4−2

 海底では少女が何かを感じているのか、そわそわしていた。わたしはそんな彼女の元へ泳ぎ寄った。

「あなたの仲間たちが迎えに来た」と、少女に伝える。「予定より少し早いけど、わたしが海まで連れて行く」

 少女はコクリと頷いた。

 辺りにクラゲの姿はない。今はこちらに来ている余裕はないのだろう。

 少女の手を引き、泳ぎ出す。ショートカットからわたしの体へ戻り、海へ出る。当初の予定より、彼女が泳がなければならない距離は短い。その分わたしの負担は増えるが、泳ぎに慣れていない彼女を伴って情報空間を行くことに比べれば、成功確率は遙かに高い。

 だが。

 あと少しというところで、ポートに繋がるショートカットの光が消えた。そちらへ泳いでも、わたしは自室に置いてきた肉体へ戻ることができない。クラウスを呼び出す。

「ショートカットが消えた」

『その子を外へ出さないようにセキュリティが更新されたんだ。君のアクセスが検知されている』

 舌打ち。非損耗率が微減する。

代行意識プロキシで格納庫まで行って。そこのポートで合流する」

『了解。くれぐれも気をつけて』

「あなたも。わたしの体に傷をつけないで」

『善処するよ』

 それからわたしは、少女の方へ振り返る。

「事情が変わった。少し長い距離を行かなければならなくなったんだけど、泳げる?」

 少女は力強く頷いた。

 わたしも頷き返した。

 わたしたちは上昇する。

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