一色彩葉(イッシキイロハ)

「よいしょっと」と言いながらその子は白ご飯だけを乗せたトレーをテーブルに置いた。あれ? 結構席が空いてるハズなんだけとなんでオレの真向かいに….


「んしょ」と言いながらその子は椅子に座った。

「あれ? お箸は……」その子はつぶやく。

「あぁお箸ならあそこに……」俺は食堂の食事が渡されるカウンターを指さした。


「あぁしまった! さっきまであそこにいたのに! 効率悪い!」と言いながらその子はお箸を取りに行った。ひょっとして天然な人なのか。


その子はお箸じゃなくなぜかフォークを持ってきた。

「んしょ」と言いながらその子は座る。


「あれ? お箸じゃないんだ」俺は言った。

「えっ? あーー!! しまった!!」と大きな声をあげながらその子は驚く。


俺は思わず爆笑した。

「お箸を持って行こうとしたんだけど……フォークがあったからいつの間にかそれを手に取ってて」その子が言う。それを聞いて俺は爆笑した。


笑っている俺を見てチラリとDQNたちが俺を見た。そして、すぐに目をそらす。


「大丈夫フォークでも食べられるよ」俺は笑いながら言う。

「あーーでもお箸……ま、いいか」と言いながら丼に入ったご飯をフォークで食べ始めた。


なんともユニークな女の子だと思った。

「食べるのご飯だけなんだね」俺は言った。

「そうなんです。私お蕎麦とか頼もうとしてたんですけど……券売機でなにがいいかなぁって悩んでたら後ろに人がビタッ! っと待っててそれで私、あわわあああってなってピッって押したらご飯がドンッって出てきて」とその女の子が言う。

俺はその説明に思わずプッっと吹き出す。そして笑った。


「面白いね。君」俺は笑いながら言った。

「名前聞いてもいい?」俺は言った。

「はい……一色彩葉……イッシキイロハです」とイロハが言った。

「俺は一ノ瀬純。2年生だよ。イッシキさんは何年生?」俺は聞いた。

「一年生です。最近転校してきたんです」とイロハは言った。


そこでDQNがわざとらしいほどの大声でギャハハハハと笑う声が聞こえた。その音にビクッっとするイロハ。


「大丈夫? ビックリしちゃった?」俺は聞いた。

「はい。あの……私あぁいう人苦手で」イロハは言った。


「あぁ分かるよ。俺も苦手」俺は笑った。


「私最近転校してきたばっかりなんです。でも今ぐらいの時期ってみんなグループが固定化されてて……私、中々みんなの和に入れないんです。だから私一人ボッチなことが多くて」イロハは突然俺に人生相談を始めた。

「あーー。それ分かるわ。大変だなぁ」俺は水を飲みながら答える。


「そこであの人たちにイキナリ声をかけられて、俺たちと一緒に遊ぼうとか。結構可愛いねとか。付きまとわれて、階段でスカートの中を覗き込まれたり、イキナリ体を触られたり……」とイロハは言う。


俺は思わぬ展開に食事の手を止める。

「え? マジ?」俺は驚いて聞く。


「だから一人でご飯食べてるとあの人たちに声をかけられるんです。なにしてんのぉみたいな感じで。だから、ごめんなさい。一ノ瀬先輩と一緒に食べたら安心だと思って」とイロハは言った。


「体触られるとか普通に犯罪じゃん。それ先生に言った?」俺は聞いた。

「言ったんですけど、余計酷くなっちゃって。お前先生チクっただろ! って。もうどうすれば良いか分かんなくて」といきなりイロハは涙声になる。


「それは……大変だな……」俺は絶句したようになる。目の前にいるのはなんていうか。ゆるふわ系の女の子だった。天然タイプで……男に免疫のないタイプの女の子だった。いや、だからかも知れないが……そういう明確に拒否出来ないような女の子を食い物にしようとすることに俺は少なからずショックを受けた。


「本当……どうしたらいいんだろうね……」俺はつぶやく。

「誰にも相談出来なくて……」とイロハは言った。


「先生に相談しても更に悪化するのか。一色さんはどうしたい?」俺は聞いた。

「あの人たち居なくなって欲しいです」イロハは言った。


「他にどんなことされたの?」俺は聞いた。

「あと、私が男遊びをしてるって嘘を広められたり……」


「おっ! イロハじゃん! なにしてんの? こんなとこで」とDQNの一人がイロハに声をかけてきた。ビクッっとして体を強張らせるイロハ。


ゾロゾロとDQNグループが俺たちのテーブルを囲むように集まってくる。うぉっ……なんだか嫌な状況だ。こいつらは学内でも有名なDQNだった。それがまるで獲物を取り囲むように俺とイロハを見下ろしている。ただ人生相談に乗ってただけなのに。おいおいなんだよこの展開は……

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