第7話 女神の啓示

 夢の中。

 目の前まで走ってきた、バテバテで荒い息を整えている女性を、わたしは不安げに見つめていた。


 え、ええと……神様ですよね?

 というより、神様ですかね?


 わたしは期待や感動よりも不安の方が大きくなりつつ、息を整えている女性を眺めたのだった。

 ゆったりとした服装で、身体全体がぼんやりと光っている。何か特別な存在だとは思いつつも、こんな登場の仕方では不安しか起きない。



「あの……あなたは、神様、ですか?」

 わたしが尋ねると、彼女はこくりと頷いた。

「まあ、そんな感じの者ですね」

 何だか軽い、不安になる様な声の感じだった。


「いや~、遅刻するかと思いましたけど、何とか、10歳の誕生日に間に合いましたね~。あなたに『スキル』を授けに来ました」

 汗を拭いながら言う彼女。

「いや、間に合ってませんけど……今日は、11歳の誕生日です」

「えっ?」


「……………」

「……………」


「……今日はあなたに、女王として宿命づけられた『スキル』を授けに来ました」

 ごまかすかの様に、急に厳かな口調になって告げる彼女。もはや「神」としてのカリスマ性が全く感じられない。

 もしかして、「スキル」の授与が遅れたのは、彼女のせい!?

 折角来てくれた「ゴブリンの神様」だけど、こんな調子で大丈夫なのだろうか。

 また、過去の女王と同じく、役に立たない「スキル」しか貰えないのではないだろうか。


「あの……大丈夫なんですか?」

 わたしは不安になって聞いた。

「前の女王も、その前の女王も、役に立たない力しか貰えなかったと聞いていますが……」


「何を言うのです」

 彼女は、心外だ、と言わんばかりの表情で言った。


「たとえば、2代前に授与した『全ての魔法無効化』というのは、神に匹敵する強大な力です。どんな魔道士でも敵わないという、チート能力です。それを生かし切れなかったのが悪いのです」


「でも、前の女王は、あの……おし、おしっこの色を変える能力だったと聞いてますけど……」

「それも、正しくは『液体を別の物質に変換する能力』ですよ」

 彼女は何故か自慢げな口調で言った。

「例えば、どんな汚れた水でも綺麗な水に変えられましたし、強力な毒薬や、どんな状態からでも全回復できるポーションを生み出す事もできた筈です。その気になれば、湖の水をまるごと溶岩に変える事もできました。

 上手く生かせば、世界を変える事ができた力です」


 そうであっても、どちらもゴブリンの女王としては使いどころが難しいだろうに……。

 それに、適切な使い方をきちんと説明しなかったから、過去のゴブリリ女王は悲惨な目に遭ったのではないだろうか。どうも信用できない。

 しかし、ここは文句を言っている場合ではなさそうだ。過去のゴブリリたちの事より、まずは自分がどうなるのかを確認しないといけない。


「……それで、わたしには、どんな『スキル』を授けていただけるのですか?」

 そういうと、女神?の表情がぱあっと明るく輝いた。

「良く聞いてくれました! あなたにも、すばらしい力が用意されていますよ」

「本当ですか?」

「ええ。これはすばらしい……本当にすばらしい能力です。歴代でも上位に入る、種族にぴったりの能力ではないでしょうか。ラッキーでしたね、大活躍できますね、この世界で無双できますね」

 笑顔で言う女神。だけど、軽い口調すぎて、全然言葉に重みがない。とはいえこれは、いい「スキル」が貰えるのだろうか。


「これは、種族の特性にぴったりのすばらしいスキルですね。本当にドワーフ向きの能力です」

「……………。

 あの~…… わたし、ドワーフじゃなくて、ゴブリンなんですけど……」



「……えっ?」


「……えっ!?」



「……ま、まあ、ドワーフもゴブリンも似たようなものですし……」

 暫くの沈黙の後、女神が、目を逸らしながら言った。全然違うだろう。

「それに、今更、変更もできないですし」

 さらっと、とんでもない事を言う。遅刻してきた?だけでなく、どうも、本来はドワーフ用の能力だったものを、手違いのまま与えられるみたいだ。これは期待できそうにない。



「気をとりなおして、発表しましょうか。あなたの力は……!」


「……………」

「……………」


「……………」

「……………」


「……………」

「……………」


「……………」


 「間」が長すぎる。

「……どこまで引っ張るんですか?」

「いや、折角の百年に一度の大イベントですし、盛り上げないと……」

「いいから早くして下さい」

 自分の運命が掛かった大事なイベントの筈だが、それよりも彼女に対してイライラする気持ちの方が高まってきた。


「それでは、改めて」

 彼女は、こほん、と空咳をしてから言った。

「あなたに与えられる『スキル』。能力は……」



「『採掘マイニング』です」

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