第111話 彼女たちのお役目

 窓の外に広がる世界を眺め、コランが国司の重大な任務を噛みしめていた、その時だった。

「国司様、入っても宜しいですか?」

 部屋の扉がノックされるとともに、入口から女性の声が響いてきた。

 コランは慌てて国司の玉座に座ると、服装を正してから応えた。

「入るが良い」

「……ありがとうございます。失礼いたします」

 その声とともに、軽めの足音がして、何人かのゴブリンが部屋の中に入ってきた。


(おお……っ)

 コランが内心で歓声を上げる。入って来たのは、4名の女性のゴブリンであった。


 少し長身の、豊満な肢体をした、長い髪の若い大人の雰囲気を漂わせた女性。

 その隣に立つのは、それとは対照的に、かなり背の小さい……「若い」というより「幼い」に近い、制服の様な服装をした、濃い色の肌をした、はきはきとした感じの女の子。

 そして、その子よりは少し年上、ハーンと同じくらいの年齢に見えるが、隣の子と背の高さはあまり変わらない、そして何だか生意気そうな表情を浮かべた女の子。

 最後の4人目は、もう少し年上、色白で眼鏡を掛けている少女。何だか自信なさげで俯き気味で、他の3人の後ろに隠れる様に入って来ていた。


 4人の女性ゴブリンたちは、並んでコランの前に立った。

 いずれもタイプは異なるもののかなりの美女、美少女であり、コランは内心どきどきしながら彼女たちを迎えていた。


「はじめまして、国司様」

 4人の中で一番の年上であり、リーダー格だと思われる長身の女性が言った。

「まずは自己紹介させていただきますね。わたしは、タゴゥ族族長の娘、クリークと申します」

 深々と頭を下げる。

「う……うむ」

 コランは、彼女……クリークの甘い声と、今にもこぼれそうな胸元の谷間に気を取られながら頷いた。


「はじめまして、国司様!」

 二人目の小さな少女は、はきはきとした声で、小さな身体を大きく動かして敬礼する様なポーズをして言った。

「私は、マユラ族族長の娘、サシオです! ご指導ご鞭撻、宜しくお願いいたします!」

「宜しく頼むぞよ」

 コランは、サシオの元気な様子にほっこりとしながら応える。


 続いて出てきた少女は、微妙に不満げな、機嫌が悪そうな感じだった。

「あたし……私は、クシマ族族長の娘、トルテアよ。……です。よろしくお願い……いたします」

「う……うむ」

 トルテアは敬語を使うのも嫌そうな感じ。生意気系かな? でも可愛い。髪を束ねたポニテと、ちらりと見えているうなじが可愛い、と思いながら頷く。


 最後に、眼鏡少女がおどおどとした感じで発言した。

「わ、わたしは……ヨゥマチ族族長の娘、ハッチャ……です。よろしくおねがいします…」

 何だか、ハーンや大尚書様を気弱にした感じだな……と思いながら、コランが頷く。



 自己紹介を終えて、改めて4人がコランの前に整列した。

 タゴゥ族のクリーク。豊満な肢体が特徴的な、大人の雰囲気を漂わせた女性。

 マユラ族のサシオ。小さな子供の様だけど、日焼けした健康的な色気の、はきはきと元気な少女。

 クシマ族のトルテア。何だか生意気な皮肉屋っぽい雰囲気の少女。

 ヨゥマチ族のハッチャ。色白で、少し内気な眼鏡少女。


 いずれもタイプが違うながら、とてもかわいい、美しい…そして自分好みの雰囲気の女性たちであり、コランは胸を高鳴らせながら4人を見つめていた。


「四部族長の娘であるわたしたち4名、これより今後コラン様……国司様のお側にお仕えさせていただきますね」

 彼女たちの先頭で、クリークが言った。

「おお……本当でおじゃるか?」

 コランが上ずった声で言った。

「はい」

 クリークが頷いた。

「国司様のユガ地方統治を、お側からお支えするのが、わたしたち4人の役目です」

「よろしくおねがいします!」

 サシオが横で元気よく言った。

「私たちが支える以上、恥ずかしくない国司になって貰うんだからね!」

 トルテアが腰に手を当てて言った。

「大丈夫……わたしたちが……ついてる……」

 ハッチャが3人の後ろに隠れながら呟く。


 この美少女4人が、これからは自分の側仕えとしてずっと側にいてくれると言うのだ。思わぬ役得だった。

 思わず嬉しくてにやけてしまうコランを前に、クリークが続けた。

「……そして、わたしたち最初のお仕事は、国司様にこのユガ地方について、完全にマスターするまでレクチャーすることです」

「……えっ!?」

「国司様にこのユガ地方を、わたしたちの部族をより良い形で治めていただくため……まずは、このユガ地方の地理、歴史、諸部族などについて学んでいただきますわ」

