奴だ。お前今も裏ギルドに所属してるんだろ? 何か情報はないか? 情報料ははずむぞ」

「………………」

 バーストはすぐに答えない。だがノストラードはバーストの表情の微妙な変化からこいつ知っているなという事が分かった。

 そしてノストラードが分かったという事がバーストも分かったようだった。


「知らないな」

「嘘つくな知ってるだろ」

 バーストはニヤニヤする。


「だったら? あんたの組織が俺の敵になるのか?」

「そうなるがそれは問題じゃない」

「じゃあ何が問題だ」

「俺は今、ケイン帝国のケイン皇帝の下で働いている」

「ああ、あの赤ちゃん皇帝とかいう」

「そうだ、だからそれが問題になる」

「なんの問題に?」

「ケイン皇帝は前世魔術王で転生魔術での生まれ変わりだ。お前じゃ勝てねえよ」

 バーストの表情が変わる。

 おそらく今、レイングラードではバーストは敵無しなのだろう。


「魔術王かなんだか知らんがそんなに強いのか?」

「そうだな、お前にもわかりやすくいうと……SSSランク相当って言えば分かりやすいか」

 バーストが歪んだ笑みを見せる。

 まずい藪蛇だったか。

 バーストが歪んだ笑みを見せるのは、強者相手に興奮した時だ。

 そうなればもう止まらない。


「それは久しぶりに踊れそうだな」

「警告はしたぞ」

「一つだけヒントを。昔のよしみで。依頼は裏ギルドで受けた。発注元は表向きは貴族だ」

 そこまで言うとバーストは立ち上がる。


「辿り着いてみろ」

 言われなくてもするつもりだ。

 そう言うとバーストはそのままどこかに去っていった。



「……と言う事です」

「ふーん、そいつと会えるか?」

「やるので?」

「ああ、その手の輩は実際に会ってやるのが一番話しが早いだろう」

 確かに。バーストはそう言った意味ではノストラードと近い。

 次にコンタクトを取れた時にはそう提案するとノストラードはケインに約束した。





「――――わぁ――!!」

 バーストは悪夢から飛び起きた。

 寝汗でびっしょりだ。小さい頃から繰り返し見る悪夢だった。

 しかしそれが悪夢だったという事は覚えているが不思議な事にいつも内容は全く思い出せなかった。

 寝床は貧民街のいつもの宿だ。


 起きて支度して早速奴隷少女の捜索に向かう。


 昨日、貧民街から森に入る少女を見たという情報を得た。

 その為、森の中に入ってみる。

 森には焚き火の跡が残っていた。

 誰かが野宿しているのは間違いないらしい。

 だが現状、森の中で人の気配はしなかった。

 ちっここには今いないか……


 次にゴミ山に行ってみる。

 おそらく少女は孤児のようだ。

 そういう人間がいきつく先はこの街ではゴミ山だった。

 すると一人の少女がゴミ山でゴミを漁っているのを目撃する。

 傍には白い毛をした狼のようなペット? を連れていた。

 バーストはその少女に近づいていく。

 魔導士用のローブのようなものを着ている。


「名前は?」

 バーストはそう聞くと、少女はちょっと躊躇したのち、

「ユウナ」

 と答えた。

 左手の甲には奴隷紋もある。ビンゴだ。


 しかし、ユウナをみるとバーストは頭の奥がズキズキと痛む。

 何だ? 何か記憶がぶり返されるような……


「ぐわッ!!」


 何かが強い頭痛と共にフラッシュバックの用に脳裏に浮かぶ。

 しかしその何かははっきりとは浮かばず何なのか分からない。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

 少女は自分を心配して尋ねてきた。


 攫いにきて心配されていたら世話はない。

 謎の頭痛が弱まってきた所でバーストは素早く少女を気絶させ――

 少女の傍にいたペット? が襲ってきそうになったが少女を抱えて素早くその場から立ち去った。

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