血を舐める

「だって傷口舐めるのって最高の愛情表現じゃん。一ノ瀬くんこういうの好きでしょ」人差し指を突き出しながら新垣が言う。


俺はボクサーブリーフ一丁で新垣に近づく。


「いや、感染症もあるだろ。血なんて舐めるもんじゃない……」俺は言いよどむ。


「感染なんてキスでも起きる。Hでも起きる。大丈夫だよ。一ノ瀬くんが怪我をしたときも私が舐めて治してあげるから」と新垣が言った。


「あっ……」俺は抗えない魔力のようなものに取り憑かれる。俺は新垣の血がついた人差し指を、まるでハチミツを舐めるように舐めた。


「あっ……くすぐった……ヘンタイだね。一ノ瀬くん……」新垣が俺に向かってそう言う。俺の口のなかに血の味が広がる。鉄の味。これが新垣の血の味なのか。俺はそれを飲み込めずにいた。


「一ノ瀬くん。私のことが好きならちゃんと飲み込んで」熱っぽい表情で新垣が言う。俺は……ゴクリと新垣の血を飲み干した。


「良くできました」と言って新垣は俺の頭を撫でた。俺はなんだかボーッとしている。


「これからも私が傷ついたらちゃんと慰めてね」と新垣が言う。俺は呆然としてうなずいた。


「はい。出来たよ。これ」俺の破れたズボンをキレイに縫い合わせて新垣は言った。そしてそれを俺に見せてくる。そもそも新垣がいらんことをしなきゃこんなことにはなってないよね。俺はそう思って憮然としながらそのズボンを受け取る。


「どう。結構上手いでしょ」新垣が言う。確かにビリビリに破れたのに見た目からは縫い合わせたとはほとんど分からない。


てか、女の子が俺の破れた衣服を縫い合わせてくれるのはなかなかありがたいシチュエーションだとは思うが……それがこんなよく知らない駅の多目的トイレで達成してしまうとは……


俺はズボンをまじまじと見つめていると、新垣がなんだか俺の転んで傷がついた膝をジッっと眺めていた。なんだか普通じゃない目つきだ。


「どうしたの? 新垣」俺は言った。

「いやっ! なんでもないよ!」新垣は手を振って顔を隠して答える。さっきまで顔は隠してなかったのに素に戻ったのかな。


「ありがとう。縫い物が出来るんだな。新垣」俺は言った。新垣は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑った。


「じゃあ履いてみるわ」と俺が言って足を入れようとすると、新垣は素早くスマホでボクサーブリーフ一丁の俺をカシャっと撮った。

「うわぁ!」俺は驚いた転んでしまう。それを見て新垣はケタケタと笑っている。


「これスマホの待ち受けにするね」と言って俺がなんとも情けない姿でズボンを履こうとしてるスマホの画面を俺に見せた。今はっきり分かった。こいつはおかしい奴だ。いわゆる性癖異常者というやつなのだろう。


「お前それ絶対に人に見せるなよ! ていうか今すぐ消せ!」俺は起き上がりズボンを履きながら言う。


「ヤダ。一ノ瀬くんの一番可愛い写真じゃん。これは永久保存でしょ」と新垣が言った。


「ふざけんなよ! さっきからお前!」

ズボンを履き終えた俺は新垣に詰め寄る。そして新垣の手を掴んだ!

「そうやって人をおちょくって楽しいかよ。お前のせいで俺は……」感情で言葉が詰まる。俺は泣きそうになる。


「離してよ! 大声出して非常ボタンを押すから!」新垣は言う。うっ……今のこの状況……圧倒的に新垣が有利だ。大声を出されたら俺は確実にレイプ魔として扱われるだろう。どうすりゃいいんだよ。


「離れて! いいから離れて!」新垣が言う。

俺は力なく新垣から離れた。


「ごめんね。今日あったことは全部二人だけの秘密にしよ。誰にも喋らない私たちだけの秘密。だから私の写真も撮っていいよ」と言いながら新垣は自分の下着……ショーツをずり下ろした。


「うおっ!」俺思わず目をそらす。目の前で女の子が下着を脱いでいる。その異常な光景を俺は直視出来なかった。


「ほら撮って」と言って新垣は自分のショーツがずり落ちて足のところで脱げかけている姿を俺に見せた。


扇情的な光景だった。

「あっ……」俺は動揺する。

「ほら履いてないってやつだよ。オタクの人ってこういうの好きでしょ」と言ってスカートを自分の手でピラピラさせる。確かにスカートの中身は……なにも履いてないが……


俺はなんだか熱病にうなされたようにスマホを取り出してカシャ! 新垣のショーツが脱げた姿をスマホで撮った。新垣を呆然と見る俺。新垣はショーツをたくし上げてふたたび履いた。


「これでお互いに恥ずかしい写真を持ってるね。だから安心だね。これで私の写真をバラまいたら一ノ瀬くんの写真もバラまくから。あと事実を元にあるとこないことも言うからね」と新垣は言った。

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