 クリークの言葉とともに、扉が開いて随行官たちが様々な書類を運んで来た。


「ええっ!? い、今からでおじゃるか?」

 突然の事に、コランが当惑した声を上げる。


「当然でしょ?」生意気系少女のトルテアが言った。

「この地方を治める国司になる以上、しっかりと知識をつけて貰うわよ。いいかげんな知識でこの地方を治めて、めちゃくちゃにするなんて許さないんだから!」

「あらあら、トルテアちゃん、国司様への言葉遣いは丁寧にね」

 トルテアの言葉遣いをたしなめつつ、その横でにこにこした表情でクリークが言った。

「大丈夫ですよ。わたしたち4人が、完全にマスターするまで、しっかりレクチャーさせていただきますから……一緒に頑張りましょう、ね?」

 そう言いながら、上目使いでコランを見つめる。

「私も、一生懸命サポートさせていただきます! 覚えるまで詰め込みましょう!」

 その横でサシオがはきはきした声で言った。

「大丈夫……覚えるまで何度も繰り返せば……覚えられる……」

 後ろではハッチャが眼鏡を光らせている。


「さあ」

「はじめましょうか……」

 4人がにじり寄ってくる。

「ひいいっ……国司も大変でおじゃるな……!」

 「国司の間」に、コランの悲鳴が響き渡った。



 ……………



 その日の夜。

「ふぅ、今日は大変でおじゃったな……」

 ようやく解放されたコランは、国司の寝室から夜空を眺めながら、ため息をついていた。

 あれから4人につきっきり、ぶっ続けでユガ地方の地理や歴史、各地の特産品や各部族の構成、情勢などについて講義を受け、結局夜まで続いてしまったのだった。

 ようやく解放され、風呂に入って一息ついたところだ。


 彼女たちに勉強漬けにされるのは大変であったが……コランは、案外、悪くないなという印象を持っていた。

 それは……学習するにあたって、4人の女性達がコランの側でぴったりくっついて、つきっきりで教えてくれた事だった。


 豊満な肉体を、当てる様に、密着させながらレクチャーしてくれる、クリーク。

 身体を近づけると、そして石鹸の様な、何だかいい香りが漂ってくる、サシオ。

 生意気な口調ながら、ポニテ髪がかわいくて、そして何だか吐息が色っぽくていい匂いがする、トルテア。

 ハーンやコアクト様とはタイプが違うけど、おとなしくてかわいい眼鏡美少女のハッチャ。


 講義の間、彼女たちはずっとコランに密着し続けており……そうした接触は、女性への免疫が無かったコランにとって、とても刺激的で嬉しいものだった。

 そのせいだろうか、気がつけば教わった内容が結構身についている気がする。


 彼女たちは、これからも国司のお付きとして、ずっと国司の側で補佐するのだという。それはつまり、今後も彼女たちが一緒にいる、彼女たちと過ごせるという事を意味していた。

 そうなれば、彼女たちともっと仲良くなれるかもしれないし、今日の様な嬉しいスキンシップも増えるかもしれない。

「国司というのも、案外悪くないでおじゃるな……」

 コランは、夜空を眺めながら呟いた。



 ……………



 その時だった。


 コンコンと、ドアをノックする音がした。

「誰じゃ?」

 ようやく大変だった一日が終わって、もう寝るところなのに……と、少し不満げな感じでコランは答える。

 何かの急用か?と思っていたが、続く展開は全く予想していないものだった。


「……失礼いたします……」

 その声とともに入って来たのは、クリーク、サシオ、トルテア、ハッチャ。4人の女たちであった。

「!?」

 再び入ってきた4人は、昼間とは違い、ごく薄い寝衣を身に纏った姿である。衣服の隙間から素肌が見え隠れしている様子を見て、コランは思わず胸が高鳴るのを感じていた。

「ど……どどうしたのじゃお前達。そんな格好でこんな時間に麻呂に何の用じゃ」

 コランが少し声を震わせながら問いかける。


 先頭に立ったクリークが、薄く微笑んで言った。

「……国司様」

 そう呟いて、少し紅潮した表情で、コランに身体を近づける。

「わたしたちは、国司様のお側にお仕えする者ですわ。それ故に……」

「そ、それ故に!?」


「わたしたち4人。国司様の夜のお供も……つとめさせていただきます……」

 その言葉ともに、4人の身体から外された寝衣が一斉に床に落ちる。


 突然目に飛び込んできた光景を見て、コランは目を白黒とさせた。


「これは……夢でおじゃるか、本当に現実でおじゃるか……?」

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