枢機卿との会談

 俺たちは呪いを受けた者たちが現れたという場所に急行した。

 そこは市街地のど真ん中とも言えるような場所で10人程の人々が目を真っ赤にして、何事かをブツブツと言っている。


「今までは一人二人だったのに、こんなにもたくさんは初めてです」


 聖女のオリーヴは慌てている。


「ラミア、クリフォード、オリーヴを頼む」


 オリーヴを二人に任す。


「……邪神……グンナル…様………、ああ! 憎い! 全てが!」


 ビンゴだ。ブツブツ言っていた言葉の中に邪神の名がある。

 彼らはどういう状態なのだろう。真っ赤な目は虚でみんな一様に苦しそうだ。


「フェアリィソング!」


 全状態異常を回復する聖魔法を発動した。

 天上から呪いを受けた者たちに光のシャワーが降り注いだ。


「ぐわーーーー!!」

「ぎゃあぁーー!!」


 人々は悶え苦しんでいるが、俺は魔法をかけ続ける。

 いつしかイネスにかけた時と同じようにしばらくすると人々の背中から黒いモヤのような物が抜け出していった。


「あれ!? 俺はどうしてこんなとこに? 確か突然訳の分からない憎しみにかられて……」


 正気に戻った人々は現在の状況に戸惑っているようだった。


「もう大丈夫だ。後はオリーヴ、頼む」


「えっえっえ!? なんで聖属性の魔法を? それにこんなに一気にありえない……」


 だめだオリーブも混乱してしまっているようだ。どうしよう……そうだ!


「貧乳聖女しっかりしろ!」


 バチーーーン


「誰が貧乳聖女ですか! ……皆さん落ち着いて! 皆さんは呪いによって……」


 オリーブは事後処理に取り掛かった。




「…………ちっ」

 高台の丘から遠目でケイン達の様子を見ていた一人の男。


「なんなんだあいつは! あの人数の呪いを一気に解呪しやがった! ありえないだろ! 折角人が集まって多くの暗黒エネルギー取れそうだったのに」


 望遠鏡をカバンの中に入れる。

 くそ、憂鬱だがサンディン様に報告をしにいくか。

 そう呟くと男はその場から去っていった。




「今回の呪い騒動で分かった事がある」


 騒動がひと段落ついた所で教会に戻り、みんなを集めて話している。


「呪いにかかった人たちは枢機卿の演説があると聞かされて集まっていたという事だ」


「まあ、犯人はその演説の情報を知ってたんでしょうな」


 司祭が意見する。


「肝心の枢機卿は演説の時間になっても現れなかったらしいがな」


「そ、それは……きっと何か急な用事ができたとかで……」


 司祭は枢機卿を犯人にしたくないらしい。


「どっちにしろ本人に問いただす必要がある」


「バカな枢機卿のエドアルド様に問いただすだと? 止めてくれ! そんな事をされると私の立場が無くなる」


 それが本音なんだろう。司祭の出世に響くという事か。

 だがそんなことは知ったことではない。


「聖女、オリーヴ。あんたの見解はどうだ?」


 ここで司祭の擁護に回るようならオリーヴも切った方がいいだろう。


「………身内の恥を晒すようで残念ですが、エドアルド様に直接聞くのが早いかと…」


「オ、オリーヴ、お前、何を言っている!?」


「司祭様、彼らは本物です。言っていた通り、呪いも聖魔法で解呪されました」


 司祭はこうべを垂れている。どうしようもないと悟ったのだろう。

 そもそも枢機卿が犯人でなければなぜこんなに抵抗するのか?

 もしかしたら薄々、おかしい所に気づいているのかもしれない。




「は! 私は急遽予定ができたから演説には行かなかっただけの事! それで何しに来たのだ?」


 枢機卿のエドアルドは居丈高にそういった。

 演説に行かなかった理由をこちらは問い詰めたつもりはないが枢機卿はその理由をいきなり話始めた。

 やましい理由があると思って間違いないだろう。


「あの呪いについても何も心当たりはないですか?」


「な、な、ないに決まっておる。検討もつかぬは」


「あんな呪いで何の得があるのでしょう?」


「知らぬは! そんなことは!」


「枢機卿様。呪いは闇属性の物と思われます。そのような文献に心当たりは?」


 俺と枢機卿やりとりにオリーヴも加わってきた。


「聖女! 何だお前まで! 知らぬ知らぬ! 私は忙しい! 今日の面会はもう終わりだ!」


 会談は枢機卿から一方的に打ち切られた。

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