初任務
「それではこちらが冒険者のライセンス証となります」
ギルド員のビアンカがライセンス証の金属製のカードを手渡すと、
「じいちゃん! 見てこれ!」
「よかったのう。これで冒険者じゃ」
冒険者になる事自体に年齢制限はない。上も下も。
たまに過保護な親が子供可愛さに冒険者登録をさせにくる事はある。
ただ実際に依頼をこなせるか。依頼を受けられるかは別だ。
ギルド員のビアンカは老人とおそらくその孫であろう二人のやり取りを微笑ましく見ていたが、孫の子ができるのは精々、薬草の採取ぐらいだと見ていた。
「じいちゃん、なんの依頼受けようか?」
「どれ、うん? 魔物討伐は簡単なものばかりじゃのう? うん、ここにあるものならどれでもいいぞ。お前一人でも大丈夫だろう。」
聞き耳をたてていた訳ではないのだが、他の冒険者がほとんどいない今、老人と子供の会話は嫌でも耳に入ってくる。
これはじいさんも世間知らずなのかもしれない。
今、依頼ボードに張られている魔物討伐系の依頼は最低でもD、高いものだとBランクのものもある。
冒険者の初心者、しかも子供が受けるなど自殺行為だ。釘を刺しておく必要がある。
「どうやって依頼受けるの?」
「そうじゃのう、ギルド員さんにちょっと聞いてみるかのう」
よし、来る!釘を刺しておこう。
「すいません」
「何でしょう?」
「依頼ってどうやって受けられるんですか?」
「はい、そちらの依頼用紙に受託条件というのがあると思います。それが無制限のものもあれば、冒険者ランクが制限されているものもあります」
子供が依頼ボードに依頼用紙を確認しに行く。
「じいちゃん、魔物系の討伐はほとんど依頼条件なしになってるみたい!」
「おお、そうか。それじゃ受けられるのう。何か受託の手続きはあるんですかのう。」
「いえ、受託条件がない物は特にありません。ですが、失礼ですが冒険者の経験は?」
「あの子はもちろんない。わしは随分と昔(2000年ぐらい前)に少しやっと事があるくらいかのう」
おじいさんはもう歳だし、多分冒険者稼業の厳しさを忘れてしまっているのだろうか。
「魔物の討伐系はほとんどがCランクになります。冒険者になりたてのFランク。しかも子供が受けるのは自殺行為ですよ」
「おお、そうですかいのう。うーん、それじゃあ念の為、わしがついていきますわ」
「くれぐれも無理をしないようにお願いしますね」
おそらく彼らは魔物の討伐どころか、討伐依頼対象の魔物には到達できずにそこまでで遭遇するであろう、低レベルの魔物にも苦戦して今日は戻ってくるであろう。
新米冒険者が息巻いて出発して、低ランクの魔物にボコボコにやられるっというのは冒険者ギルドで受付員をしているとテンプレ展開でもあった。
善良そうな老人と子供であったため、願わくば、大きな怪我をせずに帰ってきて欲しいと願うばかりであった。
ドーーーーン!
イネスはCランクの一角兎アルミラージを一撃で仕留める。
「よし、これで………何匹目だったかな? もう狩った魔物の数、分からなくなっちゃった」
「ほっほっほ。順調だのう。その調子だイネス」
そこに「グワァーー」と声をたててゴブリンが数匹現れた。
相手は老人と子供だ。勝てると踏んだのだろう。
「うーん、また低ランクの魔物かあ。こいつらは討伐しても一銭にもならんからのう」
「じいちゃん、やっつけとくよ」
「いや、ちょっと待てよ。ちょっと久しぶりに(スキル)【咆哮】をやってみるかのう」
【咆哮】は自身より低ランクの魔物や対象を怯ませる事ができる雄叫びだった。
ただ八竜ブリストルより低ランクというと………
「グオォォォォォォォ!!」
ブリストルは【咆哮】を放った。
すると近くにいたゴブリンは一目散に逃げ出していく。
「へーじいちゃんすごい!………ってあれ? じいちゃんこれ周辺の魔物全部逃げ出してない?」
「………うーん、ちょっとやり過ぎてしまったみたいだのう」
「えーじいちゃん、じゃあ今日はもう魔物討伐できないじゃん」
「すまんのう。じゃあ今日はもう帰るかのう」
こうしてブリストルとイネスが呑気にやりとりをしている間に街では大変な騒ぎになっていた事は彼らは知る由もない。
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