一人じゃないよ
ユウナは目が覚めると身に覚えのない綺麗な石が目の前に落ちているのに気付く。
「綺麗……」
そうとは知らず精霊石を手提げの中に入れる。
灯火の消えたランプ、体を包んでいた布と敷物も仕舞い、一つ伸びをして、ゴミ捨て山に向かって歩き出した。
カーカーカー
カラスたちが鳴いている。
ゴミ捨て山にはレイングラードの街中から集められたゴミが捨てられて山になっている。
ユウナのような孤児、捨て子、貧民街でも最底辺のものたちはそこから使えそうなものを探して売り払っていた。
匂いはきついがユウナにとって今、ここは宝の山だ。
手提げも靴も寝る用の大きな布、敷物、ランプもここから見つけ出した。
今回はできれば防寒になるような物が欲しかった。
「うんしょ、うんしょ」
ゴミの山をかき分けて目的の物を探す。
今回は運が良い事に新たに捨てられたゴミはまだ他の人たちの漁りが入っていないようだった。
良いものが見つかるかもしれない。
「あっ!」
それは星形をしたペンダントだった。
星形は水晶で形作られている。
「綺麗……魔術士さんが使うみたい」
ユウナ絵本でこの世界に魔法があるということは知っていた。
そして絵本では魔術士さんがこんなペンダントをしていたような気がする。
普通に売れそうなのになんでゴミとして捨てられているんだろう?
少し疑問に思いながらもユウナはそれを手提げの中にしまう。
「うんしょ、うんしょ」
ゴミの山を更にかき分けて目的の物を探す。
ユウナは珍しくレイングラードの街を走らずに歩いている。
今日見つけたローブが嬉しかったから。
少しでも着ている所を見てもらいたくて。
顔は念の為、ローブのフードで隠してた。
あーお母さんに見てもらいたかったなー
「ユウナ似合うねー。魔術士さんみたいだねー」
多分、お母さんだったらこんな風に褒めてくれるはず。
実際ユウナが拾ったローブは小柄なエルフ専用の魔導士用のローブで防寒だけでなく、水、炎、氷の耐性までもあった優れものだった。
嬉しくてスキップしちゃう。
(私はー魔導士ー)
流石に声には出さないが気分は魔導士さん。
魔法をかけて悪い人をやっつけるんだ。
絵本にはそう書いてあった。
そして人を助ける。
そうしてお母さんが言っていたように善意を伝染させるんだ。
おしゃれを満喫したユウナは森に戻り、今日の寝床を探す。
森は今日も静かで霊気に満ち溢れているかのように感じる。
この森は魔物は滅多に近寄らないらしい。
その為、ユウナのような少女が今まで生き延びられてきた訳ではあるが。
実はこの森、エルフたちの中では聖なる森と呼ばれ、信仰され、守られている森であった。
そんな森の中でユウナは初めて魔物? を目にする。
真っ先に見えたのは真っ白い体毛とそれとは対照的な腹部辺りに見える血のシミ。
よく見ると狼のような魔物の一種だと分かる。
その魔物はユウナを確認すると最初は「ゔー」と唸っていたが害がなさそうと見ると傷を苦しそうにしていた。
「いい事をするんだよ。特に他の人に対してね」
ユウナはお父さんとお母さんが言っていた事を思い出す。
「大丈夫? 狼さん?」
「クゥーン」
大丈夫じゃなさそうだ。
ユウナは近くから薬草を探す。
「はい、これ薬草だから食べてみて」
むしゃむしゃ
傷口が痛そうだ。ユウナは薬草をすりつぶしてみる。
確かお母さんはユウナが膝を擦りむいた時、薬草をすり潰して傷口につけてくれたら良くなった。
すり潰した薬草を魔物の傷口に、
「ちょっと沁みるよ」
と言って処方する。
「クゥククックーン」
痛かったようだ。
とりあえずユウナにできる事はした。
後はしばらく様子を見てみよう。
薬効が効いてきたのか魔物の表情が穏やかになったような気がする。
スースー
と寝息を立て始めた。
「もう大丈夫ね」
そう言うとユウナも緊張の糸が切れたのか、魔物に寄り掛かるように一緒に眠りについた。
実はこの魔物、伝説の聖獣フェンリルの子供である。
通常の魔物であれば結界により聖なる森には入る事が通常できないがフェンリルの子である為、特別に入る事ができたのか。
或いは、ユウナの良き友になれると思って入れたのか。
結果、敵より負った傷を癒してくれたこの少女に対して、このフェンリルの子供は懐き、これから先、共に生を歩んでゆくのであった。
「よかったねー」
「もう一人じゃないよー」
そんな声が森の中のどこからかひっそりと聞こえてきた。
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