丸くて硬くて大きいパン

「おっちゃん、これいくら?」

 片肘をついてぼーっと店番をしていると突然声がして、はっとするが前方には人はいない。

 はて? と不思議に思っていると――


「こっちだよ、こっち!」

 下方から声がしたのでそちらを見てみると……いた!

 1〜2歳? だろうか、随分小さい子供だ。ちゃんと歩けてはいるようだが。

 服装からしていいとこの坊ちゃんのようだが一人でお買い物だろうか?


「このアクセサリーと後、この手鏡頂戴」

「ああ……ええとその二つなら銀貨1枚と銅貨3枚だよ」

 子供は財布袋から銀貨1枚と銅貨3を取り出して渡そうとするが自分に届かない。

 しょうがないなと立って、屈んで取ろうとしたが……ふわっと浮いて少年は俺にお金を渡してきた。

 浮遊魔法か!? こんな子供が?


「ま、毎度……」

「じゃあ、ありがとー」

 そういうと子供は去っていった。

 小さく見えるだけでもう少し年齢はいっているのだろうかなどと訝っていると――


「こんにちは」

 今度は5〜6歳くらいの少女が表れた。

 だが今度のこの子は顔見知りだ。前に薬草を売りに来た事がある。


「今日も薬草かい?」

 少女は頷き、手提げ袋から薬草と……ほう、今回は結晶石も持ってきたようだ。

 俺はルーペを取り出し、品物を念入りに調べる。うん、状態はいずれもいいようだ!


 少女は多分訳ありだろう。ボロボロの格好をしており一人で薬草やらを売りにくる。

 なんとかしてあげたいが自分には女房も子供もいる。

 とてもじゃないが他人の子供の面倒を見る余裕まではなかった。

 とは言ってもなんとかしてやりたいという気持ちもあるので多少色をつけた金額で買い取って上げた。


「あ、ありがとうございました」

 少女はペコリと頭を下げて、走り去っていった。

 商人は 

(あーあ、こんな甘ちゃんだから俺は商人として大成できないんだよなー) 

 と思いつつ、走り去る少女の後ろ姿を眺めていた。




 走る少女とケインがクロスしてすれ違う。

 ケインは少女の身なりと一人で商店でおそらく売却していただろうその姿を見て、ちょっと気になったので――


「ちょっと」


 と少女にすれ違いざまに声をかけるが少女は気づかず走って行ってしまった。




「この街って貧民が多いのか?」


 ケインは宿に戻ってノストラードに聞く。

 傍ではラミアがケインのお土産を嬉しそうにして眺めていた。


「最悪の部類に入るな。貧しすぎて子供を奴隷商に売っぱらう親まで中にはいる」


 ケインは領地内でまた奴隷の売買が行われているという話を聞き、わざわざこの街にやってきていた。

 この街はそれなりには発展しているが貧民街が酷いという事でも評判の街だった。

 邪の道は邪という事でまたノストラードに調査をお願いしている。


「だからこそ、裏の世界の人間の力がこの街では強い。例え貴族の有力者であっても裏の顔役をおいそれと無視できない。自分の命が危うくなるからな」

「奴隷商をしてる組織を割り出してくれ、片っ端からぶっ潰してやる」

「それなんだがな、旦那……」


 そういうとノストラードはこちらが想定していなかった情報を話し始めた。



 ◇



 先ほどすれ違った男の子はお遣いだろうか?

 年はほんの1〜2歳に見えた。

 服装からしては貴族に見えたが。

 すごいなあ。私が同い年くらいの時はお使いは無理だった。


 ユウナは走ってパン屋に向かっている。

 先ほど手に入れたお金で食料を買うつもりだった。

 パン屋に着くと他にお客さんはいないようだった。

 いつものように陳列に並んでいるパンを眺めるが、ユウナが買うものはもう決まっている。


 丸くて硬くて大きいパン。

 それがこの店で一番安くて大きいパンだった。


「これ下さい」

 陳列のパンを持って、店番のおばさんにお願いする。


「はい、銅貨10枚だよ」


 それを聞くとユウナは手提げからゴミ山から拾い、洗っておいた大きめの瓶を取り出す。


「後、この中にミルク入れてください」

「はいよ」


 女将さんは手際よくミルクを入れて、


「それじゃ合わせて銅貨15枚ね」

「ん」

 背伸びしてユウナは銅貨を手渡す。


「はい、丁度ね。毎度ありー」

「ありがとうございました」

 ペコリと一礼すると少女は店を出て、今度は森に向かって走った。

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