2−6
暗闇。
というより、感覚がない。
感覚がないことを感じる以外の感覚が。
〈わたし〉はどうにかここにいる。〈わたし〉を実感するわたしは、少なくとも。
ここはどこか。
どうしてここにいるのか。
思い出す。記憶を呼び起こす。
ここは。
わたしは、意識の脈動に合わせ明滅する発火体。
『起きて』
自分以外の声がしたかと思うと、途端に真っ暗だった辺りが、淡い彩りに変わった。赤から橙、緑、そして青へ。色の遷移が、断続的に繰り返される。
わたしは水中から水面を見上げている。その向こうに浮かぶ太陽のような光が、水に揺られる様を。
光に、黒点が生じる。数は二つ。黒点は見る見る大きくなる。ただの点ではなく、曲線を描き、いくつかの突起も現れる。
イルカに似ている。だが、どこかしなやかさに欠ける。どこか機械的で、固い。
尾鰭も縦に付いている。
サメ。
わたしはハッとした。
四肢の感覚が蘇る。わたしは身を翻し、量子の海を泳ぎ出す。
だが、体に力が入らない。手足を動かしても、思うように進まない。
非損耗率八十六パーセント。自認情報が足りない。意識の再構成こそできたものの、いくらかのパケットは流されてしまったらしい。
肩越しに振り返ると、サメは距離を詰めている。彼らは明らかにわたしを狙っている。
『こちらへ』さっきと同じ声が言った。
目の前に、青白い光で縁取りされた穴が現れる。背後からはサメの背びれが水を切る音が聞こえる。迷っている暇はない。わたしは穴へ飛び込んだ。
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