呪い

「邪の道は邪という事で、手掛かりがありました。人身売買を行う非合法組織の内に裏で怪しげな信仰を行っている所があると。」


「その信仰の対象が邪神?」


「そこまではよく分かっていないらしいですが、おそらくは良くない物だと。その非合法組織がいる場所なのですが、よりによって聖都アリットセンだと」


 聖都アリットセンはアリットセンという女神を信仰しているアリットセン聖教会の総本山ともいえる都市だ。


「なんで、またアリットセンで。そいつらからした不倶戴天の敵方になるんじゃないか」


「聖ある所に邪があるという事なんでしょうか。詳しくは分かりかねますが……」


 とりあえずは目的地は決まった。


「アリットセン聖教会の方へはわたりはつけておきましたのでまずはそちらに伺うがいいかと」


 さすがセバスチャン。

 という事で今回は俺と竜族のクリフォード、ラミアでアリットセンに向かう事になった。



 薄暗い中、中央奥に祭壇があり女神像が祀られている。教会の壁沿いにはろうそくで灯りが灯され、天井は幾何学的な模様のようなステンドグラスとなっていた。


「ちょっと兄と外で話してきます」


 俺とクリフォード、ラミアは教会でアリットセン聖教会の人間と待ち合わせをしていたが若干、待たされていた。ラミア達も離れ、教会でぼーっとしていると――


「あれ? 赤ちゃん? どちたのあなたー」


 教会の修道女と思われる女性がやって来て、俺に話しかける。俺がケイン帝国の皇帝で、子供離れしているという事を知らないらしい。これはラミアもいないし、チャンス!


「あうー、だっこー」


「あら、抱っこー? しょうがないわねー」


 あーやはり、いいな女性はー

 うん、安心する。だけどなんだかおかしいぞ?


「あれ? おかしいな、ない? ないぞ?」


 俺はその修道女の胸を触りながら目当てとした物がないという心の声が思わず口から出てしまう。


「……………ない? 言葉喋れるの?」


 うっやばい……


「あうあうあー?」


 俺は必死に取り繕うが修道女は無言で抱き上げていた俺を椅子におろした。そしてジロジロと不信な目で俺をみる。うゔっ


「おお、お待たせしました!」


 恰幅のいい男、服装からおそらく司祭であろう男が登場する。続けてタイミングよく、ラミアとクリフォードも戻ってきた。


「これは、遠路はるばるよくお越し頂きました。私、アリットセン聖教会で司祭をしております、ダニエルと申します。そしてこちらが聖女、クリスティアです」


 ああ、聖女だったのか。貧乳聖女クリスティアね。俺はそれを心に刻んだ。


 司祭はクリフォードの方へ向かって話している。おそらくクリフォードが皇帝だと思っているのだろう。


「俺がケイン帝国が皇帝、ケインだ。この度は我帝国のコンタクトに応えて頂き、御礼申し上げる」


 俺がこのように話したのを見て、司祭と聖女は目を丸くする。


「ああ、そうか、確か赤ちゃん皇帝だと伝えられておりましたな。しかし、てっきり冗談かと」


「………てかそんなに普通に喋れたんですね」


「普通に喋れた?」


 ゔっまずい、勘が働いたのかラミアも反応している。話題を変えなければ。


「確か困っている事があるって話だったよな! それを聞こうか!」


 と俺は必死に取り繕うが、


「いてーー」

 俺の両ほっぺはラミアと聖女につねられる。


「またおいたしたのですがご主人様」

「おいたはいけませんねー」


 いたいいたいいたい

 でやっと解放される。

 ふー


「っで何を困ってるんだっけ?」


「あ…ああ、困っているのは、最近変な呪い? にかかってる奴が出てきて。この聖女のオリーヴに解呪をお願いしてるんだがその護衛をお願いしたかったんだがね……所詮は赤子だとこれは厳しいかな」


 司祭は俺の事を侮っているようだった。


「ていうか解呪なら俺にもできるけど」


「は!? いや、できるわけないだろ。女神の加護がなければ聖属性の魔法は扱えないはずだぞ」


「まあ、別に信じないならいいけど…」


 そこにラミアが、


「ひかえ! ひかえおろう! このお方をどなたと心得る。ケイン帝国が皇帝、ケイン様であられるぞ」


 そして俺は黄金のおしゃぶりを突き出し、


「我が赤ちゃん皇帝、ケイン皇帝なり!」


 ははー

 とはなるはずがなく、教会内はシーンとした。


 いや、ラミアちょっとリハーサルはしたけどその流れじゃなかったし、今回は厳しいぜ。



「じゃ、じゃあ、オリーヴの警護は任せる。呪いを受けたと思われる連中はブツブツ言いながら目を真っ赤にしてる。目撃があれば通報されるはずだ」


 そこまで司祭がいうと教会のドアがバターンと開けられ――


「呪いを受けたと思われる奴らがまた現れました!」

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