童貞宣言
じゃあ行こうか」と新垣は俺に胸を押し付けるようにして俺の右手にしがみついた。そしてそのまま俺たちは多目的トイレから出た。
「あっ!」多目的トイレの入り口で俺たちはトイレが開くのを待っていただろうサラリーマンの男性とバッチリと目があった。
「あっ……」言い訳のしようがない。俺たち三人はその場にフリーズしたように立ち止まる。まるで朝チュン後のカップルのように腕を組んでラブラブ状態で多目的トイレから出てくるなんて……
「中でセックスしてただけなんですけど。なにか文句ありますか?」と新垣はその男性に詰め寄るように聞いた。
「あ……」その男性はなにも答えられない。俺たちはその男性を無視するようにその場をあとにした。
「一ノ瀬くん。楽しかったですね」と俺の顔を見ながら新垣は言う。
「楽しそうな顔に見えるか?」俺はゲッソリした顔で言った。
「でも興奮したでしょ?」と俺に胸を押し付けながら新垣は言う。てか、さっきから新垣が胸を押し付けているのでまともに会話に集中出来ないんだが……
「新垣お前胸デカいな」俺は言った。
「一ノ瀬くん。それセクハラだよ! 女の子に胸が大きいとか言っちゃ駄目なんだよ!」と新垣は怒ってみせた。
「現在進行系で胸を押し付けてる奴が言うセリフかよ」俺は突っ込むと。新垣はクスリと笑った。不意にときめく。新垣の無垢な笑顔に。新垣の笑顔を見たことはなかった。でも今日それを塗り替えるくらい新垣は俺に笑顔を見せてくれる。
「新垣。お前誰にでもこんなことやってんの?」俺は聞いた。
「誰でもじゃないよ。一ノ瀬くんだけ。私って好きな人にはなんでもしてあげたくなるから。でも、私ばっかりだと辛いから一ノ瀬くんにも色々して欲しいんだ。それだけ」と新垣が言う。
「それに私一ノ瀬くんのこと見てたんだよ。東雲くんたちグループと仲が良いのも、入学式の時に制服の下にパーカーを着てきて先生に怒られたのも、あとラノベが好きってことも。市立図書館で借りていくのを良く見たから。一ノ瀬くんは覚えてないかもしれないけど」新垣は言う。
俺はゴクリと唾を飲み込む。俺の知らないところでガッツリ観察されていたのか……
「だから一ノ瀬くんがHな人だって分かった時にすごく親近感覚えたんだ。私達のところに降りてきてくれたみたいで」と新垣が言う。う……どういう意味だよ。
「一ノ瀬くんって寝盗られとか好きでしょ」と新垣がバッっと俺の前に出てきて恥ずかしそうに言った。なんだか仕草がイチイチ可愛い奴だな。
「確かに俺が見てたエロ同人誌にはそんな内容があったけど! 好きってわけじゃ……」
「でも、エロイの好きでしょ。知ってるよ。男の人ってエロにしか興味がないじゃん」と新垣が嘲るように言った。いや……そんなこと言われると俺は……
「違うよ」俺は言った。場所は駅前だった。
「俺は童貞なんだ……」俺は言った。
「えっ?」新垣は聞く。
「俺は童貞なんだよ! まだ純粋な恋愛したいんだよ。新海誠作品みたいな童貞くさい恋愛がしたいの! まだ恋愛に幻想を持ってるんだよ! 夏祭りの時に手を繋ぐか繋げないかでモヤモヤしてる。そんな恋愛がしたいんだよ!」俺は叫んだ。ビクッっとして一瞬だけ俺の方を見る通行人たちはすぐに変人を見つけた時のように目をそらして歩いていった。
「えっ? それってどういうこと?」新垣が言う。
「階段を一歩ずつ踏ませてくれよ! 新垣! もうこんな初っ端エロだったら性欲なのか本気で好きなのか分からなくなるだろ! 男って性欲刺激されると馬鹿になるんだよ。だから誘惑するのやめてくれよ……」俺は言う。
「一ノ瀬くんひょっとして私のこと嫌い?」新垣は確かめるように言う。
「いや、好きになりかけてるんだよ! でも俺は同級生に性欲をぶつけるような奴じゃないんだよ! 好きになるなら真面目に好きになりたい。……そりゃ新垣の趣味は尊重するけど……俺新垣のことなんにも知らないし……」
俺はなんだかよく分からないまま思いのたけをぶちまけた。
◇
まだまだ続きます。ブクマハートレビューお願いします!!
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