第9話 アクダムとの対決

「おはようございます、りり様~」

 聞きたくもない、濁った笑い声。


 まだ早朝の筈なのに、アクダムが何人かの取り巻きのゴブリンたちを連れて、族長の間に入ってきた。

「朝早いですが、待ちきれずに来てしまいましたよ」

 下卑た笑みでわたしを眺めるアクダム。


「今日で族長も終わり、奴隷落ちだな、りり。楽しみにしていたぞ。

 まずは鎖骨酒で乾杯だな。……さあ、一緒に来るんだ」


 わたしは、ごくりと唾を飲んだ。

 今だ。

 この場で、アクダムを始め、すべてのゴブリンたちに、自分が強い「スキル」を、能力を持っている、と認識して貰うしかない。

 自分の目論見通り、いけるだろうか……でも、やるしかない。


 わたしは……覚悟を決めて、口を開いた。

「……口の利き方に気をつけなさい、アクダム」


「あぁ?」

 突然のわたしの言葉に、一瞬当惑するアクダム。しかしすぐに嫌らしい笑みが戻ってきた。

「今日は妙に反抗的だなぁ、りり。躾が必要なようだな」

 そう言いながら、懐から鍵束を取り出す。

「うへへへ、今開けてやるぞ。そっちに行って、直接身体に躾けてやる」


「……あなたに開けて貰わなくてもいいですよ。わたしは……ここから出ます」

「あぁん?」

 アクダムがそう言った瞬間……ボシュッという大きな音と共に、鉄格子の鍵部分が消滅した。

「うわっ!?」

 目の前で大きな音がしたので、驚くアクダム。鍵穴が消えた部分を通して、ぽかんとした表情の顔が見えた。


「これは!?」

「ここから出して貰いますよ」

 そう言いながら、鉄格子の下側の部分を選んで、「採掘マイニング」で消していく。

 音を立てて鉄格子が次々と消えていき……ある程度消したところで、支えの無くなった鉄格子は、がしゃん、という大きな音と共に倒れた。

「ぐわっ!?」

 倒れた鉄格子に巻き込まれて、アクダムが下敷きになる。



「……こ、これは!?」

 大きな音に驚いて、ゴブリンたちが何人も部屋に入って来る。その中には、爺やリーナの姿もあった。

「り、りり様、これは!?」

「わたし、『スキル』に目覚めたのですよ。だから、この部屋だけで過ごすのも、もう終わりです」


「ふ、ふざけるなあっ! 誰が出てもいいと言った!」

 倒れた鉄格子から這い出してきた、アクダムが叫んだ。

「『スキル』に目覚めたと言っても、どうせ下らん能力だろう! お前の様な役立たずに族長などさせられるか!」

 役立たず…なのかは判らないけれど、おそらく本来のものとは違う、手違いで貰ったゴブリン向けでは無い能力なのは、その通りだ。

 しかし、ここで押し切らないと、わたしの未来はない。


「口の利き方に気をつけなさい!」

 アクダムに手を向けて、能力を発動させる。足元の地面を「採掘マイニング」したので、バランスを崩したアクダムが尻餅をついた。

「族長はわたしです!」

「ぐっ……どんな能力か知らんが、どうせ下らん能力だろう! 人を転ばせる能力か!?」

 アクダムが叫ぶ。そんな能力なわけがないだろう、と思ったが、やはり誰にもわかる形で、この能力が強力なものだと認識して貰うしかない様だった。

 他のゴブリンたちも、周りで成り行きを見守っている。ここで舐められない様に力を見せつける事が必要だった。


「お前の下らん能力より……儂の魔法の方が強いに決まっている!」

 立ち上がったアクダムが魔導杖を取り出した。


 アクダムはゴブリン魔道師だ。ゴブリンの中で魔法を使える者は、ごく僅かだ。この力で、これまで族長や摂政として権力を握ってきたのだ。

「このメスガキが……儂の力をわからせてやる!」

 杖の先に炎が灯った。火炎魔法だ。


「くくく、りりぃ……おしおきしてやるぞ。脱がせるのも面倒だ。その服を燃やしてから、この場でじっくり可愛がってやる」

 アクダムが歪んだ笑みを浮かべる。

 杖の先の炎が、ひときわ大きく燃え上がった。


 だが……アクダムのこの行動も、わたしの予想通りだった。

「……そうはいきませんよ」

 わたしは、手をアクダムの方に向けて……「採掘マイニング」の力を発動させた。


 次の瞬間、ボシュッ、という音がして……炎が消えた。

「えっ!?」

 アクダムが驚いて、杖の先を見つめる。

 周りのゴブリンたちも、驚いて炎が消えた様子を見ていた。


 わたしが、火炎魔法の炎を「掘った」のだ。

 炎も「採掘マイニング」できるのは、事前に松明の炎で確認していたけれど、一発勝負だったので、上手く行って良かった。失敗したらどうしようかと思っていた。


 そんな動揺を隠しつつ、わたしは次の一手を打つ。

「ひっ!?」

 ボシュッ、という音とともに、アクダムの杖の先端が消滅する。

 先端が消えて、輪切りの様になった魔法の杖を、アクダムは唖然として見つめる。


「ままま、まさか……消滅の能力!?」


 ……よし、そう思ってくれた。

 震える声で呟くアクダムを前に、わたしは指をすうっと横に向ける。

 そして、畳みかける様に、言った。


「あなたも……消しましょうか?」


 大きな音と共に、アクダムの目の前の地面が、一直線に「採掘」されて消えていく。

「ひ、ひいっ!?」

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