いい子のご褒美

 ペコリと一礼すると少女は店を出て、今度は森に向かって走る。


 走る強い必要性は特にないのだが、奴隷商に見つからないようにする、というのと、本能的に少女は走って移動していた。


 森の中に入り、すっかり人気もなくなった頃。

 少女は手提げから、これまた拾った敷物を下に敷く。

 少し暗くなってきた為、ランプも取り出しマッチで火をつけておく。




 少女は奴隷商から逃げ出し、森の中で途方にくれていた時に何か光るものを見つけた。

 その光るものは薬草だった。少女は前にお母さんと森に山菜や薬草などを取りにきた事があった為、それが分かった。

 でも、なんで光るのだろう。少女はその原因が分からなかったが、それは少女が持つスキル『探索』のおかげであった。

 嬉しくて色々と収集した。薬草、月見草、キノコと収集しているうちにもしかしたらこれは売れるんじゃないかと思い至った。

 そして実際に思い切って売ってみると売れて、それで今に至っている。




「いただきます」


 そういうとユウナは先ほど、買ってきた丸くて硬くて大きいパンを少し引きちぎる。

 それをさらに小さく引きちぎり、口の中に入れた。

 もぐもぐ。中々、硬いパンで飲み込めるほどまでに咀嚼できない。

 また乾燥しているパンである為、口の中の水分が持っていかれる。

 ユウナは瓶のミルクを一口、口の中のパンと一緒に飲み込んだ。


 はー、お腹に食べ物を入れて、少し人心地ついた。

 昨日から何も食べてなかったのだ。

 その後もパンを少しずつちぎりながら食べていく。


「ごちそうさまでした」


 誰もいない中でもユウナはちゃんとごちそうさまの挨拶をする。


 お父さんとお母さんは亡くなったけどもしかしたら何処かからユウナの事を見てるかもしれない。

 ユウナが良い子にしていたらもしかしたらいい子しにきてくれるかもしれない。




「ユウナ、良い事をするんだよ。特に他の人に対して」

「良い事って?」

「そうねえ、ユウナがされて嬉しいこと」

「ユウナ、いい子いい子されるの嬉しい。後は偉いねって言われると嬉しい、それに……」

「そう、そういうユウナがされて嬉しい事を他の人にしてあげなさい。人は悪意も伝染するけど、善意も伝染するから。どうせなら自分の周りに善意を伝染させて善意だらけにしちゃいなさい」




 お母さんはいい事をしなさいって言ってた。

 善意が伝染?するとかはよく分からなかったけど、誰かが楽しいと自分も楽しい、誰かが嬉しいと自分も嬉しいというのは分かる。

 でもそれはどうすればいいんだろう?


 ユウナはパンと瓶を手提げの中にしまった。


 今日売ったもので財布には銀貨1枚と銅貨が何枚かある。

 これで後何日食べていけるか分からない。

 ただ少なくとも後数日は持つと思う。まだパンもあるし。


 明日はまたゴミ山に行ってみようかと思う。

 季節も秋に入ってきて少し肌寒く感じるようになってきた。

 今の服装のままだとこれから寒い。

 何か温かい羽織るものが欲しい。後、できれば寝る時の毛布も。


 大きい布を手提げから取り出す。

 それに包まりユウナは眠りについた。




 森の辺りが真っ暗闇となった頃。

 森のどこからか小さな光が飛来してくる。

 その小さな光は最初は一つだったのが二つ、三つと増えていく。


「あれ、この子また森の中で野宿してるよ」

「しょうがないよ。両親が亡くなって奴隷になりそうになったんでしょ」

「そうなの?」

「そう、私、この子の頭の中見てみたの」

「ええ、かわいそう」

「大丈夫かなこの子」


 その小さな光の正体は妖精たちであった。

 森の守護者にして、不思議な力を持ったものたち。

 臆病であるため、通常は滅多に人前には出てこない。

 人の思考や記憶を読む能力を持つものも中にはいた。


「僕、夢見の魔法でせめていい夢見せてあげる」

「じゃあ私は精霊の加護がこの子にもらえるよう精霊さんに頼んでみる」

「ボロボロ……精霊石をあげる。これを売って生活の足しにして」

「後、妖精王にも相談しよう」


 少女の周りを小さな光が舞っている。

 少女は知らず知らずのうちに妖精たちの善意を受け取ることになった。

 夢の中で気づいてはいないけれど。

 妖精、そして、精霊の加護を受けた事により少女の人生は好転していくが、それはまだちょっと先のお話し。


「ユウナ、いい子にできて偉いぞ!」

「ユウナ偉いねー。よしよし。ぎゅーもしちゃう!」


 今、ユウナは夢見の魔法により、いい子にしていたご褒美を満喫していた。

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