誘惑

「違うって! 誤解するなって!」

俺は体を前かがみから座高の高さが測れるくらい真っ直ぐか姿勢に戻した。気合だ! なんとか血液の集中をやめろ! 俺は股間から全身に血液が流れるイメージをする。


カシャ! と突然音がした。え? 新垣がスマホのカメラで俺を撮っていたのだ。

「ちょっと!」俺は怒って新垣のスマホを取り上げようとする。一瞬新垣と俺がイチャイチャしながらスマホを取り合うような状況になる。

「キャーーー!! 助けて!」と言って新垣は笑いながら俺の手を振りほどく。周囲のサラリーマンたちが何事かと俺たちを見ている。俺は自分の手を止めた。


「ハァハァ……くふっ」と息を切らせ笑う新垣。

「駅のホームで大きくしてる人」と言いながらスマホの画面を俺に見せてくる。そこには俺が顔を真っ赤にしながら股間を妙に膨らませている写真だった。やられた。俺は思った。


「一ノ瀬くんって私の体で興奮するってヘンですよ。ヘンタイですよね」と新垣がからかうように言う。一体これからどうなるんだ……


いやヘンタイなのはどっちなんだよ。エロいものを見て勃起するのは自然現象だろ。そこにエロイもクソもない。コーラを飲むとゲップがする。女の子を見るとボッキがする。いやちょっと違うか。


「しょうがないじゃん……新垣がエロいんだから」俺は言う。すると新垣が「キーーー」と奇妙な声を上げながらまた俺をはたいた。どうやら恥ずかしいのを誤魔化しているようだ。てか、さっきから新垣のいい匂いが風にのって香って来るんだけど。これシャンプーの匂いかな。甘い香りが。


「それじゃ電車に乗れないですね。駅員さんに言わないと。駅員さん! 僕、股間が大っきくなったんでどうしたらいいですかって」可笑しそうにからかいながら新垣は言う。新垣はなんだか妙なテンションだ。


「他の人にもこういうことやってんのか?」俺はムスッとしたように言った。


「え? 一ノ瀬くんだけだよ。初めて見せた。私の肌。私好きな人以外に肌を見せないから」と言いながら新垣は自分でキャーーーっと言いながら恥ずかしそうに顔を隠す。


「おまっ! からかうな!」俺は新垣の体を掴もうとすると新垣はキャッキャッいいながら楽しそうに身悶えする。


「チッ!」通勤のサラリーマンが俺らの様子を見て舌打ちする。確かにこれは傍から見たら明らかなバカップルだ。しかも朝っぱらから。


あーーっといった表情で新垣が自分の手を口に当てる。その時駅からアナウンスが流れた。


「只今参ります電車は8時12分発〇〇行き。12両編成です。禁煙席は6号車8号車12号車。お手洗いは1号車、5号車、12号車になります。1号車2号車は女性専用車両となっております。黄色い線の内側でお待ちください」アナウンスが流れる。


「あっ電車が……」と行って新垣は立ち上がった。そして俺に「行こっ!」っと手を差し伸べる。なんだか男女の立場が逆転してる気がするけど、俺はその手を取った。小さな手だ。柔らかい。まるで赤ちゃんのような。


その手の感触が俺の本能に告げる。この子は大事にしなきゃいけない存在だと。守らなきゃいけない存在だと。でも……新垣エロいんだよなぁ。仕草というか。まぁ自分のエロい写真を見せてくる行動もそうだが……なんか男性からエロい目線で見られることに抵抗がないっていうか。


「只今電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください」駅のアナウンスが鳴る。俺は新垣に連れられるようにして黄色い線の内側で電車を待つ。


「私いつもこの車両に乗ってるんです」と新垣がいう。ふーーん。そうなんだとなにげなくその会話を聞いていた。ゴーーーー!! 電車がホームに着く。プシューーー!! 扉が開いて次々に降りてくる人々。


「一ノ瀬くん乗って!」と新垣がそう言うと新垣は俺の後ろに回り込んで俺の体を車両に押し込んで入れようとした。


「え? なにを」俺は戸惑ったように新垣を見ながら車両に乗り込む。そして新垣も車両に乗り込んでプシューーっとドアが閉まる。ガコンガコン……ゆっくりと電車が走り出す。


「初めてですか? この車両に乗ったの」新垣が俺を見上げながら言う。

「あぁ。いつもこの電車に乗ってるけど」と俺が言うと新垣はクスリと笑った。え? 今笑うところあった?


ん? なんだか周囲から視線を感じる。俺は周囲を見回すと女性たちがこっち……主に俺の方をジッと見ていた。え? なんだ一体……


「なんで男の子が……」

「乗る車両違う……」

女性たちが口々に言う。俺はハッっと新垣を見た。新垣はいたずらっぽく笑っていた。


「ここ女性専用車両……?」俺は聞いた。

「うん。言ったじゃん。女性専用車両だって。私じゃなくて。駅員さんが。アナウンスで」からかうように新垣が言う。うわぁ! 俺は焦る。


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