第119話 免税獲得の効果

「やったのう!」

「やりましたね!」

 免税案が認可された事が伝えられると、ユガの国司館は一気にお祭り騒ぎになった。


「おめでとうございます、国司様」

「頑張った甲斐がありましたね! 嬉しいです!」

「ま、あんたにしては上出来ね。褒めてあげるわ」

「すばらしい成果……。ユガの民も喜んでる……」

 四人の娘達から次々に寄せられる賞賛の言葉を聞いて、コランも笑顔を浮かべた。


「嬉しいのう。これも皆のおかげじゃ」

 そう言って、思わず娘達に抱きつこうとしたが……先日からの出来事を思い出して、つい気後れして思い留まり、身体が固まってしまう。

「……………。……良い、ですよ。国司様」

 そんなコランを見て、優しい笑みを浮かべてクリークが言った。

「国司様は、ユガの部族たちを、ユガの民を。そして……わたしたちの事を一生懸命考えて下さって……。そして、こうしてハーンから免税を勝ち取って下さりました」

 コランを見つめて、包み込む様な笑顔を浮かべる。

「そんな、今の国司様でしたら……。わたし、抱きしめて差し上げたいですわ」

 そう言って、コランを迎え入れる様に両手を広げる。

 その優しい表情を見て、コランは震える声でクリークの胸に飛び込んだ。

「!!!!! クリークママぁ~!!!」

「あらあら、国司様は甘えん坊さんですね」

「麻呂は、麻呂はずっと寂しかった……ずっとこうしたかったでおじゃるよ~!」

 クリークの胸に顔を埋めて、太股に頬をすり寄せながら、コランが感極まった声を上げる。

 そんなコランの頭を、クリークは優しく撫でてやるのだった。


「……ま、今のあんたにだったら、肩ぐらいは抱かせてやってもいいかもね」

 その様子を見ながら、トルテアがいつもよりは優しい口調で言った。

「今の国司様なら、お側にいたい。そんな気分です!」

「頑張った国司様……。今の国司様となら、夜もお話していたい……」

 サシオとハッチャもそう言って、傍らに近づき、コランの手を取った。

「お前達も……! 麻呂は嬉しいでおじゃる……!」

「まあ、本当に今回は良くやったわ」

 トルテアが柔らかい笑みを浮かべて言った。

「免税を勝ち取ってくれた事で、ユガの民衆も喜んでる。……ほら、見てご覧なさい」

 そう言って、部屋から連れ出して、城壁から外を見せる。


 コランと四人の娘達が見る、城壁の外の世界……ユガの町並みは、喜びに満ちていた。

「国司様、ありがとうございます!」

「税金が免除だなんて……ありがたいことじゃ……」

「国司様がハーンに直訴して、ユガの民を救って下さったのじゃ……」

「新しい国司様は、我らユガの民の事を大事にして下さる……嬉しいことじゃ……!」

 城門の前では、ユガの市民達が集まって来て、国司への感謝の言葉を口々に叫んでいる。

 その様子を見ながら、クリークが優しくコランに言った。

「ご覧ください、国司様。民衆たちは皆、国司様に感謝しているのですよ」

 クリークの言葉。そして城外から響いてくる、感謝の言葉。

「ユガの民衆達が喜んでくれている……。嬉しいのう……」

 その言葉を聞いて、コランは感無量な気持ちになった。

「麻呂は初めて、国司として、ユガの民の役に立つことが出来たのかのぅ、嬉しいのぅ……!」

「勿論です、国司様!」「国司さまはご立派……」

 両側からコランの手を取って、サシオとハッチャが優しく言った。

「ユガの諸部族……。そして、あたしたちの実家の四部族も喜んでいるわ。良くやったわね」

 トルテアがぶっきらぼうな口調で……だが、優しく言った。


 その横で、クリークが続けてコランに告げた。

「諸部族を代表して、ユガの四部族の族長……わたしたちの父たちが、免税のお礼を申し上げたいと参上しておりますわ。どうか挨拶をお受けになって下さいませ」

「えっ、お、お前達の父上たちが……!?」

 突然の言葉に狼狽するコラン。

 ユガの4部族の族長たちとは、国司就任時に顔を合わせた時以来の面会となる。彼らは4人の娘達の父親でもあるわけだが……現在のコランと娘たちとの関係を見て、何と言うだろうか。

 突然の父親たちとの面会に、コランは気が気でなかったが……。

「ほらほら、さっさとする!」

「私たちの父上……族長たちが、待っています!」

 しかし、娘達に促され、流れるように「国司の間」に……族長たちとの会見の場に連れて行かれるのであった。



 4人の娘達の父親という事で、何か言われないかと気が気でなかったコラン。

 しかし、そうした心配は杞憂であった。

 クリークたち4人の父たち。ユガ地方四部族、タゴゥ族、マユラ族、クシマ族、ヨゥマチ族の族長たちは、国司の椅子に座るコランの前で、次々と免税のお礼を。そして、免税をハーンから勝ち取ったコランに対する賞賛の言葉を告げたのだった。

 そして、自分の娘たちがコランの側に佇んでいる様子を優しい表情で見つめて……。

 「我が娘をどうか、引き続き宜しくお願いいたします」と言葉を揃えたのであった。



 ……………



「急にお前達の父上に会わされて、何か言われないか、気が気で無かったでおじゃるよ~!」

 会見を終え、胸を押さえながら言うコラン。そんなコランを4人の娘達は笑顔で見つめていた。

「ふふっ。心配ご無用でしたね。そして……改めて、わたしたちのこと。お父様たちからのお墨付きが出ましたね」

 そう言って、クリークはコランの両手を包み込んだ。

「ユガの民の事を、わたしたちの部族の事を。……そして、わたしたちの事を考えて、頑張って下さった国司様。自分の立場の危険を顧みず、ハーンに奏上して、ユガ地方の免税を勝ち取り、救って下さった国司様……」

 両手を包み込み、目の前で囁くクリークの吐息に赤面しながら、コランは周りを見回した。クリークの側では、サシオが、トルテアが、ハッチャが笑みを浮かべている。

「そんな今の国司様は、とても素敵ですわ。

 わたしたちが共に過ごし……身を捧げてお仕えするに相応しいお方です」

 顔を近づけて、耳元で囁く。

 その言葉に感極まったコランは、声を震わせながらクリークに抱きついた。

「クリークママぁ~!」

「あらあら……本当に国司様は、甘えん坊さんですね。これからは、またみんなで一緒に仲良く過ごしましょうね」

 コランの背を撫でるクリーク。その後ろで、3人の娘達も優しい表情を浮かべていた。

「国司様、改めてこれからも宜しくお願いいたします!」

「ま、結局は元鞘って事ね」

「国司様、これからも一緒……」


「お前達も……麻呂は嬉しいでおじゃる……! これからも麻呂の事……よろしく頼むでおじゃるよ……!」


 ……………



 こうして、ユガ地方の免税を勝ち取った国司コランは、一時は関係が疎遠になっていた4人の娘たちと、再び共に過ごす事になった。

 最初のうちはややぎこちなかったものの、暫くの時間が過ぎると、4人の娘達に甘え、日々囲まれて過ごす生活に、すっかり戻っていたのであった。



 国司の執務だけでなく、日常生活の世話まで。朝も昼も、そして夜も……常に4人の娘とともにある国司コランの生活。

 それだけでなく、免税によりユガ地方の民衆たちからも感謝され、支持される、順風満帆に見える日々。



 そんなコランたちに新たな転機が訪れたのは……暫くの時が経ってからであった。

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