はい逮捕
「助けてください!」新垣はそう言って声をかけてきた女に抱きついた。この瞬間周囲の空気感が変わる。
うわ! やば!
え? 本物?
痴漢?
電車の音にかき消えながら口々に女性の声が聞こえる。俺はパニックになる。バクッバクッ! 心臓が高鳴る。
「次は〇〇駅〜〇〇駅です。お出口は左側です」アナウンスが流れる。
プシューー!! ドアが開く。俺はダッシュでその場から逃げ出した。しかし!
「うわぁ!」俺は焦ったのかドアから出た直後に地面に転んでしまった。
「駅員さーーーん! 駅員さーーーん!」さっき新垣を助けようとした女性がホームにいた駅員に叫んだ。ヤバい……駅員がゆっくり近づいてくる。俺は立ち上がって逃げようとするが、
「おい! 待て!」
ガッ! 男に体を掴まれて立てない。
「どうかされましたか?」駅員が女性に話しかける。
「この人がこの女の子の胸を揉んでいるところを見たんです」と女性の声が聞こえる。
「本当ですか?」と駅員は新垣に聞いた。新垣はコクリとうなずく。
「じゃあちょっと話を聞きたいんで、君駅長室まで来てもらえますか!」と駅員は俺に言った。
俺は周りの人間に囲まれながらゆっくりと立ち上がる。俺の体を掴んでいた男は自然と離れた。
「大変でしたね。大丈夫ですか?」駅員が新垣に聞く。どいつもこいつも俺の話は聞かないのかよ。新垣はシクシクと泣き真似をしていた。
うわぁ……え? 痴漢?
女の子ボロ泣きじゃん
可哀想……と声が聞こえる。
「二人は知り合いとかじゃないよね」駅員が新垣に聞いた。新垣は泣くのをやめて俺の方を見る。まるでどうする? とでも言われてるみたいだった。これ新垣に赤の他人って言われたらおしまいじゃないのか? 俺は焦る。
「いや、違うんです!」俺は言った。周囲の目が俺に注がれる。
「俺とこの子は知り合いなんです!」俺は言った。それは本当だ。赤の他人じゃない。
「本当?」声をかけてきた女性が新垣に聞く。
「違います。知り合いじゃないです」と新垣は言った。えっ? 俺は目の前が真っ暗になる。嘘つくなよお前! 俺は心の中で強く思ったがそれは口に出せなかった。
「じゃあ君。駅長室まで来ようか」有無を言わさない態度で駅員は俺に言う。俺は為す術もないなくそれに従う。ごった返す駅のホーム。ジロジロ俺たちを見る人々。普段の日常が非日常になる。俺はふわふわとした足取りで現実感がなく歩いていた。
後ろから歩いている新垣が俺のところに走り寄った。
「早く恋人同士って言った方がいいですよ」新垣の声が聞こえた。なんとも可笑しそうな声だった。
あっ! 俺は思い出した。駅員は駅長室で話を聞くと言っていた。だが、聞いた話だが、駅長室に行くと最後で話など聞いてもらえずに警察を呼ばれるとのことだった。どうしたらいいんだ! まったく頭が回らない。
つまり俺は駅員室にいくと……終わるのか……
大人しくついて行ってるが……これはもうどうしたらいいんだ……階段を降り駅長室のすぐ近くまで来た。ドクンドクンと心臓が高鳴る。俺は……
「恋人同士なんです。僕たち」と駅員に言った。
「え?」と前を歩いていた駅員が振り返る。
「僕この子と付き合っててそれでおっぱい揉んでも良いって言われて……それで……ちゃんと」俺は口ごもりながら言う。
意外そうな反応をする駅員。驚いているようだ。
「本当?」駅員が新垣に聞いた。すると新垣はなにも答えずに俺のそばまで来た。ちょうど俺に背中を預けるような立ち位置になる。そして新垣はコクリとうなずいた。
「えーーいやでも話を聞かないと。すぐ済むから駅長室に入って」と駅員がそう言う。
「無理です。私たち付き合ってるんで」と新垣は言うと
「行こっ!」と俺に手を差し伸べた。それにつられて手を取る俺。ポカーーンとする駅員を尻目に俺たちは学校に向かう見知らぬ途中駅でピッ! ピッ! とICカードを鳴らして改札から出た。
クスッっと笑ったあと新垣は言った。
「ドキドキしたね」いやドキドキどころじゃないだろ。マジかこいつ……
◇
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